2021年9月17日金曜日

クライミング早押しクイズ全50問 第二弾(難易度UP)

以前公開した

クライミング早押しクイズ

が中々好評だったので、それに味を占めてまたしても50問

クライミング早押しクイズを作ってみました。


前回は

『クライミングを趣味として楽しんでいる人なら「問題を最後まで聞けば」大体答えは分かる』

というコンセプトで作成したんですが、今回はちょっと難易度を上げて、

「クライミング関連知識の有無」によって勝敗が分かれるように画策しました。


ホームジムの人たちに出題したところ

「全然わからん」

で無回答スルーが頻出してしまい、かなり反省もありました。

『難易度を上げるほど楽しめる人間が減る』

というのはクライミングのルートセットと通じるものもあり、ある意味仕方のないことかもしれませんが、そこをうまく両立したバランス感覚を持っているというのが、腕のいいセッターの条件のうちの一つなんでしょう。

クイズという土俵で難易度を上げつつ楽しませるというのを両立するのは今の自分にはまだまだ難しいです。


今回の難易度的には

「『ROCK & SNOW』を毎号読んでいるくらいの人」であれば大体解けるでしょう、といったくらいです。

早押しクイズ的と言うよりは、最後まで問題を読んだ上でそれを知っているかどうかという問題も結構あります。

ある意味前回よりもブログ記事向きですね。

何問解けるか挑戦してみて下さい。


ではいきます

(正解は問題の後に黒塗りになってます。文字を選択して反転すると読めるようになるはずです)


問1

クライミングのムーブ「サイファー」はこの人物が同名の課題を初登した際に繰り出した動きが由来であるとされる、ジェリー・モファットと共に1980年代から1990年代のイギリスクライミング界を牽引したクライマーは誰でしょう?



ベン・ムーン


問2

その名はイタリア語で「立方体」を意味する単語に由来する、2本締めベルクロと快適な足入れ性能が特徴的な、LA SPORTIVAが2021年に発売したクライミングシューズは何でしょう?




KUBO(クボ)


問3

「地球上にある最高のマテリアル、最高の技術、そして革新的なデザインで商品を作り上げること」をコンセプトにしている、始祖鳥にちなんだ社名とロゴを持つカナダのアウトドア用品メーカーは何でしょう?




アークテリクス


問4

2016年に左肩を手術しシーズン後半を棒に振ったが、2018年にはボルダリングワールドカップ第6戦で優勝を勝ち取るなど見事な復活劇を見せた、高い実力と屈強なフィジカルを名前に掛けて「つよすぎもと」と呼ばれることもある日本のプロクライマーは誰でしょう?




杉本怜


問5

クライミングホールドで、主にM10ボルトによって壁に固定するものを「ボルトオンホールド」と呼ぶのに対し、コーススレッド等の木ネジで壁に固定する方法をとるホールドのことを「何オンホールド」と呼ぶでしょう?




スクリューオンホールド


問6

マムートの「ギャラクシー」エーデルリッドの「パイトン」ベアールの「タイガーユニコア」といえば、何というクライミングギアの商品名でしょう?




ロープ


問7

クライミングギアやロープの安全基準を定め、これに適合するロープに認定マークを与えている世界的組織をアルファベット4文字の略称で何というでしょう?




UIAA


問8

ワイヤーゲートカラビナにはこれが起きにくいという利点がある、ロープの摩擦などによる震動でカラビナのゲートが瞬間的に開いてしまう現象のことを何というでしょう?




ウィップラッシュ現象


問9

フィンランドのクライマー ナーレ・フッカタイバルによって初登され、ボルダリングの課題として世界で初めてV17というグレードが提唱された課題の名前は何でしょう?




Burden of Dreams


問10

2021年現在の男子スポーツクライミング界においてリードクライミングの「ビッグ3」と呼ばれているのは、チェコのアダム・オンドラ、ドイツのアレクサンダー・メゴスと、あと一人は誰でしょう?




ヤコブ・シューベルト


問11

東京オリンピックに兄弟揃ってフランス代表として出場した、スピードクライミングを得意とする兄バッサとボルダリングを得意とする弟ミカエル、二人のファミリーネームは何でしょう?




マウェム(MAWEM)


問12

別名で「ブーリンノット」とも呼ばれる、結びやすさとほどきやすさからかつてメインロープをハーネスに接続する結び方としてスタンダードな方法とされていたが、不意にほどけてしまう事故が頻発したことで現在クライミングシーンでは使用されることが少なくなったロープの結び方を日本語で「何結び」というでしょう?




もやい結び


問13

そのカラビナが「HMSカラビナ」の基準に適合している場合、本体のどこかに◯で囲まれた形で刻印されている大文字のアルファベット1文字は何でしょう?




H


問14

エイトノットの応用的な結び方で、結び目から先に二股のループを作ることができる結び方のことを、耳の形が特徴的なある動物の名前を用いて「何ノット」というでしょう?




ラビットノット


問15

しばしば「カウンター」や「ダイアゴナル」と混同される、クライミングにおいて体が壁に対して横向きになっている姿勢のことを、体が壁に対して正面を向いている「正対」に対して漢字二文字で何というでしょう?




側対


問16

キャッチーな見た目の大型クライミングホールドを数多く製作している、日本では俗に「サブロク」と呼ばれることもあるスロベニアのクライミングホールドメーカーの名前を一般的な英語読みで何というでしょう?




スリーシックスティホールズ(360HOLDS)


問17

クライミングシューズ名の表記で「レグルスLV」「ドラゴLV」「ドローンLV」などという時の「LV」を略さずに言うと何というでしょう?




low volume


問18

「RX」「V3」「BLACK」など特徴的なネーミングの商品も販売している、東京都東大和市に本社工場を構えるクライミングチョークブランドを何というでしょう?




東京粉末(TOKYO POWDER INDUSTRIES)


問19

粉末状のものと砕けた固形のものが混在した状態のチョークのことを、「かたまりの入った」という意味の英語を用いて「何チョーク」と言うでしょう?




チャンキーチョーク


問20

そのブランド名はリードの5.14aあるいはボルダリングのV14をフレンチグレードに換算したものと同じである、日本では有限会社セブンエーが輸入販売を行っているオーストリアのクライミングアパレルブランドは何でしょう?




8b+(エイトビープラス)


問21

極めて薄くのっぺりしたクライミングホールド全般の代名詞にもなっている、カナダのクライミングホールドメーカー「Teknik」が販売している、英語で「影が無い」という意味の名を持つホールドシリーズを何というでしょう?




No Shadow


問22

表紙のサブタイトルは「これからのクライマーのためのクライミングマガジン」である、山と渓谷社により『ROCK&SNOW』の姉妹誌として2008年に創刊されたが2017年に休刊となっている、初心者から中級者をターゲットとしたクライミング専門誌のタイトルは何でしょう?




CLIMBING joy


問23

起こりやすい例としてはホールドの破損やゆるみ等がある、クライミングコンペにおいて登っている選手自身の行動によらずその選手に不利または不公平な結果が生じてしまうことを「何・インシデント」というでしょう?



テクニカル・インシデント


問24

尺八奏者としての竹号は「龍心」であり都山流准師範の免許状を所持している、小川山の「覚醒」第2登や瑞牆山の「千日の瑠璃」初登といった功績で知られる群馬県出身のフリークライマーは誰でしょう?




倉上慶大


問25

フリークライミングのルート図「トポ」とは何という言葉を略したものでしょう?




topography(トポグラフィ)


問26

初登時はV16とされたが現在はV15にグレードダウンされている、2004年に小山田大によってUnderSiege(V14)とCaveRave(V13)をリンクさせる形で初登された、オーストラリア・グランピアンズのホロウマウンテンケイブにあるボルダリング課題の名前は何でしょう




The Wheel Of Life


問27

キャンパスボードはこのルートを登るために開発されたと言われている、1991年にヴォルフガング・ギュリッヒが初登し、世界で初めて 5.14dというグレードがつけられた、ドイツ・フランケンユーラにあるスポートクライミングルートの名前は何でしょう?




Action Directe


問28

これをやった時点でフリークライミングではなくなる、ロープを手で掴んで引き上げて登っていく行為のことを、ある作物を地面から引き抜く様子に見た目が似ていることから俗になんというでしょう?




ごぼう


問29

フィストより広く、チムニーよりは狭い中途半端なサイズのクラックのことを、常識から外れたサイズの幅であるということから英語で何というでしょう?




off-width(オフウィドゥス)


問30

兵庫の北山公園、京都の笠置、茨城の笠間などにあるボルダーの岩質は概ねこれである、英語名を「granite」という深成岩の一種を日本語名では何というでしょう?




花崗岩


問31

トップページには「クライミングをもっと考えたい全ての人へ」という一文が掲載されている、東京大学卒業という経歴を持つクライマー植田幹也によって運営されているクライミングブログは何でしょう?




Mickipedia


問32

アイスクライミングでは必須テクニックだがロッククライミングで使用されることは稀である、片方の腕に対角側の脚を絡めることで疑似的に足場を作り出すテクニックのことを、その体勢が数字の4の形に似ていることから何というでしょう?




フィギュア4


問33

株式会社B・S GROUPが販売している、クライミング用の他にバスケットボール用やポールダンス用などといったバリエーションもある、研磨剤にも利用されるアルミナという成分によってフリクションを生じさせることが特徴的な滑り止めは何でしょう?




PD9


問34

日本のボルダリングエリアで、「元祖笠置」という名前の課題があるのは、京都府の笠置町と、岐阜県の笠置山のどちらでしょう?




京都笠置


問35

岩場では御手洗の「ククゼン(五段)」初登の他、五段クラスの高難度課題を数多く登る一方で、本業は片手懸垂師であると自称するほど片手懸垂を得意とする、「J」の愛称でも知られるクライマーは誰でしょう?




柴沼潤


問36

ボルダリング課題のグレードで、「小川山ジャンプ」は三段の課題ですが、「笠置山ジャンプ」は何段の課題でしょう?




初段


問37

世界初のプーリー付きカラビナ「リボルバー」や、アタッチメントポイントに軸を設けたビレイデバイス「ピボット」といった特徴的な製品でも知られる、高度なホットホージング技術により世界最高品質と名高いカラビナを国内生産している、イギリスのクライミングギアメーカーは何でしょう?




DMM


問38

クライミングシューズメーカー・アンパラレルが現在使用している4種類のクライミングシューズ用ラバーとは、RA、RH、RSと、あと一つは何でしょう?




VD(VIRTURAL DEMPING)


問39

デザインから生産までフランスの自社工場で行われている、上級者向けモデルの「アパッチ・ライト」や快適性の高いスリッパモデルの「パンテラ・ライト」などの製品があるクライミングシューズメーカーは何でしょう?




ANDREA BOLDRINI


問40

日本ではイボルブ・ジャパンが輸入販売している、スパイシーな香りの「Fire」ミントの香りの「Ice」ラベンダーの香りの「Flower」といった香り付きチョークや、ハンドクリーム「クライミングサルブ」を販売しているアメリカのブランドは何でしょう?




Joshua Tree


問41

成分に花蜜が含まれているため舐めるとほんのり甘い、その名の通り手の平に摩擦を追加するためにチョークアップ前の下地として使用する、日本人クライマーが個人開発したクレイタイプチョークの商品名は何でしょう?




ADD FRICTION


問42

ボルトが既に打たれているスポートクライミングにおいてはそれもレッドポイントとして扱われる、トラッドクライミングにおいて事前にプロテクションがセットされた状態で完登することを、ある色を用いて「何ポイント」と言うでしょう?




ピンクポイント


問43

5.15a以上の難易度と言われているディープウォーターソロルート「Es Pontas」をはじめ数多くの高難度ルートの初登に成功している、日本では「The Two Monks」や「Wabisabi」等を初登したことでも知られる、アメリカのプロフリークライマーは誰でしょう?




クリス・シャーマ


問44

フリークライミングにおいて、何の情報も無しに初めてのトライで完登する事をオンサイト、他人の登りを見た後に初めてのトライで完登することをフラッシュと言いますが、他人の登りを見てはいないが手順などの情報を知った上で初めてのトライで完登することを何というでしょう?




ベータフラッシュ


問45

現在は京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地球惑星物質科学講座に所属している、「The Story of Two Worlds」や「Lucid Dreaming」などV15以上のグレードの課題を数多く完登するほか、日本最大の落差である称名滝のフリーソロにも成功しているクライマーは誰でしょう?




中嶋徹


問46

かつては「K点」や「ボーナス」と呼ばれていた、ボルダリングコンペにおいて、課題を完登できなくてもそれを保持することで成績に考慮されるポイントを獲得できるホールドのことを何というでしょう?




ゾーンホールド(ゾーン)


問47

アリヨッシャ・グロムがシェイパーを務める、一般的なクライミングホールドの他「ローリーボール」や「ローリーバー」といった個性的なトレーニング用ホールドを製造していることでも知られる、四つ葉のクローバーのような見た目のロゴも可愛らしい、スロベニアのクライミングホールドメーカーは何でしょう?




Lapis


問48

そのブランド名は「石に夢中」という意味である、かつての名作「ベリコパンツ」を模した「ボルダーパンツ」を販売していることで知られる、Edge and Sofaオリジナルレーベルとして2018年に立ち上げられたクライミングウェアブランドは何でしょう?




Stone Bum


問49

クライミングの開拓スタイルで、所謂「グラウンドアップ」のことを「カリフォルニアスタイル」と呼ぶのに対し、上部からロープを垂らしてボルト設置などを行なう所謂「トップダウン」のことを「何スタイル」と呼ぶでしょう?




フレンチスタイル


問50

ミウラーシリーズ発売20周年を記念した限定モデルで、アダム・オンドラのシグネチャーモデルにもなっている、2017年に発売されたLA SPORTIVAのクライミングシューズは何でしょう?


MIURA XX(ミウラーダブルエックス)


以上です

クライミングしたことない人からしたら謎でしかない言葉ばかりだと思いますが。

クライミングマニアには簡単すぎましたかね?


誤字脱字チェックやファクトチェックは一応しっかりやってるつもりですが、ところどころ問題に不備があるかもしれません。

気づいた方はコメントで教えていただければ嬉しいです。

2021年9月13日月曜日

UNPARALLEL『フラッグシップ』レビュー(のようなただの感想文)

「ポストチーム5.10」を探す作業も遂に終わるはずだ。

そういった期待を込めて購入したアンパラレル・フラッグシップ。

(ゼニストは、うん、だめだったよ。悪い靴じゃなかったけど自分にはフィットしなかった)


数か月使用してみたので、今回はそのフラッグシップの使用感を書く。


結論から言うと、「ポストチーム5.10」としてこの靴は充分機能してくれるだろう。

(『だろう』というのはまだ岩では十分に使用できていないからだ。ファッキンコロナ)

それくらいこの靴は高性能で「登れる靴」に仕上がっている。

切り札の一つとして常時1足手元に置いておいて損は無いと思う。


まずカタログスペックからして面白い。


トウラバー・ヒールラバー・ソールラバーにそれぞれ異なるラバーを使用し、

それぞれのパーツを独立して目的ごとに最善のカタチを目指して作り上げようとしているようだ。


なんというか、ひとことで言うと

「ぼくのかんがえたさいきょうのクライミングシューズ」

を本気で実現しようとしてみた靴、といった感じ。

もう、こういうコンセプトで靴を作ろうを思ったこと自体が冒険的であり、それだけで評価できる。

これは性能が低いわけがない。


ROCK&SNOW 93号の『シューズテスト』において3人のテスターが全員満点をつけたというのも納得だ。


この靴を、ヒールフック性能、エッジング性能……などと項目を細分化させ、数値的に評価していくとしたら満点に近い高得点をつけざるを得ない。


しかし

そこで視点を少し引いて『靴』全体のバランスを感じた時、ちょっとした違和感が生じる。

「あれ?こんなもんなのか?」

と。


パーツパ―ツのスペックを見た時にはそれぞれが最高峰であるにも関わらず

それを『ひとつの靴』としてまとめ上げた時に、それぞれの機能が相乗的に高め合っているとは言えず、

むしろその魅力をやや損ないあっているのでは?とすら感じさせられる。


喩えて言うなら「カツカレー」

トンカツとかいう最強に美味い肉料理をカレーとかいう最上に美味い料理に乗せるんだから不味いはずがない!

でも、あれ?食ってみるとこんなもんか……いや、美味いことは美味いんだけどね?

カツ(美味さ1800)カレー(美味さ2000)が融合したんだから

カツカレー(美味さ4500)くらいになるんじゃね?と思っていたのに

実際はカツカレー(美味さ2700)くらいに落ち着いちゃってる、みたいな。


スペシャリストとしてのパーツ

この靴において

ヒールラバー及びその周辺の形状は「ヒールフック性能」を高めることばかり考えて作られているし、

トウラバー及びアッパーの構造は「トウフック性能」を高めることばかり考えて作られているように感じる。


例えば

ホールドをエッジングした際に、捉えた力をスムーズに体幹部へ送り届けるための「受け」としての機能が、このヒールはちょっと弱い。

ホールドをエッジングした際に、爪先の剛性を高めるための役割を、このトウラバーはあまり担っていない。


それぞれ素材の異なるソールラバーとヒールラバーを繋げる部分が弱く、靴の前半部と後半部が構造的に分断されている。

土踏まずあたりに剛性が無く、ペコペコと簡単に曲がる。

勿論それを「自由度がある」と評価することもできる。

ただスポルティバのP3システムや、ミウラー等のワンピールソールの安定感に馴染んでいる人(僕です)にとっては

強く踏み込んだ時に頼りなさを感じてしまう。

このあたりはチーム5.10のほうが良かったと思う点でもある。

トウフック性能もヒールフック性能もチーム5.10よりフラッグシップが上ではあるが、

細かいホールドに体重をかけて踏み込んだ時の靴全体の一体感や安定感はチーム5.10のほうが上だったように感じる。


これはヒールフックをかけた時にも若干感じるものがあって、

スポルティバ系の靴でヒールフックをかけた時は「靴全体」でホールドに対して力を加えているような感覚があるが、

フラッグシップの場合はヒールのパーツだけがかかっているような感覚になる。

まあでも、かかっていることは確かで、それこそチーム5.10と比べれば圧倒的にヒールフック性能は良い。


ROCK&SNOWのシューズテストでもそうだが

シューズを評価する時の「エッジング性能」というものの定義はかなり曖昧で、

それが

①「体重が抜けた状態でも細かいホールドに引っかかってくれる能力」なのか

②「細かいホールドに踏みこんだ時にしっかり食い込んで安定してくれる能力」なのか

③「細かいホールドに全体重をかけた時にしっかり体を持ち上げてくれる能力」なのか

①~③が全てバランスよく備わっていることなのか……

そのあたりをしっかり定義して話している人は少ないと思う。


フラッグシップに関して言えば、①②の能力はかなり高いが、③の能力はやや低いと感じる。

③の能力はどちらかといえば「エッジング性能」として語られることは少なく、また、そこに分類することに違和感もある。

あえて名前を付けて呼ぶとしたら「立ち込み性能」とか「乗り込み性能」「踏み込み性能」といったほうがいいだろうか?

そしてROCK&SNOWのシューズテストの項目にそれは無い。


上級者にとっては③の能力は靴に不要だという考え方もあるかもしれない。

履いた人自身の足指や足底筋の強さによってそれはカバーすることができるからだ。

それよりも「ソールのフリクション」という自分の力でどうすることもできない単純な物理的効果をシューズ側には強みとして持っていて欲しいと思うのも尤もだ。


エッジングにしてもヒールフックにしても、この靴は「ひっかかってすべらない」ところまでは合格点以上の性能でやってくれる。

ただしそこから「体を持ち上げる」という行為はあなた自身でやってくれといった主張を感じる。


体重も重めで手で引く力も弱い(要はザコな)僕のようなクライマーからすると

そのあたりにもう少しサポートが欲しくなってしまう。


スポルティバのP3やスカルパ・フューリアシリーズのテンションラバーのような、セパレートソールでも靴の前半部と後半部の一体感を高める工夫をしてくれれば嬉しかった。


そういえばこの靴はアンパラレル初のセパレートソールの靴だ(そうだよね?違ってたらすみません)

5.10の時代でもセパレートソールの靴って無かったような気がする。


ひょっとしたら、メーカーとして、セパレートソールでの靴全体の一体感を作る構造というのはまだ模索している段階なのかもしれない。


しかしトウフックに関しては文句のつけようがない。

土踏まず付近が簡単に曲がるため、足を甲側に反らせやすい。

トウフックに関しては靴の前後の分断が完全にプラスに働いている。


こうなるとやはりこの靴の前後の分断は「やむを得ず」ではなく意図的に作られたものなのかもしれないとも思わされる。


靴の一体感や安定感といったものや、体を持ち上げてくれる性能といったものはトップクライマーは求めておらず、それよりもフッキングやエッジングを自在にコントロールできる自由度を求めており、その声に応えた結果であるということなのかもしれない。


いずれにせよ、やはりこの靴は「上級者用の靴」なのだということを思わずにはいられない。


足入れとベルクロ

これはフラッグシップに限らずアンパラレルの靴全般に言えることだが

とにかく履き口が狭い!

狭いうえにフチの処理が固いのでけっこう痛い。

足を入れてしまえばそこそこ快適なサイズなのに履くときに苦労してしまう。


これは、いくら「サイズを攻めるな!」と言っても相変わらず攻め続けるクライマーが多いから攻めることができないようにワザとやってるんじゃないだろうか?


さすがにそんな意図ではないと思うが。


恐らくこの口の狭さは、スリッパタイプとして履いた時の想定で作られており、メーカー側がベルクロの拘束というのをあまりアテにしていないということなんじゃないかと思う。

実際にこの靴をベルクロを締めずに登ったとしても、ベルクロを締めて登った時に比べ踏み込み時の力の逃げが特段大きくなったように感じない。


靴全体の剛性を、ベルクロ込みではそんなに計算していないように感じる。

「スリッパモデルとしての完成形」を作ったうえで、ベルクロを後からつけましたといった感じ。


ここで比較対象としてセオリーのベルクロを見てみるが、

セオリーのベルクロはその付け根が靴の構造体と広く密接な関係を持っていて、ベルクロを締めることで足首全体が包まれるようにサポートされる。

逆にベルクロを締めずにいる状態だと踏み込んだ時に足の甲の付け根あたりから力が逃げていくのを感じる。


フラッグシップのベルクロはそういった構造ではなく、ベルクロはベルクロでほとんど完全に独立している。

セオリーのベルクロはなんとなく広い「面」で抑えているように感じるのに対し、フラッグシップのベルクロは「線」で抑えられているような感覚だ。


セオリーはベルクロを締めることではじめて「きちんと履いた」と言えるが、

フラッグシップは、まずスリッパタイプの靴として「きちんと履いた」あとに、補強のためにベルクロを締めるといった感じ。


フラッグシップのベルクロは「構造上絶対に必須!」というものではなく、安心感を確保するための保険みたいな役割が大きいように感じる。


これは完全にただの推測なんだけど、本当はこの靴、ベルクロを付けたくなかったんじゃないだろうか。

でもハイエンドシューズにベルクロが無いってのはどうかな?という理由や、テスターの要望に応える形でつけられたものなんじゃないだろうか。


このあたりは好みの問題もあると思う。

そもそもスリッパタイプの靴が好きでベルクロで足を拘束するということに違和感を持つタイプの人は、セオリー的な構造よりもフラッグシップ的な構造のほうを好むかもしれない。


個人的な好みを正直に言うと、この履き口とベルクロ周辺の作り方はあまり好きではない。


「カツカレー」はそれでも美味い

かなり長くフラッグシップに対する不満点をつらつらと並べてしまったが、

冒頭でも述べている通り、僕はこの靴を切り札の一つとして常時手元に置いておきたいくらいには評価している。


逆にここに書いていること以外には不満点はほぼ無いということでもある。

良い点を挙げるよりも悪い点を挙げたほうが早いということでもある。


「全体のまとまりのなさ」のようなものについて述べたが、それもまた一種の個性であり、

各パーツの各性能を最強にしてやるぜ!っていうまるで素人の妄想のような代物がきちんとした形で1個こうして完成したということ自体素晴らしい。

そして実際に各パーツの各性能がバッチリ高いことは間違いない。


この靴は多くのクライマーにとっても非常に有益な武器になると思う。

たとえ完璧な調和がとれていなかったとしても、カツカレーってのはそれだけで美味いのと同じように。