これが思ったより反響があり、何人かの間で意見が交わされていたようなのでちょっとさらに突っ込んで分析してみることにした。
前回の記事で僕は自信満々に
「チョークは滑り止めである」
と断言し、
「チョークは吸湿のみが目的であり滑り止めではない」
という意見を思い切りこき下ろしたわけだけれども、
「チョークは滑り止めである」説も根拠は単に僕の感覚的なものでしかなかった。
僕はもうほとんど前提として、チョークに滑り止め効果があるし、それをほとんどのクライマーが了解しているものだと思っていた。
しかしやはり「チョークは滑り止めではない」と実感を持って発言している方もいる。
じゃあやはりここは実験してみるしかないだろう。
感覚値ではなく、実際値を出してみよう。
僕は生粋の文系人間なのでF=なんちゃらみたいな数式を持ち出して計算したりすることはとてもじゃないができないので、
今回は本当に初歩の初歩、小学生の理科の授業レベルの実験をしてみた。
まず用意したのは
・一辺60mm程度の大きさの立方体の木片。
・革(レザー)
・ゴム
革は一応、仮想人間の皮膚として。
表面と裏面をそれぞれ試してみることにした。
実際の人間の皮膚とはかなり違いがあるけど、それでも多少近いものはあるだろうという期待を込めて。
ゴムはホームセンターで滑り止め用として切り売りしている厚さ1mmのゴムシート。
木片の一面の大きさに合わせてゴムと革を切り、木片に張り付ける。
①何も貼っていない面
②革(表面)が貼ってある面
③革(裏面)が貼ってある面
④ゴムが貼ってある面
がそれぞれ出来上がる。
それぞれの面すべての側面にあたる面にフックを取り付ける。
台座として用意したのはコチラのホールド。
(木片の写真もホールドの写真も濡れているのは実験後に洗ってから撮ったからです)
このホールドの上に木片を置き、引きバネをフックに引っかけ、引っ張る。
バネがどれくらい伸びた時点で木片が動き出すかを計測した。
(木片だけだと軽すぎてバネが伸びるまでもなくあまりにたやすく動いてしまうため、水の入ったペットボトルを重しとして置く)
比較した条件は以下の4パターン。
条件①
何もつけない状態
条件②
チョークをまぶした状態
条件③
ホールドと木片を濡らした状態
(流水で洗うように濡らし、拭いたり乾かしたりしない状態)
条件④
湿った状態にチョークをつけた状態
(条件③の試行直後、さっと余分な水分を拭き取った上でチョークアップ)
結果は以下の通り。
表にまとめるとこうなる。
(動画撮影した以外に、もう2回づつ試行し、3回の試行の平均値を記した)
(それぞれの素材の最高値は黄色、最低値を灰色で塗りつぶしている)
手で引っ張っているので引っ張り角度や速度等が完全に一定ではない上に、肉眼で観測しているので細部の数値まではっきりしないし、誤差はかなりあるだろう。
しかし条件によって明らかに数値に大きな差が出ている。
まず、単純にチョークの有無について。
これはまず木で倍以上の差が出ているのが特筆すべき点だろう。
革(裏面)もかなり数値が変化している。
一方で革(表面)やゴムの場合はほぼ数値に変化が無い。微増といったところ。
これは試行上の誤差と言ってもいいのかもしれない。
しかし、この試行だけでもまず少なくともチョークをつけることで
いくつかの素材の場合大きくフリクションが向上するし、
どの素材でもフリクションが減少することはないということが分かる。
(ソールにチョークを塗るという行為は意味は薄いということはあっても「逆効果」とまでは言えない⁉)
次にチョークを水で洗い流すついでに、
台座のホールド・木片ともに濡れた状態で試行した。
驚くべきことに、革(裏面)はこの状態が最も数値が高くなった。
その他の素材も明らかに乾いた状態よりも数値が高い。
実験前の予想では、木あるいは革に関しては乾いているよりも湿っていたほうがフリクションが向上するかもしれないとは予想していたが、
まさかゴムでも湿っていたほうが数値が高くなるとは思わなかった。
そしてゴムでのみ、湿っていた場合に滑り方が変わるもの興味深い点だろう。
他の試行では一定のラインを超えると弾けるように一気に引っ張られたのに対し、水分+ゴムのパターンでのみ、滑り始めのラインを越えてからも少しづつ滑っていく。
ただこれが一体何を意味するのかというのはこの時点では分からない。
(頭のいいひと誰かこの現象の意味を考えてください)
最後に、湿り+チョークの試行。
革(裏面)以外で、この状態が最も高い数値が出た。
そしてさらに興味深いのが、通常状態ではあれだけ数値にバラつきがあったすべての素材で似たような数値を記録したという点だ。
この結果から、
・「乾燥したチョーク」よりも「水分を吸ったチョーク」のほうがよりフリクションを生んでいる。
・「水分を吸ったチョーク」は元の素材が持つフリクションをある程度無視してほぼ一定のフリクションを発揮させる。
というようなことが言える。
本実験の結果だけを見れば、やはり
「チョークには滑り止め効果がある」
と言えるだろうし、
さらに
「水分はフリクションを強める」
とも言えるだろう。
ただ、今回の実験がそのままクライミングの状況に当てはめられるかといったらそうとも言えない。
・あくまで使用した素材は木や革であって人間の皮膚ではない。
・ゴムもクライミングシューズのソールに使用されるハイテク素材ではない。
・400g程度の荷重しかかかっていない。
という点で、人間がホールディングする状況・クライミングシューズがスメアリングする状況とは異なっている。
もう少し実験の規模を大きくして、もっと素材を厳選して(せめてゴムはビブラムのシートを使うとか)やっていけば結果は変わってくるかもしれない。
そもそも実感として、登っていて「水分のせいで滑る」と感じることは多々ある。
今回の実験結果が全てであるとしてしまうならその実感は無視されることになる。
かかる荷重、接地面積、水分の過多、チョークの過多等によって結果はまた変わってくるだろう。
しかし少なくとも
「チョークの役割は水分を飛ばすだけであって、それ自体にフリクションを生む効果は無い」
という説を否定し、
「チョークは滑り止めである」という説を立証するのには今回の実験は十分な結果と言えるのではないだろうか。
今回の実験をするにあたって、いくつかの予想は当たっていたし、
またいくつかの予想は覆されもした。
やはり個人の経験と感覚などというものは多かれ少なかれ何かしらの間違いを抱えている。
「試してもいないのに分かったつもりになる」
ということがいかに危険かということを再確認したし、少し反省もしている。
ちなみに今回の実験に使用したチョークは「東京粉末BLACK」である。
まさか……BLACKがすごいだけなのか…?
…って冗談みたいに言ったけど、ひょっとしたらそうだという可能性も0じゃないから怖いところだ。
今回の実験をするにあたって参考にした動画がコチラ。
大人になってからすると「理科の実験」って楽しいね。
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