2019年10月6日日曜日

信頼と実績、或いは成長の実感


僕にとって「岩を登る」という行為は

自分の中の孤独を突き詰めていくという行為であると、そう思っていた。

岩と、自分と、あとは精々、虫と鳥くらい。

それだけが居る空間で、可能と不可能の境界に没頭する作業。

そういった時間に最も価値を見出していた。

しかしそれはそれとして、

仲間と共に楽しむクライミングもまた好きだし、

岩の魅力を他者に理解してもらいたいという欲求もまたある。

今日はそんな欲求のために、普段あまり岩に行かないクライマー達と共に

瑞牆へ。

結論から言うと今日の岩登りは個人的にもパーティとしても成功だった。

気候は穏やかで過ごしやすく、

誰一人怪我もなく、

全員が収穫と課題を持ち帰り、

最後には笑顔があった。


今日は通日、岩の魅力の案内役に徹しようと思っていたんだけど、

タイミングと行先が噛み合い、

かねてから登りたいと思っていた

千里眼(二段)をトライすることができた。

この課題は6年前(!!もうそんなに昔になるのか)
に一度触っており、その時は離陸だけでもできないという体たらくで、
長らく僕の中でこの課題は「とても不可能な課題」という位置づけにあった。

しかし時間の力は重い。


6年という月日の間のどこかで、不可能が可能に切り替わっていた。

いや、或いはこれは道具のおかげかもしれない。

今日も、離陸からランジの飛び出しまでは実力で持っていくことはできたものの、
最終的に完登を決定づけたのはやはり靴の力だった。

ソリューション、スクワマ、インスティンクトVSと靴を色々試してみたもののそのどれもでは今一歩強く蹴りだしきることが出来ず、リップを叩いては落ちるというのを繰り返した挙句、

ミウラーW'sに履き替えたら一発であっけなく止まってしまった。
明らかに踏み込みが違った。

なんやこの靴。チートやんけ。
また買うわ!

ということでまたひとつ愛靴ミウラーW'sの信頼と実績が積みあがったのだった。


2019年9月21日土曜日

神居古潭の梁山泊

新婚旅行で北海道へ一週間。

のんびりと観光だけを楽しむつもりだったけど、

やっぱり折角だから岩も登りたいという気持ちを抑えられず、一日だけ岩を登る日とすることにした。

当初の目的地はニニウの岩場だったけど、どうも前日に道を調べていると、
ニニウに至る北海道道610号占冠穂別線が通行止めになっているようで、

仕方なく逆方向の旭川方面へ。

第二候補ではあったけど、結局のところこちらにしても大正解だった。

岩場の場所は

旧神居古潭駅のある場所で、

駐車場に売店、トイレまで完備された立派な観光地でもあった。

旧神居古潭駅舎や、SLの車両まで飾ってあって、それを観るだけでも来る価値のある場所かもしれない。

そんな旧神居古潭駅舎からさらに10分ほどのアプローチで、
エリアのメイン岩であると思われる梁山泊に到着。

トポで「高い岩」ということは確認していたが、目の前にすると改めて高さを感じる。

中央の一番高いところは約6m。

地元クライマーの方がトップロープを張って練習していた。

その地元の優しいクライマーの案内もあり、色々な課題を登ることができた。

まず

ガンボルトSD(7a~7a+)

ここは何故か段級グレードではなくてフレンチグレードが採用されている。
なんとなく照合できるけど違和感があって、それがまた異国を感じさせて面白くもある。

次に登ったのは
ガンボルトキングSD(7b)
ガンボルトとラインは同じだけど。途中のムーブをランジに限定している課題。

曰く、この梁山泊という岩は、昔ジムが今ほど無い時代に、ジム代わりに多くのクライマーによって登られていた岩で、課題もただラインを指定したものだけでは飽き足らず、それこそジムのまぶし壁で課題を作るように、細かく使用するホールドを決めて作られた課題が多くあったとのこと。
このガンボルトキングなんかもその頃の名残。
今はもうトポで表せないような細かい限定のある課題は排除して、なるべくシンプルなライン取りの課題のみをトポに残すようにしているらしいが、昔は使用するホールド一つ一つすべてを指定したような課題もあったらしい。
なんとも興味深い話である。

次に登ったのは
モンキーフェイスSD(7b~7b+)


これは結構苦戦させられた。
外傾したホールドが多く、見た目よりストレスフルな動きを要求される。
色々ムーブを試行錯誤させられたが、最終的にしっくりくるムーブを一つ見つけたらあっさり登れた。
これは面白い。

次に、優しい地元クライマーさんが
「まだトポには載ってないんだけど」
と紹介してくれた

跳び熊(7a+)

羆嵐(7a+)

を登る。
「同じ7a+というグレードなんだけど明らかに羆嵐のほうが難しいと評判なんですよ」
と言われたが確かにそうだった。

跳び熊はジムで登りこんでる最近のクライマーならそう難しくないだろうが、羆嵐は岩にうまく体をはめ込む巧さとパワーを要求してくる。
どちらも良課題だった。

その後奥さんのトライのサポートとかをしつつ簡単な課題をいくつか登って終了。

夕方から雨が降る予定で、登っている間も湿度は80%。
宿のチェックイン時間の兼ね合いで滞在時間は4時間ほど。

そんな条件の中だったけど、面白い課題が結構たくさん登れて大満足。

奥さんは1個しか課題は完登できなかったけど、コロポックルっていう6a+(三級くらい)の課題を最後まで一生懸命打ち込んでて悔し楽しそうだった。
(コロポックルは僕もやったけどクラシカルな名課題だった。)

「観光も楽しいけど、岩を登った今日のほうが何倍も楽しかった!」
と言って貰えて、岩に来た甲斐があったと思う。

色々登って楽しかったというのもあるけど、
今回の旅では、優しい地元クライマーの方に出会えたということがかなりの収穫だった。

この梁山泊という岩が地元のクライマーにとってどのように登られてきたかの歴史であるとか、課題のライン取り、それぞれの課題の地元民からの評判など、有意義な情報をたくさん聞くことができた。

僕はボルダリングという行為を、より深い孤独を獲得するために有用な行為だと思っている。
でも、逆にこのように、土地も時間も遠いところに居るクライマーと「何か」を共有できる行為でもある。
岩を登るという単純な行為が、旅をより深く広くしてくれる。
なんとも素晴らしいじゃあないか。


2019年9月12日木曜日

映画「フリーソロ」を観て


散々話題になっている映画

「フリーソロ」

を観てきた。

この映画を観終わった後に僕の精神を襲ったのは大きな感動と歓心、それと嫉妬だった。

まず、この映画を観る以前に僕はアレックス・オノルドというクライマーに対して大きく間違ったイメージを持っていたということを白状しなければならない。

約1kmほどのフリーソロを達成するような人物は、
どこか頭のネジが吹っ飛んでいて、かつ、ほとんど人外の技術や体力をその身に修めているんだろうとばかり思っていた。

この映画を観るにあたって僕は
「超越した技術と体力を持った、何ものをも恐れない超人が繰り出す、神のような御業を拝見させていただこう」

そんな気持ちで映画館に足を運んだ。

だが実際にはアレックス・オノルドという人物は
埒外の超人でも、人外の精神を宿した半人半神のような存在ではなく、
ただただ「人間」だった。

この映画はそんな「人間」アレックス・オノルドをしっかりと描き切っていた。

アレックスは決して恐怖を感じないわけでも、死をなんとも思っていないわけでも、命がけのギャンブルを楽しんでいるわけでもない。

フリーソロを行う上でアレックスが抱えている葛藤や、積み上げた努力や、組み上げた方法論なんかは、全部が全部深く共感できる人間のそれだった。

僕自身、どちらかというとアレックスのような生き方に憧れを抱いている人間のうちの一人だ。

というか、
どんなかかわり方であれ、クライミングにそれなりの深さで「ハマって」いるような人間は、アレックスの生き方を理想に思わないはずがない。

でも、色々な考えがその生き方を妨害する。

安定、保障、幸福、平穏、安寧、評価、栄光。

「普通の人」が人生に求める多くのもの。

その多くのものを少しでもたくさん得るためには、どこかで「アレックス的な生き方」には見切りをつけなきゃならない。

(そしてその見切りをつけた自分を肯定するために「アレックス的な生き方」を否定する側に立ってしまうこともある)

勿論僕も、その、見切りをつけてしまって生きている「その他大勢の人間」のうちの一人だ。

アレックスがもっと超越的な人間なら良かったのにと思う。

なんの共感もできないクレイジーなぶっとび野郎だったらこんな風に嫉妬なんかしなかった。

でも映画の中のアレックスは驚くほど「人間」で、だから僕はその生き方や在り方に嫉妬してしまった。

劇中ラストでアレックスが完登したシーンは身体中が震えるほど感動したが、
その感動したという事実にまた悔しく思った。

「俺はいつから他人の成功なんかに感動するようになっちまったんだ」
と。

感動したいんだったら映画を観るんじゃなくて自分でそこを登りに行くべきなんじゃないかと。

他人の成功に便乗した借り物の感動なんかで満足するような人間なんかではありたくない。
そういう風な衝動を思い起こさせてくれたのもまたこの映画のおかげでもある。

アレックスがフリーライダーのルートを登る上でメモした情報の量は莫大なものだっただろうと思う。
何百手?あるいは何千手?の手順を恐らくほとんど全部メモに収めて、しかもそれを暗記していたようだ。
(フリーソロを)登るときは考えてない。考えることは事前に終わっている。自動操縦のように体を動かすだけ。と言っているが、それをなすためにどれくらいの時間と執念と理性と精神とを必要とするのか。

僕は今までボルダーにおいて結構「自分の限界に挑戦」をしてきたほうだと思っていた。
執念と時間をかけてひとつの課題に打ち込むほうだと思っていた。
「打ち込み系クライマー」を自称していた。
この映画を観た後だと「打ち込む」ってことがどういうことなのか、改めて考えなければならないと思わされる。


まだまだ書くべきことはたくさんあるような気がするけど、
とりあえずこのくらいにしておく。

映画のレビューというより自分のことばっかり書いてしまった。

とにかく、この映画はクライマーなら必ず観るべきだと思う。

クライマーじゃなくても観て面白いと思う。

この映画のラスト、フリーソロを完遂した後に監督のジミー・チンがアレックスに

「この後の予定は?」

と聞いて

「とりあえず懸垂かな」

とアレックスは答える

「今日くらいは休めよ」

と笑いながらジミーが言ってエンディングに入る。

僕も何か大きな目標を達成した直後に予定を聞かれたときに

「とりあえず懸垂かな」

と答えられるようなクライマーになりたい。

2019年9月6日金曜日

残暑お見舞いの下仁田

前回の更新からまるっきり二か月!

失踪したわけでも死んだわけでもありません。

まあ8月は仕事や私用でスケジュールがバッチリみっちり埋まっていたのと、暑さで岩どころではなかったのと、

あとなにより
新潟が誇るローカルボルダー
三面ボルダーが土砂崩れによってアクセスできなくなってしまったということ

が更新のまるっきり途絶えていた理由です。

三面については、ちょっと管理者に問い合わせたところ
2019年中の道路開通は絶望的
ということで

今シーズンの僕の輝かしい三面ライフは完全に失われてしまった。


とまあ消沈したりなんだりしていたけども

9月はちょっとスケジュール的に余裕が出てきたので

ハイシーズンに向けて
またのんびりと体を岩になじませていこうと思う。

まず第一弾として今日(9/6)は

下仁田ボルダー

下仁田を選んだ理由はまず単純に距離

新潟からだと御岳にいくより1時間ほど早い!

あと優しい課題が多そうだしランディングもよさそう。
(これは同行者の都合)

自分としてもほぼ初めて行く場所だし
(実は以前一回行ったことだけはあるんだけど、台風直後で水没してて泣きながらUターンして帰った思い出だけがある)
初見の課題をたくさん触ってエンジョイする気持ちで行こうと思っていた。

まあゆうてももう9月だし

コンディションもそう悪くないはず!

と意気込んで行ったものの・・・

まーだまだあっっつい!!

日なたでマット広げるともうマットの上は裸足ではとても乗れないくらい熱を持つ。

日陰ではまあまだマシだったので、まずは橋の下から。

橋の下はちょうど昼頃まで良い感じに日陰でになっていて、しばらくそこでだらっと過ごした。

マンナン太郎(初/二段)は登れたものの、
それより右側にある課題の足元が変な感じに水没してて、結局ここで登ったのはそのマンナン太郎と、あと、その左にある5級。
この5級が結構高さも動きもあって面白かった!


マンナン太郎、どうも後で確認するとみんなが登ってるラインと若干ズレがあるっぽいけど…
限定があるってわけでもなさそうだし細けえことはいいんだよ!の精神で行く。
これはこれで面白かったし、岩くらい好きに登らせてくれや!ってことで。

午後になると
タッキートラバース(初段)
の岩の辺りが日陰になっていたので移動。



うっかり1撃してしまったので、動画用に再登。逆光ひどいな。
この後この岩の3級と2級も登ったけど正直タッキートラバース含め全部グレード一緒くらいに感じた。タッキートラバースが易しめなのか他の3~2級がカラいのか…?

その後またちょっと移動して

今度は日野ランジ(初段)


これはぶっちゃけ苦戦した。
やっぱりランジは苦手ですわ。
なんとかスマートな飛び出し方は無いものかとあーだこーだ悩んだ後、上裸になって右手カチ持ちして声出したら行けた。
やっぱランジって気合だわ(確信)

んで、もう結構遅い時間だったけど
「1撃するからもう一個だけ登らせて」
って同行者に許可をとって

道化師(初段)を1撃。
得意な感じだった。
というよりこういうたぐいの課題はミウラーウーマン履いときゃなんとかなる。
上部ヌメヌメで実はかなり怖かった。

その後同行者の、あさイチでやって登れなかった4級課題のリベンジに付き合って(無事完登!エラい!)終了!


あーーーーーーーーーー!

岩!

たのしーーーーーーーー!

やっぱ岩登りって本当に楽しい!

そう再確認した1日。

2019年7月8日月曜日

灼熱の三面

主に雨とか雨とか、ほかにも雨とかによって1か月も岩を触っていなかったけども、

今日(7/8)

久しぶりに三面まで岩を触りに行くことができた。

三面ボルダーのある場所は、
まさにこの間の地震で強く揺れた地域にあり、
その地震がアプローチになにか悪い影響を与えていたりしなかったかと不安だったけど、
まったく問題なかった。

いつも通りの、綺麗な岩場だった。
強いて言うなら草木の背が高くなっていて少しアプローチで煩わしかった。
でもそれもまた自然を感じられて良い。

今日もかなり暑かった。

温度計をうっかり日向に置いていたらなんと40℃になっていた。
日陰でも28℃くらい。

ド灼熱!

なのでほぼ常に上裸でダラダラと過ごした。

誰もいない自然の中で上裸で半日過ごすというただそれだけで楽しいやつね。

その灼熱の中、

登れそうな岩を求めて歩き回り、また二本ほど初登

まずはコレ

プロキシ(1級)

この間初登した「子午線の祀り」の岩の左側のライン


ご覧のとおり、左側に落ちると水にジャボンである。

中盤のガバ地帯はかなり優しいけど、序盤の3手は結構ピリっとしている。

終盤変な方向にすっぽ抜けると入水の可能性も出てくるので緊張感は結構高い。
マントルは(動画では結構迷っているけど)リップ奥にしっかり保持できるホールドがあったので、それさえ発見できればそう難しくない。

恐怖度とかも加味してやっぱり1級くらいが妥当な気がする。


次は結構奥のほうで登れそうな岩を発見したのでそれを登ってみた。

クリーク(2級)

この岩は、シシガミの岩から上流方向に3~4分くらい歩いたところにある。
動画じゃあ隠れているが、ランディングに川が流れていて、小さな岩と岩に橋をかけるような感じでマットを敷かなければならないので、フォールすると結構バランス悪い着地になりちょっと怖い(でもうまくマット配置すればマットが濡れたりすることもないと思う)。

スタートは両腕を自然に開いたくらいの間隔で顕著なポケットホールドがあるのでそれを使用。
ほぼ一手目核心だけど、マントリングがぐいーっと手を伸ばす感じで気持ちいい課題。


他にも登れそうな岩をいくつか触ってみたけど、

簡単すぎて課題とも呼べないようなものだったり、
逆に途中から全然ホールドが見つからなくて登れず仕舞いだったりのものもあった。

初登ってやっぱり難しい。

難しいから、楽しい。

2019年6月4日火曜日

未知のマントル

長い長い閉鎖期間を越え、ようやく

三面ボルダーへのアクセスが解禁された。

今年こそはシシガミを登ろうと意気込んではいるものの、
なんだか最近自信が減衰している。

今日は久々に何の予定もない休日だったので意気揚々を三面に向かった。

三面の何が良いかって、そのロケーション。

緑が濃い。

エリアに行くまでの道中、ただそこをドライブすることだけを目的に行ったっていいとすら思えるような自然の中を行く。

今日は最高に天気が良く、緑が生き生きと映えていた。
こういう風景を普段から見るかどうかだけで人生の充実度って変わるんじゃないかと思う。

しかし暑い。

持って行った温度計を確認するとなんと

気温30℃(しかも日陰で)

灼熱の中、さぞかし岩場は虫の楽園と化しているかと思ったがそうでもなく、
暑いということ以外はそこそこに快適だった。

ともあれこの暑さでシシガミをトライする気にもなれず…

せっかくなのでかねてから登ろうと思っていた未登のラインを触ってみることにした。


この岩。

この岩はキングコングなどがある「ゴリラ岩」のすぐそばにあり(写真右に見えている岩がゴリラ岩の裏面)

写真の面は川に面しているんだけど、ちょうどその真下に、水平に近い形で岩があり、対岸から見るとまるで舞台のような形でランディングを形成してくれている。

なので僕はこの岩を勝手に石舞台岩と呼んでいる。

そのちょうど真ん中に直登できそうな感じにホールドが確認できているので、
いつか登ってみようとは思っていた。

ということで手を付けてみたが、

まあー怖い!

やっぱり初登って難しい。

既登のラインだったらそれは
「登れる」ということが少なくとも確定しているわけで、

でも未登のラインだとひょっとしたらホールドそのものが途中から全然無いかもしれない。リップがまるっきりつるつるで全く持てないかもしれない。

それでも地上からのオブザベを信じて恐る恐るだが手を出していくとなんとかリップまで到達した。

リップにたどり着いた時、リップの奥にまずホールドを探す。
何かカチの一つでも見つかればそいつで引きながらセーフティにトップアウトできるはずだが……何も見当たらず。

ここで降りるということはもう不可能。

仕方なくリップ際でマントルを返す。
先週小川山で優しいグレードのマントルを返しまくった経験が生きて、冷静に返しきることができた。

強度だけで言えばいつも登ってるハイグレードの課題と比べてかなり劣るが、
それよりも緊張感があったし、充実度もハイグレード課題の完登時に劣らない。

何故多くのトップクライマーが初登に拘るのか、その理由の片鱗が少しは見えてきたような気がする。

かの倉上慶大さんがこの動画の中で

「分からない一手を出すっていうのが冒険。分からないってものに挑戦していくのが。その冒険の一手一手をやっていて、いつの間にか岩の上に立っている」

と言っている。

真似できないメンタリティだと思っていたけど、今日の登りはそれに近い感覚を得ることができたように思う。


今回登ったライン。

課題名は「子午線の祀り」
グレードは「1級」



スタートホールドは右手カチ、左手は薄いカチポケット。

結構ガバ多いし、全体的な強度は2級くらいかなーとは思ったけど
出だしが結構悪いのと、あとは高さによる恐怖や危険度も加味して1級が妥当かと思う。

「いつか自分が初登してやったときには思い切り厨二くさい名前つけてやろう」と常々思っていたので、ひとつ夢が叶った。



その後、また岩を移動して3本簡単なラインを初登

幽寂(4級)(読みは ゆうじゃく)
・SD 右手三角形のポケット、左手カチでスタート。そのまま直上。
閑雅(3級)(読みは かんが)
・SD 幽寂と同じスタート。右にトラバースしていき、岩の真ん中あたりをトップアウト。
鳥声(5級)(読みは ちょうせい)
・SD ポケット状のガバスタート。途中からカンテを巻き込みトップアウト。
(カンテを使用せず直上すると4級くらいになる。その場合マントルが結構悪い)

この岩は道路からの急登を下りきると眼前真正面15mくらいのところにすぐ見える岩。
勝手に目の前岩と呼んでいる。

ゴリラ岩に行く前にちょっと寄り道も可能だし、アップ課題として登ってくれる人が出てくれるんじゃないだろうかと期待している。
それと、三面には難しい課題しかないから、という理由でここに来ることを避けていた新潟クライマー達が三面デビューを果たすきっかけの一つとして機能したら嬉しい。

そういう理由もあって、これらの課題を「無名(4級)」とか「カンテ(5級)」とかにはしなかった。

だって、なんか、わかるでしょ?
無名の3級とかより課題名ちゃんとついてる3級とか登れると嬉しかったでしょ?

「あの~小川山の~なんかエイハブ?って岩のちかくにあった小さい岩の~マントル課題の3級のやつ登れました~」
って言うよりも
「塩原の『桜』登れました!」
って言うほうが胸張れるしモチベーションも上がるでしょ。

そんな、ただの名前のない「4級」とか、
いかにも「強いクライマーがただアップか暇つぶしのためになんとなく登りました」みたいな雰囲気じゃん?

だからもう必要以上にカッコつけて厨二くさい名前をつけてやった。


とりあえず今日登った課題はすべて動画を撮影もしているので以下に載せておく。


オンサイト狙いもしてほしいので一応ネタバレ注意ということで。












2019年3月28日木曜日

理想的な皮膚の水分量とは?――あるいはREACTの効能について――

「フリクションにおいて水分は悪である」
「手汗はかかないにこしたことはない」
「乾燥肌であるほど有利である」

クライミングにおいて、どうもそういう情報が多いが、僕自身はそういった説に否定的である。
というのは以前の記事で書いた通りだ。

以前の実験でも立証した通り、
革や木といった素材とホールドとの間においては水分はむしろフリクションを高める要因になる。
それが「人間の皮膚」という材質に限っては例外になるとは考えにくい。

しかし僕を含め多くの人が実感するとおり、過剰な水分はフリクションを弱める。

じゃあどれくらいの水分量がフリクションを生むのに適切なんだろうか?


まずはこんなものを購入してみた。

スキンチェッカー


肌の水分量と皮脂量を測定できる機械だ。


これでまず自分の皮膚の状態を測定してみた。

測定箇所は手の中指の第一関節より上の腹。

余談だけど
今僕の指の状態は結構酷く、
指の先端に近い腹の上半分はケロイドみたいな状態になっていて
その部分ではなんと測定が始まりすらしなかった。
なので測定は指の腹の下半分で行っている。

何度か計測した結果、大体
水分量35%/皮脂量35%
くらいだった。

あれ?意外と水分あるな!
というのがまず第一の感想だった。
自分は意外とそれほど乾燥肌とも言えないのかもしれない、と嬉しくもなった。
(それがぬか喜びだと後に気付くことになるのだが)

そしてふと気になり、
東京粉末REACT

を使用した後に測定を再度行ってみた。
すると

水分量45%/皮脂量24%

という結果に。
水分量が上がり皮脂量が減っている。

脂がフリクションにとって害だろうということは容易に想像できる。
そして適度な水分がフリクションにとって益であると僕は思っている。

ということは
REACTは皮膚をより高フリクションの状態に持っていく効果があると言えるのではないだろうか?


いよいよ気になってきたので、クライミングジム内でいろいろなクライマーに実験に協力してもらった。

実験は
①何もしていない状態で水分量/皮脂量をチェック
(測定箇所は中指の腹。測定タイミングはクライミング前)
②REACTを使用した状態で水分量/皮脂量をチェック
(REACTを4プッシュ程。手をゴシゴシと擦り、手を数十秒振り乾かしたタイミングで測定)

結果は以下の表の通り
(通常状態で、水分量40%未満は青く色づけし、60%以上は黄緑に色づけしている)




まず興味深いのは、
自称乾燥肌であったとしても、
水分量35%なんて低い数値はほとんど居ねーじゃん!ってこと。
「意外と水分あるな!」と思ったのは本当はそんなことは無かったということだ。残念。

そして中には水分量99%という驚きの結果が出ている人もいる。
こういう人こそが生粋のヌメラーと言えよう。

そして多くの人は大体

水分量50%皮脂量20%

くらいの数値に集中したということだ。

実験の際に軽くヒアリングしてみても、
水分量50%皮脂量20%に近い人の多くはフリクションについてあまり大きな悩みを抱えていないことが多く、
それを大きく下回ったり上回ったりしている人はフリクションについての不満を持っていることが多かった。

こうして見てみると、

水分量50%がひとつの基準となり、
それを10%以上下回っているようなら「乾燥手」
それを10%以上上回っているようなら「ヌメリ手」

と言ってしまっても良いのではないだろうか。


さて、
REACTの効能についてだが、見ての通り

水分量50%皮脂量20%付近の人には殆ど数値に変動が無い。

一方

水分量が35%程の人は水分量が増しているし、
水分量が70%以上の人は水分量が減少している。

皮脂量についても、
30%を超えているような場合、REACT後に減少している。

このことから、

REACTは
手の状態を水分量50%皮脂量20%に近づけるような効果があると言えよう。


さて、

今回の実験の結論としては

・水分量50%皮脂量20%が一つの基準値となる。
 (→これくらいが最もフリクションが安定する?)
・REACTは手の状態を水分量50%皮脂量20%に近づける。

の二点が言える。

REACTは極度の乾燥手、極度のヌメリ手の人にとっては、
汚れを落とすという効果以上に、皮膚の水分量皮脂量を正常化させる効果を強く感じられるはずだ。

じゃあ正常な皮膚の人にはREACTは洗浄液以上の効果は齎さないのか?
ということだがそういうこともないだろう。

今回はほぼ全員ジムに入館した直後、クライミングを始める前に計測を行った。
そのタイミングでは50%20%に近かったとしても、
登っているとすぐに水分量が増してしまうというタイプの人もいるだろうし、
登ることで乾燥してしまうという人もいるだろう。
(自称ヌメリ手、乾燥手にもかかわらず数値が50%20%に近かった人たちは恐らくそういったタイプなのだろう)

状態が悪いほうに変化したタイミングでREACTを使用すれば、皮膚の状態を「普段の自分の正常値」に近づけられる。

なので「普段は水分量50%皮脂量20%に近いけど登ると数値が大きく変動してしまう」という人にも恩恵があるはずだ。
(そして恐らく殆どの人がそうだろうと思う)

スキンチェッカーは安いものなら安いので、
フリクションに気を遣うクライマーの皆さんは是非試してみて欲しいと思う。

岩に行って「なんか今日は指の状態が悪いなー」と思ったら水分量をチェックしてみて、
極度に乾燥していたら多めにREACTをプッシュしてみるとか、
かなりヌメってきたと思ったらやはりREACTを使ったりチョークを変えてみたり。

それに、チェックしてみて水分量50%皮脂量20%だったとしたらもう「指の状態悪くて―」という言い訳も自分に出来なくなって必死で頑張ろうという気にもなるだろうし。

この「言い訳の余地を無くす」っていうのは限界を攻める時には結構重要だと思う。

良い結果が出ない時は、指の状態とか、シューズの相性がどうとか、天気がどうとか、
そういう言い訳の余地があるとつい人は失敗の原因をそいつらになすりつけがちだ。
そうするとなんとなく本気を出せなくなる。

僕がフリクションを結構気にするのはそこだ。

本当はそんなに神経質にフリクションがどうこうなんて気にしたくは無い。

でも「出来ないっ!」っていう状況になった時に一番言い訳の逃げ道に使いやすいのがやっぱりフリクション。

だから「フリクションが良い状態」っていうのをきちんと保つ術があるならちゃんとしておきたい。

そうすれば、登れなかった時に、きちんと原因を「自分の実力のせい」にできる。きちんと気持ちよく敗退できる。

まあ、

フリクションが良かろうが悪かろうがそんなものに成功失敗の要因をなすりつけずに、
いつでもきちんと敗退を受け入れる精神を養えればそれが一番良いんだろうけど。