2021年2月2日火曜日

【evolv zenist】イボルブ ゼニスト レビュー

・はじめに

まず見た目に惹かれたのと、ずいぶん長い間コレといったものが見つかっていない【ポスト「チーム5.10」】の候補としてゼニストを発売日直後に購入した。
大体1
週間くらいジムで履きこんでみたので使用感などをここに記す。


 ・サイズ感

筆者の足サイズは登山用品店の靴売り場によく置いてあるsirioのスケールで測ると24.5弱。


試着できる店が近所に無いのでサイズは公式HPのサイズチャートを頼りに勘で選んだ。 US6.5とUS6で迷ったがUS6(24cm)を購入。 
(サイズを二択で迷った時は小さい方を選ぶことにしている。何故なら小さい靴を大きく伸ばすことはできても大きい靴を小さくすることはできないからだ)
現在のメインシューズはスポルティバセオリーのEU36。
ゼニストはUS6でセオリーのEU36よりやや小さいくらい(スポルティバの35.5相当?)



新品時はかなりキツく感じるが、3日間慣らしたら普通に履けるようになった。
公式で「幅広甲高」を謳っているが、新品時の足入れではむしろ幅は狭めに感じる。
小指側のカーブ角度が結構きつい。
「幅広甲高」の謳い文句に、同メーカーのシャーマンと同等の広さを期待したがそこは全然別物だった。
トウボックスが幅広甲高の形状をしているというよりはむしろ、靴全体が柔軟な作りのため「慣らし」によって簡単に自分の足型に変形させられるという印象。
1日2時間の慣らしを3日もやればかなり伸びる。
後述する踵の浅さ問題もあり、新品時はもうハーフサイズ上げるべきだったかとも思ったが、慣らしてくるとこのサイズで良かったと思う(これも後述)。


・足入れ、履き心地

履き口がやや狭く、新品時は足入れが難しい。
また、足を入れる際にタンのふちが内側に丸まって入り易く、履いた後にその丸まりを解消するのにひと手間かかる。



慣れてくるとなるべくタンを丸まらせずに履ける様になってくるが、油断するとクルっと入ってきてうっとおしい。
一度足を入れてしまえば履き心地としては快適。
足入れの際うっとおしかったタンふちの形状も履いた際の快適性には一役買っている。
慣らしてしまえばどんな足型の人にもフィットする柔らかさなので、まずは我慢して3日履けばだれでもある程度痛み無く履けるようになると思う。
何度も履き脱ぎをするというよりはジムで長時間履きっぱなしにすることを想定した作りであるように思う。


・柔らかさ

既存のいわゆる「ソフトシューズ」に分類される靴と比べると
踏み込んだ時の剛性的な柔らかさは
【レオパード>チームvxi>ゼニスト≧フューリアエアー】といったところ
ソール厚が4mmとそこそこ厚いためvxiよりも足裏感覚に乏しい感じがするが
どちらかというとフューリアエアーのほうが親指に芯の固さのようなものを感じる。
ソール前面の中心部は新品時から柔らかく、指で押すと簡単に凹むほど。
エッジ部分は中心部に比べ新品時剛性があるように感じたが、3日ほど慣らしたらその硬さのギャップも殆ど感じなくなった。
エッジング性能に関しては、vxiよりは優れている感じがする。
靴の骨格的な剛性というよりは、足とのフィット感によって剛性を担保しているようなところがあるので、ある程度エッジング性能も確保したいと思ったらサイズはやや下げてもいい。
ただしやはりある程度の素の足指の強さは必要になる。
垂壁以上の角度で10mm程度の厚みのあるホールドへのエッジングはそう難しくないが、スラブで10mm以下のホールドに全体重を乗せろと言われたらやりたくない。
それくらいの固さ。


 ・TRAX SASラバー

ステルスで言うならHFあたりに近い印象。
ビブラムXSグリップ2よりは明らかに粘り感があり柔らかい。
ソフトシューズとして充分役割を果たせるフリクションだと思う。
ハリボテやボリュームに対するスメアリング性能はかなり高い。
ビブラム以外の、メーカーによるオリジナルラバーの中ではTRAXのクオリティはかなり高いと思う。


 ・踵形状

これはセオリーと比較するととてもわかりやすい。
トータルの深さ(高さ)はセオリー(結構深いと思っているヒール)とほぼ一緒
しかし、体感ではかなりゼニストの踵は浅く感じる。
これはサイズを攻めすぎたことに要因があるかとも思ったが、恐らくサイズを少しくらい上げても変わらないだろう。
浅さを感じさせる一番大きな要因はスリングショットの幅が広く、踵の結構低い位置からスリングショットが始まっていること。
踵の骨よりも上(アキレス腱あたり)にスリングショットがかかっている感じ(セオリーはこれ)ではなく、スリングショットの下半分くらいが踵の骨にかかっているような感触がある。
スリングショットの拘束力自体もやや弱め。




スポルティバ・スカルパ系の踵が合っているという人にはあまり合わないかもしれない。
逆に、スポルティバの踵が「アキレス腱に刺さるような感じで痛い」と感じる人(実は結構多いんだなこういう人)はこの踵を気に入るかもしれない。
サイズを攻め気味にしたのでヒールフックで脱げるということは無いが、形状で踵の骨を留めているというよりは、肌と生地の間のフリクションによって脱げないようになっているという感触。
1本締めベルクロの位置もやや低く感じる、これもセオリーと比べてみたらセオリーのベルクロ位置に対してベルクロの根本からの角度が違っていた。これも踵の拘束力の弱さを感じる一因でもある。 
拘束力を高めるためにもなるべく靴下を履かずに裸足で履くべき靴であるように思う。


・踵形状がエッジングに与える影響

スポルティバ・スカルパ系の靴はスリングショットの位置がいいのか強さがいいのか、 エッジングの際爪先で入力したパワーをスリングショットが【受け】て体幹方向に伝わっているという感覚が強い。
だから小さいホールドに体重を大きく預けても安心感があるし、強く踏み込んだ時に足の力で体を上方向に推進させやすい。
しかしゼニストのスリングショット形状だとその感覚がかなり薄い。
ハードなエッジングや立ち込み、乗り込みをする際、身体を上に持ち上げるパワーを補助してくれるような機能は小さいだろう。
同メーカーの「X1」、これは履いたことがないんだけどゼニストとほぼ同様の踵形状をしているようだ。
X1を履いたことのある人の話を聞くとエッジングに関してほぼ同様の感想を持っているらしい。
X1はゼニストに比べると爪先の剛性自体は上のはずなので、スリングショットの形状がこれらの靴のエッジング能力を決定づける大きな要因として働いているのは間違いなさそうだ。
前述したように、スポルティバ・スカルパ系の踵が合っている人にとっては、ヒールフックに限らずエッジングや乗り込みの際も違和感の強い靴になると思う。


・ヒールフック

スリングショットの幅が広いことに加え、ヒールラバーが細い。
ある程度の厚みのインカットしたホールドにこの細いヒールラバーをひっかけるようにしてかけるのであればそこそこの性能を発揮してくれる。
しかし、高い位置に靴を横に寝かせた状態でヒールを掛けようとした時などはヒールラバーがホールドに接触せず、フリクションに乏しいスリングショット部分がホールドにメインで接触することになり非常に滑る。
これもセオリーとの比較になるが、セオリーは黄色いメインのヒールラバーの側面の黒いラバー部分もフリクションはある程度強く、またヒールカップ全体に剛性もある。
そのため寝かせたヒールを縦に起こしていく過程で感覚的にはほぼシームレスにメインの黄色いヒールラバーに荷重を移動できる。
しかしゼニストはまずスリングショットにホールドが触れた時点で滑る感覚があり、そこから踵を立てて行こうとしたとき、
スリングショットとヒールラバーの間に高さのギャップやフリクションのギャップが大きいのでスムーズな移行が難しい。


そしてそもそも靴全体の剛性が小さいので強い荷重に耐えきれない。
シビアなマントリング等ではちょっと使いたくない。
まあ根本として、他のソフトシューズ(レオパード・vxi・フューリアエアー)もヒールフック性能が良かったものは無いと言っていい。
ソフトシューズはヒールフックをかけるための靴じゃない、ということなんだろう。
柔らかい靴でヒールフック性能を上げるというのは構造的に難しいのかもしれない。
それだったらヒールフック性能なんて無視してつま先の性能に全振りしてしまえ!というのがソフトシューズ作りの基本になっているのかもしれない。
(でもその中で最大限かかるように工夫してほしいなあとは思う)


 ・トウラバー

今まで見たことがないくらい薄いトウラバー。
ラバーの性能自体がいいのか、その薄さがいいのか、または格子状のパターンがいいのか、トウフック性能はかなり高い。
トウラバーの大きな2つの役割として、
トウフックをかける際のフリクションの確保と、エッジングの際のパワーの入力を逃がさないようにすることがあるが
このトウラバーは後者の機能をほぼ無視し、トウフック性能のためだけに特化しているように感じる。
トウラバーにかかった時のフリクションで言えば、現行のクライミングシューズでトップクラスのトウフック性能ではあると思う。
この靴の最大の長所であると言ってもいいかもしれない。
惜しむらくはトウラバーの範囲。せっかくの高性能ラバーをもう少し甲の上の方まで広く貼って欲しい。
ベルクロの位置(角度)を調整したうえで、メッシュのタンの範囲はもう少し狭くていいので、トウラバーの範囲をもう1cmでも上に広くしてもらえば足の甲側のデザインとしてはほぼ文句ナシだった。


・総評

結論を言えば「優秀なソフトシューズ」 それ以上でも以下でもないといった感触。
この靴でハードなエッジングをすることは難しいし、ヒールフック性能も難がある。
スメアリング、強傾斜でのかき込み、トウフックの性能はとても高い。
位置づけとしてはかつてのチームvxiとほぼ同じようなところに落ち着くだろう。
「これ1足で何でもできるオールラウンドシューズ」ではないが
チームvxiが廃盤になったことで後継機を探している方にはおススメできる靴だ。
主観的な意見で言えば、
体重が重めで、エッジングを重視し、スポルティバの踵が合っている自分にとってはあまり合わない靴だと思う。
ただこの靴の踵形状がバッチリハマるという人にとってはかなり強い武器になると思う。
靴は試着して買いましょう!