「フリクションにおいて水分は悪である」
「手汗はかかないにこしたことはない」
「乾燥肌であるほど有利である」
クライミングにおいて、どうもそういう情報が多いが、僕自身はそういった説に否定的である。
というのは以前の記事で書いた通りだ。
以前の実験でも立証した通り、
革や木といった素材とホールドとの間においては水分はむしろフリクションを高める要因になる。
それが「人間の皮膚」という材質に限っては例外になるとは考えにくい。
しかし僕を含め多くの人が実感するとおり、過剰な水分はフリクションを弱める。
じゃあどれくらいの水分量がフリクションを生むのに適切なんだろうか?
まずはこんなものを購入してみた。
スキンチェッカー
肌の水分量と皮脂量を測定できる機械だ。
これでまず自分の皮膚の状態を測定してみた。
測定箇所は手の中指の第一関節より上の腹。
余談だけど
今僕の指の状態は結構酷く、
指の先端に近い腹の上半分はケロイドみたいな状態になっていて
その部分ではなんと測定が始まりすらしなかった。
なので測定は指の腹の下半分で行っている。
何度か計測した結果、大体
水分量35%/皮脂量35%
くらいだった。
あれ?意外と水分あるな!
というのがまず第一の感想だった。
自分は意外とそれほど乾燥肌とも言えないのかもしれない、と嬉しくもなった。
(それがぬか喜びだと後に気付くことになるのだが)
そしてふと気になり、
東京粉末REACT
を使用した後に測定を再度行ってみた。
すると
水分量45%/皮脂量24%
という結果に。
水分量が上がり皮脂量が減っている。
脂がフリクションにとって害だろうということは容易に想像できる。
そして適度な水分がフリクションにとって益であると僕は思っている。
ということは
REACTは皮膚をより高フリクションの状態に持っていく効果があると言えるのではないだろうか?
いよいよ気になってきたので、クライミングジム内でいろいろなクライマーに実験に協力してもらった。
実験は
①何もしていない状態で水分量/皮脂量をチェック
(測定箇所は中指の腹。測定タイミングはクライミング前)
②REACTを使用した状態で水分量/皮脂量をチェック
(REACTを4プッシュ程。手をゴシゴシと擦り、手を数十秒振り乾かしたタイミングで測定)
結果は以下の表の通り
(通常状態で、水分量40%未満は青く色づけし、60%以上は黄緑に色づけしている)
まず興味深いのは、
自称乾燥肌であったとしても、
水分量35%なんて低い数値はほとんど居ねーじゃん!ってこと。
「意外と水分あるな!」と思ったのは本当はそんなことは無かったということだ。残念。
そして中には水分量99%という驚きの結果が出ている人もいる。
こういう人こそが生粋のヌメラーと言えよう。
そして多くの人は大体
水分量50%皮脂量20%
くらいの数値に集中したということだ。
実験の際に軽くヒアリングしてみても、
水分量50%皮脂量20%に近い人の多くはフリクションについてあまり大きな悩みを抱えていないことが多く、
それを大きく下回ったり上回ったりしている人はフリクションについての不満を持っていることが多かった。
こうして見てみると、
水分量50%がひとつの基準となり、
それを10%以上下回っているようなら「乾燥手」
それを10%以上上回っているようなら「ヌメリ手」
と言ってしまっても良いのではないだろうか。
さて、
REACTの効能についてだが、見ての通り
水分量50%皮脂量20%付近の人には殆ど数値に変動が無い。
一方
水分量が35%程の人は水分量が増しているし、
水分量が70%以上の人は水分量が減少している。
皮脂量についても、
30%を超えているような場合、REACT後に減少している。
このことから、
REACTは
手の状態を水分量50%皮脂量20%に近づけるような効果があると言えよう。
さて、
今回の実験の結論としては
・水分量50%皮脂量20%が一つの基準値となる。
(→これくらいが最もフリクションが安定する?)
・REACTは手の状態を水分量50%皮脂量20%に近づける。
の二点が言える。
REACTは極度の乾燥手、極度のヌメリ手の人にとっては、
汚れを落とすという効果以上に、皮膚の水分量皮脂量を正常化させる効果を強く感じられるはずだ。
じゃあ正常な皮膚の人にはREACTは洗浄液以上の効果は齎さないのか?
ということだがそういうこともないだろう。
今回はほぼ全員ジムに入館した直後、クライミングを始める前に計測を行った。
そのタイミングでは50%20%に近かったとしても、
登っているとすぐに水分量が増してしまうというタイプの人もいるだろうし、
登ることで乾燥してしまうという人もいるだろう。
(自称ヌメリ手、乾燥手にもかかわらず数値が50%20%に近かった人たちは恐らくそういったタイプなのだろう)
状態が悪いほうに変化したタイミングでREACTを使用すれば、皮膚の状態を「普段の自分の正常値」に近づけられる。
なので「普段は水分量50%皮脂量20%に近いけど登ると数値が大きく変動してしまう」という人にも恩恵があるはずだ。
(そして恐らく殆どの人がそうだろうと思う)
スキンチェッカーは安いものなら安いので、
フリクションに気を遣うクライマーの皆さんは是非試してみて欲しいと思う。
岩に行って「なんか今日は指の状態が悪いなー」と思ったら水分量をチェックしてみて、
極度に乾燥していたら多めにREACTをプッシュしてみるとか、
かなりヌメってきたと思ったらやはりREACTを使ったりチョークを変えてみたり。
それに、チェックしてみて水分量50%皮脂量20%だったとしたらもう「指の状態悪くて―」という言い訳も自分に出来なくなって必死で頑張ろうという気にもなるだろうし。
この「言い訳の余地を無くす」っていうのは限界を攻める時には結構重要だと思う。
良い結果が出ない時は、指の状態とか、シューズの相性がどうとか、天気がどうとか、
そういう言い訳の余地があるとつい人は失敗の原因をそいつらになすりつけがちだ。
そうするとなんとなく本気を出せなくなる。
僕がフリクションを結構気にするのはそこだ。
本当はそんなに神経質にフリクションがどうこうなんて気にしたくは無い。
でも「出来ないっ!」っていう状況になった時に一番言い訳の逃げ道に使いやすいのがやっぱりフリクション。
だから「フリクションが良い状態」っていうのをきちんと保つ術があるならちゃんとしておきたい。
そうすれば、登れなかった時に、きちんと原因を「自分の実力のせい」にできる。きちんと気持ちよく敗退できる。
まあ、
フリクションが良かろうが悪かろうがそんなものに成功失敗の要因をなすりつけずに、
いつでもきちんと敗退を受け入れる精神を養えればそれが一番良いんだろうけど。
「クライミング 乾燥 チョーク」をキーワードにGoogleで検索し、2019年3月4日に投稿された「チョークについて」から一連の記事を読み、ここに至りました。
返信削除REACTですね。試してみます。そして、ジムでしばしば感じているスローパー苦手を克服したいと思います!