その理由があった。
三面ボルダーは「朝日スーパーライン」という道路の途上にあるのだが、
その道路は冬季には閉鎖されてしまう。
そして、新潟の冬は長い。
そう、11月のうちにはもう閉鎖してしまうのだ。
閉鎖の日時は年度によって若干誤差があるらしいのだが、
今年はどうも11月20日にはもう閉鎖されるという情報を得た。
その閉鎖日と自分の仕事のスケジュールを重ねると、
今日を逃してしまうともう、今シーズンに三面に行くことが事実上不可能になってしまう。
天気予報は「晴れのち雨」
十分勝負がかけられる予報ではあった。
どうしてもキングコングだけは登っておきたい。
やれば登れるというところまでは確実に来ているという実感はある。
雨が降る前に片づける。
その覚悟を持っていつもより少し早く三面へ。
到着すると気持ちのいい晴天。
これは雨など一日中降らないんではないかと思わされ、少し安心した。
結論から言うと、
登れました
キングコング(三段)
完登した後に手を見てみたら、恐らく後半のクラックパートでやらかしたんであろう、左中指の側面の皮がめくれて出血していた。
止血をしながら岩をブラッシングし、さて、時間は余っているし次は来シーズンのためのシシガミの練習でもしていようか、と思っていたら、なんとそこから雨がパラつきはじめた。
いやあ、ギリギリだったんだなあ。
正真正銘ラストチャンスの1回だった。
ともあれ、登れた。
多分、第三登。あるいは第四登くらい?
まあそれくらい。
隠れすぎた名作、キングコング。
今まで自分が登った三段の中でもベスト3には確実に入る面白さだった。
本当に名課題。
新潟のクライマー事情ももうかなり明るくなっている。
三段くらいのグレードを登れるクライマーはすでに両手の指なんかでは到底おさまらないはずだ。
そういったクライマー全員に登ってほしい課題だと思う。
小川山で静かの海とか幻の光とか狙ったり御岳で虫登ったりしてる場合ちゃうぞと、身近な岩場にこんなにも素晴らしい課題があるんだぞと、声を大にして言いたい。
今回自分がこの課題を登ったのは、もっと新潟のクライマーに三面ボルダーに目を向けてほしいという思いから、というのもある。
三面の課題はどうにも情報不足で(そこが岩登りの本質を突いていて良いとも言えるんだけど)、どうもメジャーな岩場の課題に比べて完登が狙いづらいと思われがちなんじゃないかと。
そしてキングコングにしろシシガミにしろ、完登者が偉大なるレジェンドだけに留まってること、他の岩場に比べてグレーディングが辛いという噂、そういった情報があいまって、三面ボルダーに行くこと自体がどこかしら敷居の高いことのように思われているんじゃないかと。
でもそんなことないぞと!
あえて凡庸なクライマーのうちの一人である自分が、
この岩場を楽しんで、こうして完登することもできているということを発信することで、この岩場に行きたいと思って欲しい、この課題をみんなにもトライして欲しい。
そういう思いを伝えたい。
そうは言ってももう今シーズンは道路が閉まってしまう。
来シーズンの開通を楽しみにしつつ、その時にはシシガミを登れる実力を身にけていられるようにまた修行しないといけない。
今シーズンの三面は終わった。でも来シーズンの三面に向けての準備もまた既に始まっているとも言える。