「フリクションにおいて水分は悪である」
「手汗はかかないにこしたことはない」
「乾燥肌であるほど有利である」
クライミングにおいて、どうもそういう情報が多いが、僕自身はそういった説に否定的である。
というのは以前の記事で書いた通りだ。
以前の実験でも立証した通り、
革や木といった素材とホールドとの間においては水分はむしろフリクションを高める要因になる。
それが「人間の皮膚」という材質に限っては例外になるとは考えにくい。
しかし僕を含め多くの人が実感するとおり、過剰な水分はフリクションを弱める。
じゃあどれくらいの水分量がフリクションを生むのに適切なんだろうか?
まずはこんなものを購入してみた。
スキンチェッカー
肌の水分量と皮脂量を測定できる機械だ。
これでまず自分の皮膚の状態を測定してみた。
測定箇所は手の中指の第一関節より上の腹。
余談だけど
今僕の指の状態は結構酷く、
指の先端に近い腹の上半分はケロイドみたいな状態になっていて
その部分ではなんと測定が始まりすらしなかった。
なので測定は指の腹の下半分で行っている。
何度か計測した結果、大体
水分量35%/皮脂量35%
くらいだった。
あれ?意外と水分あるな!
というのがまず第一の感想だった。
自分は意外とそれほど乾燥肌とも言えないのかもしれない、と嬉しくもなった。
(それがぬか喜びだと後に気付くことになるのだが)
そしてふと気になり、
東京粉末REACT
を使用した後に測定を再度行ってみた。
すると
水分量45%/皮脂量24%
という結果に。
水分量が上がり皮脂量が減っている。
脂がフリクションにとって害だろうということは容易に想像できる。
そして適度な水分がフリクションにとって益であると僕は思っている。
ということは
REACTは皮膚をより高フリクションの状態に持っていく効果があると言えるのではないだろうか?
いよいよ気になってきたので、クライミングジム内でいろいろなクライマーに実験に協力してもらった。
実験は
①何もしていない状態で水分量/皮脂量をチェック
(測定箇所は中指の腹。測定タイミングはクライミング前)
②REACTを使用した状態で水分量/皮脂量をチェック
(REACTを4プッシュ程。手をゴシゴシと擦り、手を数十秒振り乾かしたタイミングで測定)
結果は以下の表の通り
(通常状態で、水分量40%未満は青く色づけし、60%以上は黄緑に色づけしている)
まず興味深いのは、
自称乾燥肌であったとしても、
水分量35%なんて低い数値はほとんど居ねーじゃん!ってこと。
「意外と水分あるな!」と思ったのは本当はそんなことは無かったということだ。残念。
そして中には水分量99%という驚きの結果が出ている人もいる。
こういう人こそが生粋のヌメラーと言えよう。
そして多くの人は大体
水分量50%皮脂量20%
くらいの数値に集中したということだ。
実験の際に軽くヒアリングしてみても、
水分量50%皮脂量20%に近い人の多くはフリクションについてあまり大きな悩みを抱えていないことが多く、
それを大きく下回ったり上回ったりしている人はフリクションについての不満を持っていることが多かった。
こうして見てみると、
水分量50%がひとつの基準となり、
それを10%以上下回っているようなら「乾燥手」
それを10%以上上回っているようなら「ヌメリ手」
と言ってしまっても良いのではないだろうか。
さて、
REACTの効能についてだが、見ての通り
水分量50%皮脂量20%付近の人には殆ど数値に変動が無い。
一方
水分量が35%程の人は水分量が増しているし、
水分量が70%以上の人は水分量が減少している。
皮脂量についても、
30%を超えているような場合、REACT後に減少している。
このことから、
REACTは
手の状態を水分量50%皮脂量20%に近づけるような効果があると言えよう。
さて、
今回の実験の結論としては
・水分量50%皮脂量20%が一つの基準値となる。
(→これくらいが最もフリクションが安定する?)
・REACTは手の状態を水分量50%皮脂量20%に近づける。
の二点が言える。
REACTは極度の乾燥手、極度のヌメリ手の人にとっては、
汚れを落とすという効果以上に、皮膚の水分量皮脂量を正常化させる効果を強く感じられるはずだ。
じゃあ正常な皮膚の人にはREACTは洗浄液以上の効果は齎さないのか?
ということだがそういうこともないだろう。
今回はほぼ全員ジムに入館した直後、クライミングを始める前に計測を行った。
そのタイミングでは50%20%に近かったとしても、
登っているとすぐに水分量が増してしまうというタイプの人もいるだろうし、
登ることで乾燥してしまうという人もいるだろう。
(自称ヌメリ手、乾燥手にもかかわらず数値が50%20%に近かった人たちは恐らくそういったタイプなのだろう)
状態が悪いほうに変化したタイミングでREACTを使用すれば、皮膚の状態を「普段の自分の正常値」に近づけられる。
なので「普段は水分量50%皮脂量20%に近いけど登ると数値が大きく変動してしまう」という人にも恩恵があるはずだ。
(そして恐らく殆どの人がそうだろうと思う)
スキンチェッカーは安いものなら安いので、
フリクションに気を遣うクライマーの皆さんは是非試してみて欲しいと思う。
岩に行って「なんか今日は指の状態が悪いなー」と思ったら水分量をチェックしてみて、
極度に乾燥していたら多めにREACTをプッシュしてみるとか、
かなりヌメってきたと思ったらやはりREACTを使ったりチョークを変えてみたり。
それに、チェックしてみて水分量50%皮脂量20%だったとしたらもう「指の状態悪くて―」という言い訳も自分に出来なくなって必死で頑張ろうという気にもなるだろうし。
この「言い訳の余地を無くす」っていうのは限界を攻める時には結構重要だと思う。
良い結果が出ない時は、指の状態とか、シューズの相性がどうとか、天気がどうとか、
そういう言い訳の余地があるとつい人は失敗の原因をそいつらになすりつけがちだ。
そうするとなんとなく本気を出せなくなる。
僕がフリクションを結構気にするのはそこだ。
本当はそんなに神経質にフリクションがどうこうなんて気にしたくは無い。
でも「出来ないっ!」っていう状況になった時に一番言い訳の逃げ道に使いやすいのがやっぱりフリクション。
だから「フリクションが良い状態」っていうのをきちんと保つ術があるならちゃんとしておきたい。
そうすれば、登れなかった時に、きちんと原因を「自分の実力のせい」にできる。きちんと気持ちよく敗退できる。
まあ、
フリクションが良かろうが悪かろうがそんなものに成功失敗の要因をなすりつけずに、
いつでもきちんと敗退を受け入れる精神を養えればそれが一番良いんだろうけど。
2019年3月28日木曜日
2019年3月9日土曜日
【検証】チョークは本当に滑り止め効果があるのか
この間書いた「チョークについて」
これが思ったより反響があり、何人かの間で意見が交わされていたようなのでちょっとさらに突っ込んで分析してみることにした。
前回の記事で僕は自信満々に
「チョークは滑り止めである」
と断言し、
「チョークは吸湿のみが目的であり滑り止めではない」
という意見を思い切りこき下ろしたわけだけれども、
「チョークは滑り止めである」説も根拠は単に僕の感覚的なものでしかなかった。
僕はもうほとんど前提として、チョークに滑り止め効果があるし、それをほとんどのクライマーが了解しているものだと思っていた。
しかしやはり「チョークは滑り止めではない」と実感を持って発言している方もいる。
じゃあやはりここは実験してみるしかないだろう。
感覚値ではなく、実際値を出してみよう。
僕は生粋の文系人間なのでF=なんちゃらみたいな数式を持ち出して計算したりすることはとてもじゃないができないので、
今回は本当に初歩の初歩、小学生の理科の授業レベルの実験をしてみた。
まず用意したのは
・一辺60mm程度の大きさの立方体の木片。
・革(レザー)
・ゴム
革は一応、仮想人間の皮膚として。
表面と裏面をそれぞれ試してみることにした。
実際の人間の皮膚とはかなり違いがあるけど、それでも多少近いものはあるだろうという期待を込めて。
ゴムはホームセンターで滑り止め用として切り売りしている厚さ1mmのゴムシート。
木片の一面の大きさに合わせてゴムと革を切り、木片に張り付ける。
①何も貼っていない面
②革(表面)が貼ってある面
③革(裏面)が貼ってある面
④ゴムが貼ってある面
がそれぞれ出来上がる。
それぞれの面すべての側面にあたる面にフックを取り付ける。
台座として用意したのはコチラのホールド。
(木片の写真もホールドの写真も濡れているのは実験後に洗ってから撮ったからです)
このホールドの上に木片を置き、引きバネをフックに引っかけ、引っ張る。
バネがどれくらい伸びた時点で木片が動き出すかを計測した。
(木片だけだと軽すぎてバネが伸びるまでもなくあまりにたやすく動いてしまうため、水の入ったペットボトルを重しとして置く)
比較した条件は以下の4パターン。
条件①
何もつけない状態
条件②
チョークをまぶした状態
条件③
ホールドと木片を濡らした状態
(流水で洗うように濡らし、拭いたり乾かしたりしない状態)
条件④
湿った状態にチョークをつけた状態
(条件③の試行直後、さっと余分な水分を拭き取った上でチョークアップ)
結果は以下の通り。
表にまとめるとこうなる。
(動画撮影した以外に、もう2回づつ試行し、3回の試行の平均値を記した)
(それぞれの素材の最高値は黄色、最低値を灰色で塗りつぶしている)
手で引っ張っているので引っ張り角度や速度等が完全に一定ではない上に、肉眼で観測しているので細部の数値まではっきりしないし、誤差はかなりあるだろう。
しかし条件によって明らかに数値に大きな差が出ている。
まず、単純にチョークの有無について。
これはまず木で倍以上の差が出ているのが特筆すべき点だろう。
革(裏面)もかなり数値が変化している。
一方で革(表面)やゴムの場合はほぼ数値に変化が無い。微増といったところ。
これは試行上の誤差と言ってもいいのかもしれない。
しかし、この試行だけでもまず少なくともチョークをつけることで
いくつかの素材の場合大きくフリクションが向上するし、
どの素材でもフリクションが減少することはないということが分かる。
(ソールにチョークを塗るという行為は意味は薄いということはあっても「逆効果」とまでは言えない⁉)
次にチョークを水で洗い流すついでに、
台座のホールド・木片ともに濡れた状態で試行した。
驚くべきことに、革(裏面)はこの状態が最も数値が高くなった。
その他の素材も明らかに乾いた状態よりも数値が高い。
実験前の予想では、木あるいは革に関しては乾いているよりも湿っていたほうがフリクションが向上するかもしれないとは予想していたが、
まさかゴムでも湿っていたほうが数値が高くなるとは思わなかった。
そしてゴムでのみ、湿っていた場合に滑り方が変わるもの興味深い点だろう。
他の試行では一定のラインを超えると弾けるように一気に引っ張られたのに対し、水分+ゴムのパターンでのみ、滑り始めのラインを越えてからも少しづつ滑っていく。
ただこれが一体何を意味するのかというのはこの時点では分からない。
(頭のいいひと誰かこの現象の意味を考えてください)
最後に、湿り+チョークの試行。
革(裏面)以外で、この状態が最も高い数値が出た。
そしてさらに興味深いのが、通常状態ではあれだけ数値にバラつきがあったすべての素材で似たような数値を記録したという点だ。
この結果から、
・「乾燥したチョーク」よりも「水分を吸ったチョーク」のほうがよりフリクションを生んでいる。
・「水分を吸ったチョーク」は元の素材が持つフリクションをある程度無視してほぼ一定のフリクションを発揮させる。
というようなことが言える。
本実験の結果だけを見れば、やはり
「チョークには滑り止め効果がある」
と言えるだろうし、
さらに
「水分はフリクションを強める」
とも言えるだろう。
ただ、今回の実験がそのままクライミングの状況に当てはめられるかといったらそうとも言えない。
・あくまで使用した素材は木や革であって人間の皮膚ではない。
・ゴムもクライミングシューズのソールに使用されるハイテク素材ではない。
・400g程度の荷重しかかかっていない。
という点で、人間がホールディングする状況・クライミングシューズがスメアリングする状況とは異なっている。
もう少し実験の規模を大きくして、もっと素材を厳選して(せめてゴムはビブラムのシートを使うとか)やっていけば結果は変わってくるかもしれない。
そもそも実感として、登っていて「水分のせいで滑る」と感じることは多々ある。
今回の実験結果が全てであるとしてしまうならその実感は無視されることになる。
かかる荷重、接地面積、水分の過多、チョークの過多等によって結果はまた変わってくるだろう。
しかし少なくとも
「チョークの役割は水分を飛ばすだけであって、それ自体にフリクションを生む効果は無い」
という説を否定し、
「チョークは滑り止めである」という説を立証するのには今回の実験は十分な結果と言えるのではないだろうか。
今回の実験をするにあたって、いくつかの予想は当たっていたし、
またいくつかの予想は覆されもした。
やはり個人の経験と感覚などというものは多かれ少なかれ何かしらの間違いを抱えている。
「試してもいないのに分かったつもりになる」
ということがいかに危険かということを再確認したし、少し反省もしている。
ちなみに今回の実験に使用したチョークは「東京粉末BLACK」である。
まさか……BLACKがすごいだけなのか…?
…って冗談みたいに言ったけど、ひょっとしたらそうだという可能性も0じゃないから怖いところだ。
今回の実験をするにあたって参考にした動画がコチラ。
これが思ったより反響があり、何人かの間で意見が交わされていたようなのでちょっとさらに突っ込んで分析してみることにした。
前回の記事で僕は自信満々に
「チョークは滑り止めである」
と断言し、
「チョークは吸湿のみが目的であり滑り止めではない」
という意見を思い切りこき下ろしたわけだけれども、
「チョークは滑り止めである」説も根拠は単に僕の感覚的なものでしかなかった。
僕はもうほとんど前提として、チョークに滑り止め効果があるし、それをほとんどのクライマーが了解しているものだと思っていた。
しかしやはり「チョークは滑り止めではない」と実感を持って発言している方もいる。
じゃあやはりここは実験してみるしかないだろう。
感覚値ではなく、実際値を出してみよう。
僕は生粋の文系人間なのでF=なんちゃらみたいな数式を持ち出して計算したりすることはとてもじゃないができないので、
今回は本当に初歩の初歩、小学生の理科の授業レベルの実験をしてみた。
まず用意したのは
・一辺60mm程度の大きさの立方体の木片。
・革(レザー)
・ゴム
革は一応、仮想人間の皮膚として。
表面と裏面をそれぞれ試してみることにした。
実際の人間の皮膚とはかなり違いがあるけど、それでも多少近いものはあるだろうという期待を込めて。
ゴムはホームセンターで滑り止め用として切り売りしている厚さ1mmのゴムシート。
木片の一面の大きさに合わせてゴムと革を切り、木片に張り付ける。
①何も貼っていない面
②革(表面)が貼ってある面
③革(裏面)が貼ってある面
④ゴムが貼ってある面
がそれぞれ出来上がる。
それぞれの面すべての側面にあたる面にフックを取り付ける。
台座として用意したのはコチラのホールド。
(木片の写真もホールドの写真も濡れているのは実験後に洗ってから撮ったからです)
このホールドの上に木片を置き、引きバネをフックに引っかけ、引っ張る。
バネがどれくらい伸びた時点で木片が動き出すかを計測した。
(木片だけだと軽すぎてバネが伸びるまでもなくあまりにたやすく動いてしまうため、水の入ったペットボトルを重しとして置く)
比較した条件は以下の4パターン。
条件①
何もつけない状態
条件②
チョークをまぶした状態
条件③
ホールドと木片を濡らした状態
(流水で洗うように濡らし、拭いたり乾かしたりしない状態)
条件④
湿った状態にチョークをつけた状態
(条件③の試行直後、さっと余分な水分を拭き取った上でチョークアップ)
結果は以下の通り。
表にまとめるとこうなる。
(動画撮影した以外に、もう2回づつ試行し、3回の試行の平均値を記した)
(それぞれの素材の最高値は黄色、最低値を灰色で塗りつぶしている)
手で引っ張っているので引っ張り角度や速度等が完全に一定ではない上に、肉眼で観測しているので細部の数値まではっきりしないし、誤差はかなりあるだろう。
しかし条件によって明らかに数値に大きな差が出ている。
まず、単純にチョークの有無について。
これはまず木で倍以上の差が出ているのが特筆すべき点だろう。
革(裏面)もかなり数値が変化している。
一方で革(表面)やゴムの場合はほぼ数値に変化が無い。微増といったところ。
これは試行上の誤差と言ってもいいのかもしれない。
しかし、この試行だけでもまず少なくともチョークをつけることで
いくつかの素材の場合大きくフリクションが向上するし、
どの素材でもフリクションが減少することはないということが分かる。
(ソールにチョークを塗るという行為は意味は薄いということはあっても「逆効果」とまでは言えない⁉)
次にチョークを水で洗い流すついでに、
台座のホールド・木片ともに濡れた状態で試行した。
驚くべきことに、革(裏面)はこの状態が最も数値が高くなった。
その他の素材も明らかに乾いた状態よりも数値が高い。
実験前の予想では、木あるいは革に関しては乾いているよりも湿っていたほうがフリクションが向上するかもしれないとは予想していたが、
まさかゴムでも湿っていたほうが数値が高くなるとは思わなかった。
そしてゴムでのみ、湿っていた場合に滑り方が変わるもの興味深い点だろう。
他の試行では一定のラインを超えると弾けるように一気に引っ張られたのに対し、水分+ゴムのパターンでのみ、滑り始めのラインを越えてからも少しづつ滑っていく。
ただこれが一体何を意味するのかというのはこの時点では分からない。
(頭のいいひと誰かこの現象の意味を考えてください)
最後に、湿り+チョークの試行。
革(裏面)以外で、この状態が最も高い数値が出た。
そしてさらに興味深いのが、通常状態ではあれだけ数値にバラつきがあったすべての素材で似たような数値を記録したという点だ。
この結果から、
・「乾燥したチョーク」よりも「水分を吸ったチョーク」のほうがよりフリクションを生んでいる。
・「水分を吸ったチョーク」は元の素材が持つフリクションをある程度無視してほぼ一定のフリクションを発揮させる。
というようなことが言える。
本実験の結果だけを見れば、やはり
「チョークには滑り止め効果がある」
と言えるだろうし、
さらに
「水分はフリクションを強める」
とも言えるだろう。
ただ、今回の実験がそのままクライミングの状況に当てはめられるかといったらそうとも言えない。
・あくまで使用した素材は木や革であって人間の皮膚ではない。
・ゴムもクライミングシューズのソールに使用されるハイテク素材ではない。
・400g程度の荷重しかかかっていない。
という点で、人間がホールディングする状況・クライミングシューズがスメアリングする状況とは異なっている。
もう少し実験の規模を大きくして、もっと素材を厳選して(せめてゴムはビブラムのシートを使うとか)やっていけば結果は変わってくるかもしれない。
そもそも実感として、登っていて「水分のせいで滑る」と感じることは多々ある。
今回の実験結果が全てであるとしてしまうならその実感は無視されることになる。
かかる荷重、接地面積、水分の過多、チョークの過多等によって結果はまた変わってくるだろう。
しかし少なくとも
「チョークの役割は水分を飛ばすだけであって、それ自体にフリクションを生む効果は無い」
という説を否定し、
「チョークは滑り止めである」という説を立証するのには今回の実験は十分な結果と言えるのではないだろうか。
今回の実験をするにあたって、いくつかの予想は当たっていたし、
またいくつかの予想は覆されもした。
やはり個人の経験と感覚などというものは多かれ少なかれ何かしらの間違いを抱えている。
「試してもいないのに分かったつもりになる」
ということがいかに危険かということを再確認したし、少し反省もしている。
ちなみに今回の実験に使用したチョークは「東京粉末BLACK」である。
まさか……BLACKがすごいだけなのか…?
…って冗談みたいに言ったけど、ひょっとしたらそうだという可能性も0じゃないから怖いところだ。
今回の実験をするにあたって参考にした動画がコチラ。
大人になってからすると「理科の実験」って楽しいね。
2019年3月7日木曜日
サイファーについて
サイファームーブが苦手。
といったクライマーは存外多い。
僕も結構そのクチで、始めは感覚的に全然うまく行かなくて、
「ああ、これは俺のタイプに合わない動きなんだ」
と思って全然やらなかった。
でも色々観察やら試案やらを経て、今ではむしろ結構得意なムーブって言えるようになってきた。
そんなわけで、
色々なクライマーを見て思う「サイファームーブとはどのように動くと良いのか」という気付きを少しまとめてみようと思う。
何も
「これがサイファームーブのコツだ!」
「こう動かないとサイファーとは呼べない!」
「必ずこう動くべきだ!」
とまで言うつもりはないが、実感として「こうやったら上手い事ハマったよ」という報告みたいなものとして捉えてほしい。
・足の振り方の誤解
サイファーが苦手と言うクライマーは
「サイファーってどんなムーブ?」
という問いに対して
「足を振り子のように左右に振ってその勢いで跳ぶムーブ」
という認識を持っていることが多い。
これが完全に間違いだと言うつもりはないが、この認識がサイファーという動きを見よう見まねで実行しようとしたときに全然上手くいかないという体験をさせる大きな原因の一つなんじゃないかと思う。
まず一つ目のキーワードは「左右に振る」
登っている姿を後ろから何となく見ると確かに壁に対して左右に足が振られているように見える。
しかし【体の向き】に対して考えた時、本当に足は左右に振られているのだろうか?
これはほとんど断言できることだが、
上手に安定したサイファームーブを起こしているクライマーは足を体に対して左右に振ってはいない。
足は体(骨盤の角度)に対して前後に振っている。
ちょっと地面に立って足を振ってみて欲しい。
軸足の後で足を左右に振ってみても、とても安定などしないし、全然力強く振ることができない。
軸足の横で足を前後に振ると、とても安定して力強く振ることができる。
【足は身体に対して左右に振らずに前後に振りましょう】
これがまず今回言いたい結論の一つ。
二つめのキーワードは「振り子」
振り子という物には「関節」が存在しない。
紐だったり棒だったり、それ自体は自発的に動いたりしないものを重力と慣性の力で行ったり来たりさせる機構である。
その振り子のようなイメージをして足を振ろうとすると、当然股関節より下の関節の可動のコントロールを放棄して、脱力したような感じで振ろうとしてしまう。
じゃあ地面の上で足をすべて脱力して前後に振ってみて欲しい。
決して体が上に持ち上がるような力は生じないはずだ。
ただ前後に体が引っ張られて安定性を欠くだけである。
足の振りで体を上に持ち上げるには、振り子の慣性の力だけでなく、筋力を使って足を強く振り上げる必要がある。
ここで大切なのは膝。
腹筋や背筋、腿以下の筋力を使い足を振り、
振った足の軌道が上向きに移行する辺りで膝をぐっと使ってその軌道をさらに上方向に修正してやることで、足の振りが体を持ち上げるための力として有効に利用できる。
足を振るイメージとして適切なのは「振り子」ではなく、
自分のへその前50cmくらいの位置にボールがあって、それを思い切り上に蹴り上げるようなイメージがいいかもしれない。
実際に地面の上でしっかり強く足を振り、タイミングよく膝を動かすと、軸足を動かさなくてもそれだけで少し体が浮く。
これをそのまま壁の上で行いましょうということ。
・壁と体の間の空間はどうなっているか
かなり昔に書いた通り(今読み返すとかなり粗い理屈でおかしいところも多々あるけど大筋の意見は変わっていない)、
ダイナミックムーブを起こす際大切なのは、壁と体の間の空間を意識することだ。
以前の記事では基本的に「動きだし前に壁と体に空間を開け、動き終わりに壁と体の間の空間が小さくなっているように動く」
というふうな趣旨だった。
(というかこの時って全部敬語で書いてる……いつからこのブログ敬語で書かなくなったんだっけ……)
サイファーで動く際も勿論その考え方は重要で、そしてさらにその空間の形についてもう少し複雑に(複雑ってほど複雑じゃないけど)考える必要がある。
まず、前項で【足を前後に振る】と書かれているのを読んだ時点で異論を述べたくなった方はいないだろうか?
「そんなふうに振ったら足が壁を蹴っちゃうじゃん!」と。
そう。
それは実に全うな考えで、なのでそうならないために、足を振る時には身体(少なくとも腰より下)を壁に対して横に向ける必要がある。
壁と腰が平行に向かい合っていては足は振れず、その状態で足を振ったとしてもそれは左右に足を振っていることになり、不安定で力の無い足振りになってしまう。
左右に足を振ることのデメリットは実は不安定で力が弱いだけでなく、もっと致命的なデメリットとして、「腰を壁から遠ざけてしまう」というものになる。
足を左右に振ろうとすると、振っている足は体の後方で楕円を描く様な軌道で戻ってくる。
その際、振った足が腰を後方に引っ張るような力が生じることになる。
もし足を左右に振って勢いをつけて次のホールドに届いたとしても、そのホールドは腰が後ろに引っ張られながら掴むことになり、非常に難しいタイミングと力が要求されてしまう。
足を前後に振るためには、
振る足のほうの腰を壁から遠ざけ、壁と腰に角度をつける。
つまり体の前面は壁ではなく次にとるホールド方向を向く。
この時、壁と体の間の空間は変形された形をとることになる。
両手両足をついて真上に出るようなムーブを起こす場合は、
なるべくきれいな四角形(台形)の空間を作って、素直にそれを潰すようなイメージで出て行けばいい。
しかし体を横に向けた場合、
壁と体の間の台形の空間は三角形に近い形に歪むことになる。
そして勿論次のホールドを取った時にはこの空間は潰れていなければならない。
そのためにはムーブの途中に半身をひねる必要がある。
これはドアをイメージすると分かり易いと思う。
残すほうの手を蝶番、体そのものがドアであると見立てて、
動きだしの前に大きくドアを開き、ドアを閉じながら動き、動き終わりにはドアは閉まっている。
そういうイメージ。
足の軌道も腰の捻転に併せて少し変化することになる。
最終的には足の軌道は壁と並行ではなく少し壁に向かっていくような軌道になる。
いや、腰の捻転に併せてというよりは足の軌道を壁に向かわせることで腰の捻転を生じさせるという順序になるのか?
まあとにかく振り上げきった瞬間にはつま先や膝頭の向きは壁の方向を向いているはずである。
このように、三角形に近い形の空間を作り、その空間を潰しながら動くことで、
取りに行く方の手、肩、腰が、壁に向かっていきながら次のホールドをキャッチする事ができる。
動き出し前の壁と体の間の空間が偏りの無い四角形の場合、なんとなく足が振りにくいはず。
そして空間の三角形の向きが逆の場合(出す方の肩が壁に近くて残す方の肩が壁から遠い状態)全然サイファーでは上手く飛び出せないはずだ。
・視線の動きと頸反射
頸反射という単語を聞いたことがあるだろうか?
これはごく簡単に言うと
首の動きに反応して体の他の部分が連動的に動くような現象のこと。
神経系の働きによるものらしいけども、詳しいメカニズムは良くわからない(笑
以前、ランジについて書いた時に
「残した方の手を見ると止まる」といった趣旨のことを書いたけれど、これも実は頸反射の一種なんじゃないかと思う。
今回言いたいこともまさに「残した方の手を見る」ということで(というか大体のムーブにおいてこの視線移動は正義だよなあ)
前項での腰の捻転の動きについてを言葉にすると、結構な長文になっているし、なんだか複雑そうでよくわからないと思う方も多いはず。
しかしこの視線移動による頸反射の利用によってあまり難しく考えずに動き出し前の空間作りと、動きの中での腰の捻転を生むことができる。
まず、動き出し前
単純に目標のホールドに顔をしっかり向けてよく見る。この時、少し頭を後ろに反らしてもいい。
すると自然に肩も目標方向に開き、そこで腕を伸ばして体を後ろに引けば三角形に近い空間が自然と開くはずだ。
次に、
体を振って飛び出して、目標のホールドを取る直前には残した方の手に振り返る。
この意識を強く持っていれば、ムーブの途中に「首が振り向く」という動作が必ず内包される。
そしてこの「首が振り向く」という動作に連動して肩が回転し、腰も回転する。
このように、ただ視線の方向を意識して移動させるだけで、体も自然とそれに併せて動いてくれるはずだ。
勿論、この視線だけでゼロからすべてが解決するわけではないが、
「概ねフォームはできているはずなのに上手くいかない」
「ホールドには届いているのに掴めずに落ちる」
くらいの段階に居る場合、あとはこの視線だけを意識すれば簡単に上手く行ったりすることは多いと思う。
長々と理屈っぽく書いたので
「いや、わけわかんないよ!」
「そんな理屈とかどうでもいいよ!」
「もっとわかりやすく一言で!」
そんな風に思う人も多いと思うのでなるべく短く要点をまとめると
①まず体ごと目標ホールドのほう向いてよく見ましょう
②足を前後に強く振りましょう
③動き終わりの辺りで振り向いて残した方の手を見ましょう
このへんを意識するだけでサイファーが結構サマになってくるんじゃないかと思う。
・最後に
今回の記事を書くにあたって何度も観た動画がコチラ
プロクライマーCarlo Traversiがピョンピョン跳ぶ楽しげな動画です。
まず注目して欲しいのは1:15くらいの、
黒板になんか書いてる後ろで、カルロが足振って跳んでいるところ。
この振りかた!
この跳びかた!
これをやりましょう!
っていうことを理屈ったらしく長々書いているのがはじめに書いている
【・足の振り方の誤解】
感覚派の方はもうこんなん読んでないでそこを観て下さい。
次に観て欲しいのは1:26~1:37くらい
遠いランジを一度失敗して、足の振りを確認してからもう一度跳んで成功させるシーン。
(失敗シーンは演出上意図的にやっているんだろうけど)
失敗シーンは、足も良く振れているし、腕も良く引けているけど、右半身が全然壁に向かって捻転していっていないのが分かる。
成功シーンは、右半身がギュルって感じで捻転して壁に向かっている。
足を左に振りきっている瞬間、腰は壁に垂直くらいまで開いているのに、右手を離した瞬間くらいには腰の角度は壁と並行まで閉じられているのが分かる。
そして止めた時には視線は左下。そうすることで右肩のポジションが右手のホールドの下にしっかり入って振られないぶら下がり姿勢を実現している。
2:05~の横からのアングルを観ればいかに右腰が開かれているかと、振っている足のつま先の向き、膝の向きがどう変化しているかが分かり易い。
結局のところ百聞は一見に如かず。
上手い人の登りを見て学ぶほうが文章を読むよりもよっぽど分かり易い。
でも、
「上手い人は上手いからできるんでしょ?」
「強いから遠くまでとべるってだけでしょ?」
「保持力が違うから…」
そんな風に言って
「強い人は強い人、自分は自分」
みたいな感じで他者の登りから学ぼうとしない姿勢では、いくら上手い人の登りを見てもなにも学びとれることはない。
サイファーだったら
「なんか強い人が足を横に振って跳んでた!カッコいいからまねしたろ!」
くらいの気分でなんとなく真似して(それはそれで良いことだと思う)
で、出来なくて、
「ああーアレは強い人専用ムーブだわー。弱い俺には出来ないやつだわー」
ってなってゆくゆくは
「サイファー苦手です」
みたいに言うんじゃなくて、
なんとなくカタチだけそれっぽく真似しようとせず、もっとよく見て、
【どういうフォームでやればいいのか】
【そのフォームにはどういう意味があるのか】
ということを観察して、考えたりすること。
あとは手本となる上手い人に聞いたり、仲間と技術的なことについて話し合ったりすること。
そういうことが結局一番大切なんだと思う。
身体的に強くなるってことには、年齢だったり骨格や体質だったりでなにかしら限界はあるかもしれないけど
技術的なことは「上手くなろう」という意思さえあれば誰でもいくらでも上手くなれるはずだから。
でもこの「上手くなろう」という意思を持ち続けるっていうのもまた難しい話で……
まあそのあたりの話はまた別の機会に。
といったクライマーは存外多い。
僕も結構そのクチで、始めは感覚的に全然うまく行かなくて、
「ああ、これは俺のタイプに合わない動きなんだ」
と思って全然やらなかった。
でも色々観察やら試案やらを経て、今ではむしろ結構得意なムーブって言えるようになってきた。
そんなわけで、
色々なクライマーを見て思う「サイファームーブとはどのように動くと良いのか」という気付きを少しまとめてみようと思う。
何も
「これがサイファームーブのコツだ!」
「こう動かないとサイファーとは呼べない!」
「必ずこう動くべきだ!」
とまで言うつもりはないが、実感として「こうやったら上手い事ハマったよ」という報告みたいなものとして捉えてほしい。
・足の振り方の誤解
サイファーが苦手と言うクライマーは
「サイファーってどんなムーブ?」
という問いに対して
「足を振り子のように左右に振ってその勢いで跳ぶムーブ」
という認識を持っていることが多い。
これが完全に間違いだと言うつもりはないが、この認識がサイファーという動きを見よう見まねで実行しようとしたときに全然上手くいかないという体験をさせる大きな原因の一つなんじゃないかと思う。
まず一つ目のキーワードは「左右に振る」
登っている姿を後ろから何となく見ると確かに壁に対して左右に足が振られているように見える。
しかし【体の向き】に対して考えた時、本当に足は左右に振られているのだろうか?
これはほとんど断言できることだが、
上手に安定したサイファームーブを起こしているクライマーは足を体に対して左右に振ってはいない。
足は体(骨盤の角度)に対して前後に振っている。
ちょっと地面に立って足を振ってみて欲しい。
軸足の後で足を左右に振ってみても、とても安定などしないし、全然力強く振ることができない。
軸足の横で足を前後に振ると、とても安定して力強く振ることができる。
【足は身体に対して左右に振らずに前後に振りましょう】
これがまず今回言いたい結論の一つ。
二つめのキーワードは「振り子」
振り子という物には「関節」が存在しない。
紐だったり棒だったり、それ自体は自発的に動いたりしないものを重力と慣性の力で行ったり来たりさせる機構である。
その振り子のようなイメージをして足を振ろうとすると、当然股関節より下の関節の可動のコントロールを放棄して、脱力したような感じで振ろうとしてしまう。
じゃあ地面の上で足をすべて脱力して前後に振ってみて欲しい。
決して体が上に持ち上がるような力は生じないはずだ。
ただ前後に体が引っ張られて安定性を欠くだけである。
足の振りで体を上に持ち上げるには、振り子の慣性の力だけでなく、筋力を使って足を強く振り上げる必要がある。
ここで大切なのは膝。
腹筋や背筋、腿以下の筋力を使い足を振り、
振った足の軌道が上向きに移行する辺りで膝をぐっと使ってその軌道をさらに上方向に修正してやることで、足の振りが体を持ち上げるための力として有効に利用できる。
足を振るイメージとして適切なのは「振り子」ではなく、
自分のへその前50cmくらいの位置にボールがあって、それを思い切り上に蹴り上げるようなイメージがいいかもしれない。
実際に地面の上でしっかり強く足を振り、タイミングよく膝を動かすと、軸足を動かさなくてもそれだけで少し体が浮く。
これをそのまま壁の上で行いましょうということ。
・壁と体の間の空間はどうなっているか
かなり昔に書いた通り(今読み返すとかなり粗い理屈でおかしいところも多々あるけど大筋の意見は変わっていない)、
ダイナミックムーブを起こす際大切なのは、壁と体の間の空間を意識することだ。
以前の記事では基本的に「動きだし前に壁と体に空間を開け、動き終わりに壁と体の間の空間が小さくなっているように動く」
というふうな趣旨だった。
(というかこの時って全部敬語で書いてる……いつからこのブログ敬語で書かなくなったんだっけ……)
サイファーで動く際も勿論その考え方は重要で、そしてさらにその空間の形についてもう少し複雑に(複雑ってほど複雑じゃないけど)考える必要がある。
まず、前項で【足を前後に振る】と書かれているのを読んだ時点で異論を述べたくなった方はいないだろうか?
「そんなふうに振ったら足が壁を蹴っちゃうじゃん!」と。
そう。
それは実に全うな考えで、なのでそうならないために、足を振る時には身体(少なくとも腰より下)を壁に対して横に向ける必要がある。
壁と腰が平行に向かい合っていては足は振れず、その状態で足を振ったとしてもそれは左右に足を振っていることになり、不安定で力の無い足振りになってしまう。
左右に足を振ることのデメリットは実は不安定で力が弱いだけでなく、もっと致命的なデメリットとして、「腰を壁から遠ざけてしまう」というものになる。
足を左右に振ろうとすると、振っている足は体の後方で楕円を描く様な軌道で戻ってくる。
その際、振った足が腰を後方に引っ張るような力が生じることになる。
もし足を左右に振って勢いをつけて次のホールドに届いたとしても、そのホールドは腰が後ろに引っ張られながら掴むことになり、非常に難しいタイミングと力が要求されてしまう。
足を前後に振るためには、
振る足のほうの腰を壁から遠ざけ、壁と腰に角度をつける。
つまり体の前面は壁ではなく次にとるホールド方向を向く。
この時、壁と体の間の空間は変形された形をとることになる。
両手両足をついて真上に出るようなムーブを起こす場合は、
なるべくきれいな四角形(台形)の空間を作って、素直にそれを潰すようなイメージで出て行けばいい。
しかし体を横に向けた場合、
壁と体の間の台形の空間は三角形に近い形に歪むことになる。
そして勿論次のホールドを取った時にはこの空間は潰れていなければならない。
そのためにはムーブの途中に半身をひねる必要がある。
これはドアをイメージすると分かり易いと思う。
残すほうの手を蝶番、体そのものがドアであると見立てて、
動きだしの前に大きくドアを開き、ドアを閉じながら動き、動き終わりにはドアは閉まっている。
そういうイメージ。
足の軌道も腰の捻転に併せて少し変化することになる。
最終的には足の軌道は壁と並行ではなく少し壁に向かっていくような軌道になる。
いや、腰の捻転に併せてというよりは足の軌道を壁に向かわせることで腰の捻転を生じさせるという順序になるのか?
まあとにかく振り上げきった瞬間にはつま先や膝頭の向きは壁の方向を向いているはずである。
このように、三角形に近い形の空間を作り、その空間を潰しながら動くことで、
取りに行く方の手、肩、腰が、壁に向かっていきながら次のホールドをキャッチする事ができる。
動き出し前の壁と体の間の空間が偏りの無い四角形の場合、なんとなく足が振りにくいはず。
そして空間の三角形の向きが逆の場合(出す方の肩が壁に近くて残す方の肩が壁から遠い状態)全然サイファーでは上手く飛び出せないはずだ。
・視線の動きと頸反射
頸反射という単語を聞いたことがあるだろうか?
これはごく簡単に言うと
首の動きに反応して体の他の部分が連動的に動くような現象のこと。
神経系の働きによるものらしいけども、詳しいメカニズムは良くわからない(笑
以前、ランジについて書いた時に
「残した方の手を見ると止まる」といった趣旨のことを書いたけれど、これも実は頸反射の一種なんじゃないかと思う。
今回言いたいこともまさに「残した方の手を見る」ということで(というか大体のムーブにおいてこの視線移動は正義だよなあ)
前項での腰の捻転の動きについてを言葉にすると、結構な長文になっているし、なんだか複雑そうでよくわからないと思う方も多いはず。
しかしこの視線移動による頸反射の利用によってあまり難しく考えずに動き出し前の空間作りと、動きの中での腰の捻転を生むことができる。
まず、動き出し前
単純に目標のホールドに顔をしっかり向けてよく見る。この時、少し頭を後ろに反らしてもいい。
すると自然に肩も目標方向に開き、そこで腕を伸ばして体を後ろに引けば三角形に近い空間が自然と開くはずだ。
次に、
体を振って飛び出して、目標のホールドを取る直前には残した方の手に振り返る。
この意識を強く持っていれば、ムーブの途中に「首が振り向く」という動作が必ず内包される。
そしてこの「首が振り向く」という動作に連動して肩が回転し、腰も回転する。
このように、ただ視線の方向を意識して移動させるだけで、体も自然とそれに併せて動いてくれるはずだ。
勿論、この視線だけでゼロからすべてが解決するわけではないが、
「概ねフォームはできているはずなのに上手くいかない」
「ホールドには届いているのに掴めずに落ちる」
くらいの段階に居る場合、あとはこの視線だけを意識すれば簡単に上手く行ったりすることは多いと思う。
長々と理屈っぽく書いたので
「いや、わけわかんないよ!」
「そんな理屈とかどうでもいいよ!」
「もっとわかりやすく一言で!」
そんな風に思う人も多いと思うのでなるべく短く要点をまとめると
①まず体ごと目標ホールドのほう向いてよく見ましょう
②足を前後に強く振りましょう
③動き終わりの辺りで振り向いて残した方の手を見ましょう
このへんを意識するだけでサイファーが結構サマになってくるんじゃないかと思う。
・最後に
今回の記事を書くにあたって何度も観た動画がコチラ
プロクライマーCarlo Traversiがピョンピョン跳ぶ楽しげな動画です。
まず注目して欲しいのは1:15くらいの、
黒板になんか書いてる後ろで、カルロが足振って跳んでいるところ。
この振りかた!
この跳びかた!
これをやりましょう!
っていうことを理屈ったらしく長々書いているのがはじめに書いている
【・足の振り方の誤解】
感覚派の方はもうこんなん読んでないでそこを観て下さい。
次に観て欲しいのは1:26~1:37くらい
遠いランジを一度失敗して、足の振りを確認してからもう一度跳んで成功させるシーン。
(失敗シーンは演出上意図的にやっているんだろうけど)
失敗シーンは、足も良く振れているし、腕も良く引けているけど、右半身が全然壁に向かって捻転していっていないのが分かる。
成功シーンは、右半身がギュルって感じで捻転して壁に向かっている。
足を左に振りきっている瞬間、腰は壁に垂直くらいまで開いているのに、右手を離した瞬間くらいには腰の角度は壁と並行まで閉じられているのが分かる。
そして止めた時には視線は左下。そうすることで右肩のポジションが右手のホールドの下にしっかり入って振られないぶら下がり姿勢を実現している。
2:05~の横からのアングルを観ればいかに右腰が開かれているかと、振っている足のつま先の向き、膝の向きがどう変化しているかが分かり易い。
結局のところ百聞は一見に如かず。
上手い人の登りを見て学ぶほうが文章を読むよりもよっぽど分かり易い。
でも、
「上手い人は上手いからできるんでしょ?」
「強いから遠くまでとべるってだけでしょ?」
「保持力が違うから…」
そんな風に言って
「強い人は強い人、自分は自分」
みたいな感じで他者の登りから学ぼうとしない姿勢では、いくら上手い人の登りを見てもなにも学びとれることはない。
サイファーだったら
「なんか強い人が足を横に振って跳んでた!カッコいいからまねしたろ!」
くらいの気分でなんとなく真似して(それはそれで良いことだと思う)
で、出来なくて、
「ああーアレは強い人専用ムーブだわー。弱い俺には出来ないやつだわー」
ってなってゆくゆくは
「サイファー苦手です」
みたいに言うんじゃなくて、
なんとなくカタチだけそれっぽく真似しようとせず、もっとよく見て、
【どういうフォームでやればいいのか】
【そのフォームにはどういう意味があるのか】
ということを観察して、考えたりすること。
あとは手本となる上手い人に聞いたり、仲間と技術的なことについて話し合ったりすること。
そういうことが結局一番大切なんだと思う。
身体的に強くなるってことには、年齢だったり骨格や体質だったりでなにかしら限界はあるかもしれないけど
技術的なことは「上手くなろう」という意思さえあれば誰でもいくらでも上手くなれるはずだから。
でもこの「上手くなろう」という意思を持ち続けるっていうのもまた難しい話で……
まあそのあたりの話はまた別の機会に。
2019年3月5日火曜日
続・チョークについて
ちょっと前回の記事を書いてから一晩経ってまた思う事があったので、
補足として少し書く。
チョークに滑り止め機能はある、という説の反証として、
①「クライミングシューズのソールにチョークを塗るとかえって滑りやすい」
②「ホールドにチョークが乗りすぎているとかえって滑りやすい」
という例が挙げられると思う。
①について
これは単純に「クライミングシューズのソールのフリクションがチョークのそれより優れている」という仮説が立てられる。
例えば
ステルスHFとホールドの間の摩擦力を評価100として
チョークと皮膚の間の摩擦力が評価70くらい
ホールドとチョークの間の摩擦力が評価70くらい
皮膚とホールドが直接だと摩擦力が評価50くらい
みたいな。
すごく雑にまとめると
フリクションの強さがそれぞれ
ソール・ホールド間>皮膚・チョーク・ホールド間>皮膚・ホールド間
の順に並んでしまうってことなんじゃないだろうか?
故に、ソールにチョークを塗ってしまうと100が70になるので「かえって滑りやすい」という説に繋がる。
そして「ソールにチョークを塗った方がフリクションが増す時がある」という説も同時に存在する。
これは例えばビブラムXSEdgeやステルスオニキス等、元々フリクション性能に特化していない種類のソールであったりが、
さらに気温等の条件によってソール・ホールド間のフリクションの値がチョーク・ホールド間のフリクションの値を下回ってしまう時に言えることなんじゃないだろうか?
皮膚の状態というのも個人差や状況差によって一定でない。
場合によっては、皮膚・ホールド間のフリクションがチョーク・ホールド間のフリクションを上回ることもまたあるかもしれない。
僕の乏しい経験からになるからあまりはっきりとは言えないが、
「チョークを手につけるとかえって滑りやすい」
という発言を最もよく聞くのが小学生くらいの子供からだ。
触ってみると、小学生くらいの手の肌はしっとりとしていて柔らかく、それでいて手汗を過剰にかいたりしない。
前の記事で言ったフリクションを得るための「適切な水分量」にかなり近い状態を保ち続けやすいのではないだろうかと思う。
そのようなフリクション的に理想的な皮膚の場合は、フリクションの関係が、皮膚・ホールド間>チョーク・ホールド間になることもありそうだ。
しかし、手の状態というのは生きているが故に変動が激しい。
登り始めには理想的柔らかさ+「適切な水分量」によって100の摩擦力があっても、発汗等の要因によってそれが50くらいまで変化することはあるだろう。
しかしチョークを用いれば常に70近くの摩擦的評価を得続けることができる。
高い水準でフリクションを安定させ続けやすい、というのがチョークの利点なんではないだろうか。
②について。
これはまあ単純に「適量」があるということだろう。
いい具合に、ホールド―チョーク―皮膚、とチョークの粒子の凹凸がホールドと皮膚を繋ぎ合わせるような量であればフリクションは増すだろうし、
チョークの粒子が堆積するくらいになってしまっていると、その堆積したチョークが崩壊するような感じで滑っていくんじゃないかと思う。
ブロックチョークの表面を強く撫でると表面は削れていく。
削れていくから撫でる指は滑って行く。
過度にチョークが堆積したホールドの表面はそのブロックチョークのような状態に近くなっていると言える。
しかもしっかりと形成したわけでもないのでブロックチョークよりもさらにその堆積は崩壊しやすいはずだ。
イメージ的にはこんな感じ。
なので過度にチョークが堆積したホールドを持つと滑りやすいという現象は、
「チョークが滑っている」というよりは「積もったチョークがズレている」というような表現が適切なんじゃないかと思う。(まあ結果的には同じなわけだけども)
以上、
前回の記事の補足としての考えをちょこっとまとめてみた。
まあ相変わらずこれらはただの経験則で(いや、経験則というのもおこがましいか)
なんら正確な実験やら数値的な計測を行ったものではない。
だから間違った解釈や的外れな考察を多分に含んでいるだろうし、
どこまで行っても「~と思う」以上は言えない。
でも「こんな考え方がある」と他のクライマーの方々に伝えて、
誰もが思考停止的に「チョークって実は滑り止めじゃないんだぜ」って言い続ける状況を変えたい。
そして、「チョークは滑り止めである説」の反証として
しっかりとした実験や論拠に基づいて
「やっぱりチョーク自体に滑り止めとしての機能は無い」
ということが立証されるのならば、
それはそれでクライミングにおけるフリクション問題を前進させる切っ掛けになれるんじゃないかと期待している。
補足として少し書く。
チョークに滑り止め機能はある、という説の反証として、
①「クライミングシューズのソールにチョークを塗るとかえって滑りやすい」
②「ホールドにチョークが乗りすぎているとかえって滑りやすい」
という例が挙げられると思う。
①について
これは単純に「クライミングシューズのソールのフリクションがチョークのそれより優れている」という仮説が立てられる。
例えば
ステルスHFとホールドの間の摩擦力を評価100として
チョークと皮膚の間の摩擦力が評価70くらい
ホールドとチョークの間の摩擦力が評価70くらい
皮膚とホールドが直接だと摩擦力が評価50くらい
みたいな。
すごく雑にまとめると
フリクションの強さがそれぞれ
ソール・ホールド間>皮膚・チョーク・ホールド間>皮膚・ホールド間
の順に並んでしまうってことなんじゃないだろうか?
故に、ソールにチョークを塗ってしまうと100が70になるので「かえって滑りやすい」という説に繋がる。
そして「ソールにチョークを塗った方がフリクションが増す時がある」という説も同時に存在する。
これは例えばビブラムXSEdgeやステルスオニキス等、元々フリクション性能に特化していない種類のソールであったりが、
さらに気温等の条件によってソール・ホールド間のフリクションの値がチョーク・ホールド間のフリクションの値を下回ってしまう時に言えることなんじゃないだろうか?
皮膚の状態というのも個人差や状況差によって一定でない。
場合によっては、皮膚・ホールド間のフリクションがチョーク・ホールド間のフリクションを上回ることもまたあるかもしれない。
僕の乏しい経験からになるからあまりはっきりとは言えないが、
「チョークを手につけるとかえって滑りやすい」
という発言を最もよく聞くのが小学生くらいの子供からだ。
触ってみると、小学生くらいの手の肌はしっとりとしていて柔らかく、それでいて手汗を過剰にかいたりしない。
前の記事で言ったフリクションを得るための「適切な水分量」にかなり近い状態を保ち続けやすいのではないだろうかと思う。
そのようなフリクション的に理想的な皮膚の場合は、フリクションの関係が、皮膚・ホールド間>チョーク・ホールド間になることもありそうだ。
しかし、手の状態というのは生きているが故に変動が激しい。
登り始めには理想的柔らかさ+「適切な水分量」によって100の摩擦力があっても、発汗等の要因によってそれが50くらいまで変化することはあるだろう。
しかしチョークを用いれば常に70近くの摩擦的評価を得続けることができる。
高い水準でフリクションを安定させ続けやすい、というのがチョークの利点なんではないだろうか。
②について。
これはまあ単純に「適量」があるということだろう。
いい具合に、ホールド―チョーク―皮膚、とチョークの粒子の凹凸がホールドと皮膚を繋ぎ合わせるような量であればフリクションは増すだろうし、
チョークの粒子が堆積するくらいになってしまっていると、その堆積したチョークが崩壊するような感じで滑っていくんじゃないかと思う。
ブロックチョークの表面を強く撫でると表面は削れていく。
削れていくから撫でる指は滑って行く。
過度にチョークが堆積したホールドの表面はそのブロックチョークのような状態に近くなっていると言える。
しかもしっかりと形成したわけでもないのでブロックチョークよりもさらにその堆積は崩壊しやすいはずだ。
イメージ的にはこんな感じ。
なので過度にチョークが堆積したホールドを持つと滑りやすいという現象は、
「チョークが滑っている」というよりは「積もったチョークがズレている」というような表現が適切なんじゃないかと思う。(まあ結果的には同じなわけだけども)
以上、
前回の記事の補足としての考えをちょこっとまとめてみた。
まあ相変わらずこれらはただの経験則で(いや、経験則というのもおこがましいか)
なんら正確な実験やら数値的な計測を行ったものではない。
だから間違った解釈や的外れな考察を多分に含んでいるだろうし、
どこまで行っても「~と思う」以上は言えない。
でも「こんな考え方がある」と他のクライマーの方々に伝えて、
誰もが思考停止的に「チョークって実は滑り止めじゃないんだぜ」って言い続ける状況を変えたい。
そして、「チョークは滑り止めである説」の反証として
しっかりとした実験や論拠に基づいて
「やっぱりチョーク自体に滑り止めとしての機能は無い」
ということが立証されるのならば、
それはそれでクライミングにおけるフリクション問題を前進させる切っ掛けになれるんじゃないかと期待している。
2019年3月4日月曜日
チョークについて
最近チョークにとって思うことが色々とある。
なんとなく思うこと、声高に叫びたいこと、やってみたこと……
様々あるのでちょっと書いてみる。
①チョークは滑り止めである
チョークは滑り止めである。
クライミングにチョークをしっかりと使っていて、チョークについてきちんと考えている人はこれに異論を唱える人はほとんど居ないと思う。
しかし、驚くべきことに
Googleで「チョーク 滑り止め」で検索すると、様々な記事が現れてくるが、それのほとんど(もう本当にうんざりするくらいほとんどの記事に)にまず「チョークは実は滑り止めではない」というような旨のことが書いてある。
トップに出てくるのは
その記事の冒頭にはこう書いてある。
- 実は、チョークの主成分である炭酸マグネシウム自体は滑り止めではありません。例えば、滑りやすい路面に炭酸マグネシウムをまき、その上を歩いたら、逆に滑りやすくなるほどです。 では、なぜチョークを使うのかというと、炭酸マグネシウムは吸水性に優れるから。つまり、手から出る汗を炭酸マグネシウムが吸い取ることで、手指が汗で滑ってホールドから落ちるのを防ぐ役割を果たしているのです。
はい。
恐るべきことはこれが記載されているのはアマチュアの個人ブログなんかじゃないということ。
CLIMBING-netという日本で恐らく最大のクライミングポータルサイトが公式に
「クライミング用チョークの基礎知識」として、
チョークが滑り止めだと思っているのは初心者の抱える誤解であり、本当はチョークに滑り止めとしての効果なんてないんですよと発信している。
その他、どこかのジムのブログから個人のブログに至るまで、チョークについて扱っている様々な記事のほとんどはまず似たような冒頭から入っている。
チョークは実は滑り止めなんかじゃないんですよ
と。
?????
「例えば、滑りやすい路面に炭酸マグネシウムをまき、その上を歩いたら、逆に滑りやすくなるほどです。」
いやいやいやいや。
そんなん路面に何かしらの粉を大量に撒いたらそれがどんな性質の粉だろうとそりゃ滑りやすくなるわ。ステルスMi6のコンパウンドだって大量に撒けば滑るわ。
本当に検証してるんだろうか?
きちんと、人間の皮膚と岩(あるいは人工ホールド)との間で、適量のチョークの有無によってフリクションが増減するのか。
それは水分の多寡によるものなのか。
そういったことを検証した上での発言なのだろうか?
もししっかり検証していたのだったら申し訳ない。
しかし、実感として、チョークが滑り止めではないという意見に対しては大声でNO!と叫びたい。
僕は超がつくほどの乾燥肌だ。
指先は老婆の踵のように角質化し、ひび割れ、ケロイド状に近い質感になっている。
手指に水分油分はほとんど無く、本のページもうまくめくれなければ紙幣を素早く数えることもできない。
チョークには実は滑り止め効果は無く、むしろ滑りやすくなる原因になり、にも拘わらずチョークを付けるのは手から水分を失わせるという目的があるからなのだとしたら、僕はチョークを付けるメリットが全くないことになる。
しかし実際、僕はチョークを付けないとほとんどホールドを保持することができない。
スローパー系のホールドなんてノーチョークでは全く持てない。
しかし、チョークをきちんとつけたとたんにピタっと止まり始める。
プラシーボ効果?
いやいや、さすがにそんなレベルじゃなく差が出ている。
乾燥肌とはいえ僅かに油分や水分が手のひらにあって、それをチョークが吸っているからフリクションが増している?
その仮説に対する反証のため、手をしっかり洗って皮脂を落とし、しっかり乾かした後、アルコールを刷り込み水分を完全に飛ばした状態でホールドを持ってみた。
全く何もしない状態に比べれば僅かにフリクションは増した感はあるが、それでもチョークを付けた状態から比べればまったく誤差のレベルだった。
もし、乾燥肌の手をさらにアルコールで乾燥させた状態でもまだ水分が取り切れなくて、その僅かな水分があるだけでもホールドは保持できなくて、その僅かな水分をチョークは取り去ってくれている、というんならチョークってのは一体どんな恐ろしい物質だと言うんだ……。
まあもういいや。
とにかく、言いたいことは、チョークそのものに皮膚とホールドの間のフリクションを増す効果は確かにあるということだ。
②水分=悪なのか?
そもそもフリクションにおいて
水分=悪なのか?
これは僕が乾燥肌だから特に感じることなのかもしれないが、この答えについても断じてNO!だ。
チョークにも適量があるように、水分にも適量があるというだけの話だと思う。
僕はスーパーの袋を開けるのが大の苦手だ。
ぜんっぜんビニールと指の間にフリクションが生じない。
大体のスーパーには袋詰めスペースに水を含ませた布巾を置いてあったりする。
その布巾で指を湿らせるとビニールと指の間にフリクションが生じ、ビニール袋をやっと開けることができる。
「そりゃビニールの話じゃん。ホールドの話じゃないじゃん」
と思われるかもしれないが、ビニール以外の素材についても、軒並みいろんな物とのフリクションを確かめてみると、やはりある程度水分があったほうがフリクションが増す。
クライミングホールドについても、ノーチョークという縛りで行くんなら、手を水の中にある程度の時間浸けて、指皮が水分を含んだ後、軽く水を拭いて半乾きくらいの状態でホールドを保持した時が一番フリクションを感じる。
じゃあ水分はフリクションを生む善なる存在なのか?
もちろんそういうわけでもない。
僕も乾燥肌とはいえさすがに夏場などでは手がヌメるということもある。
一定のところまでは水分があってくれたほうがフリクションは良い感触があるが、そこを超えると今度は水分が原因で滑ってくる感覚がある。
ホールドと指の間に高いフリクションを生じさせるための「適切な水分量」というものが確かにある。(それはホールドの材質や形状などによって異なるだろうが)
イメージとしてはこんな感じ
このなんちゃってグラフはあくまでなんとなく僕が感じるイメージであり、実際はこのような綺麗な曲線を描くということも無いだろうし、フリクションが頂点となる適切な水分量というのが数値的にどれくらいのものなのかというのは正直全く分からない。
でもイメージとしてはそんなに的外れじゃないんじゃないかと思う。
③乾き手とヌメり手はどっちが良いの?
これも僕が乾き手なので、乾き手側の主観と偏見を多分に含んだ意見にはなるんだけども、まあ思うことを書いていきたい。
(なにせこれはアマチュアクライマーのただの個人的なブログでしかないからだ)
前項でまず「適切な水分量」があるというようなことを書いたが、
まず乾き手のクライマーは初期でその「適切な水分量」が無い。
むしろヌメり手クライマーは初期に「適切な水分量」に近い状態に近いと思う。
しかし登り始めて手数が進むにつれ、ヌメり手クライマーは「適切な水分量」から遠ざかり、乾き手クライマーは徐々に「適切な水分量」に近付いていくということが言えるのかもしれない。
ヌメり手クライマーが「適切な水分量」から遠ざかるのを防ぐためにチョークの「吸水性」が活躍するし、乾き手クライマーが「適切な水分量」を持たない段階でフリクションをサポートするためにチョークそのもののフリクションが作用してくれる面があるんじゃないだろうか。
これは暴論かもしれないが、ヌメり手と乾き手のクライマーはそれぞれチョークの持つ別々の特性を利用しているという側面もあるのではないだろうか?
故に、乾き手のクライマーは、吸水性はイマイチだが、粒子のサイズや形状によってフリクションを生みやすいチョークを必要とするはずだし、ヌメり手のクライマーはチョーク自体がフリクションをそう生じなくても、吸水性に優れたチョークを必要とするんではないだろうか?
これは余談だが「東京粉末BOOST」
これは物凄くかみ砕いて言ってしまえば「乾き手のクライマーがヌメり手クライマーの利点を手に入れるための道具」だと個人的には解釈している。(まあ勿論そういうコンセプトで作られていると言われているわけじゃないし、実際にもっと奥深い効果があるんだろうと思う)
乾き手の自分がBOOSTを使用すると、直後に良い感じに皮膚に水分を感じ、フリクションのための「適切な水分量」になっているという感覚を得る。
「ヌメり手の人って登り始めの段階ではこんな感じのフリクションを持ってるんじゃない?」
そんな感触を勝手に想像する。
そして僕は乾き手なわけだから、そこから手数が進むにつれ過度に水分が出すぎるということもない。
またなんちゃってグラフになるんだけど
こんなイメージなる。
登り始めのスタート直後はやっぱりヌメり手の人が有利なんじゃないか?という乾き手クライマーの嫉妬みたいなものがにじみ出たイメージになってしまっているけども
もう一度言いますがあくまでイメージです。
(そもそも乾き手とかヌメり手とかも綺麗に二分できるわけじゃないし、もっと右側からスタートするびっちゃびちゃの手の人も居るだろうし、程度の違いを言い出したら出発点の水分量なんてみんな違うしね)
まあでもこのイメージなんちゃってグラフでもやっぱり乾き手+BOOSTが最強なんじゃないかと思わされる。
次点でちゃんとチョークを使ったヌメり手。
で、BOOST抜きにしても手数の多いルートに関してはやっぱり乾き手のほうが有利になるんじゃないかと思う(途中でチョークアップをしないという条件に限り)。
でも7手以内くらいで完結するボルダー課題で、かつハリボテボリューム多様のフリクション勝負の課題の場合はヌメり手のほうが結構強いんじゃないかと思う。
④今まで使ったチョークについて
理屈っぽい話はこれくらいにして、
実際に今まで自分が使ってきたチョークについてちょっと触れていこうと思う。
前述のとおり僕は乾き手で、そんな僕の主観的な意見・感想をそれぞれだらっと述べていきたい。
CAMP チャンキーチョーク
僕が最初に「こりゃいいや!」と思ったチョーク。
これ以前に使っていたチョークは正直何を使っていたか覚えていない(笑)
チャンキーを指で押しつぶすようにして指に刷り込むと僕の乾燥肌に対してもしっかり吸い付いてくれる感じがある。
東京粉末 EFFECT
昔、誰かのチョークバッグの中から良い匂いがしたのをきっかけで出会った。
その良い匂いがカッコいい!という思いだけで購入するも、コレがまたフリクションという意味でもCAMPを超える噛み合いを見せ、しばらくこればっかり使っていた。
東京粉末 BLACK
現在の自分の主力チョーク。
EFFECTの良さにすっかり惚れこんでいたが、それを超えるBLACKが出る!という発売当時の話題性に負けてホイホイ購入。
EFFECTに比べて抜群に良いぜ!ってほどの違いは感じないが、やはり気持ちこちらのほうが安定する気がしているのでやはりこちらを愛用している。
なんとなくしっとりとしている感触で、乾燥肌に対しても弾かずにくっついてくれる。
フリクションラボ GORILLA GRIP
岩で使える!と評判だったので購入。
結論から言うとあまり自分には合わなかった。
悪いというわけではないが東京粉末と比べると今一つ合わない。
なんというか、指にあまり馴染まないような感触。乾燥しすぎているのかも?
ヌメり手の人のほうがこのチョークは合うんじゃないだろうか?
USAMIX ザチョーク
これは確か貰い物で使ってみたんだけど、これもしっとり系で良い感じ。
コスパも良いし、主戦力にしてもいいかなーとも思ったけどやはり東京粉末BLACKのほうがなんとなく安定感あるかなー、というところ。
東京粉末が無かったらコイツが主力になっていた可能性もあった。
フリクションラボ シークレットスタッフ
これもネットの評判で購入。
何故か特定のホールドに対しては粉チョークを上回る抜群のフリクションを発揮した(LapisのBallsシリーズだったかな?)。
ポリウレタン系でなくポリエステル系の人工ホールドに対して相性が良かった。
自然岩にしても岩質によってはコイツが抜群に効くものがあったのかもしれない。
そういったバリエーションを試す前に無くなってしまった(それでも2本は使い切った)。
色々可能性は感じたものの。コストパフォーマンス面と、安定性の面からもう使わなくてもいいかなーと思っている。
ペツル POWER LIQUID
貰いもので使ったのが最初。
ロジンが多量に含まれているのでジムでしか使えない。
ロジンの威力はすさまじく、何課題か登っても全然チョークが落ちることが無い。
これは凄い。フリクションがめちゃくちゃ持続するじゃん!と思ったのは始めだけで、チョークが残っている=フリクションが残っているわけではないということに途中で気づく。
そしてロジンと自分の肌の相性がそんなに良くないらしく、かえってロジンによってフリクションが失われるような感触があるときすらあった。
やはりフリクションを感じるときとそうでない時の安定感に欠けること、そもそもロジンを使うということに対する若干の嫌悪感、それらにより使用しなくなった。
PD9
うーん、合わなかった。
岩でも人口壁でもとにかく良いと思うことがほとんど無かった。
期待度を下げて「どうせ止まんねーや」と思いながら使ったら「お⁉意外と効くぞ」と思ったこともあったが、その後同じホールドを普通にチョークアップして触ったらもっと持てたのでやっぱり粉チョークを普通に使ったほうが持てる。
粉チョークの下地としてなら使ってもいいかとは思うが、これを下地として使ったからさらにフリクションがかなり上がったということも無かった。
これもヌメり手の人にとっては結構良かったりするんだろうか。
⑤液体チョークづくり
今日び、あまり「液体チョーク縛り」のジムっていうのもそんなにないけれど、
今の自分の所属ジムがなんと液体チョーク縛り。
始めはかなり煩わしいと思っていたけど住めば都、慣れればそんなに気にならない。
しかしまあ既成の液体チョークにあんまり合うのが見つからない。
人のを試してみたりちょっと買って試してみたりと色々やったがやはり東京粉末BLACKを粉で使った時の噛み合いに及ぶものが無い。
ということで、
作ってみることにした
東京粉末BLACK LIQUID
作り方自体にはそう試行錯誤は無い。
粉末のBLACKに、75%エタノール製剤を混ぜるだけ。
この75%エタノール製剤、本当は無水エタノールに精製水を混ぜて自分でいい具合に配合するのが純粋でいいんだろうけど手間がかかるのが嫌なので、使用したのは「マイアルファ75」
問題は入れる容器。
自分的にコレは良い!と思ったのは
ダイソー等の100円ショップで売っている
「はちみつボトル」
こんな感じのやつ。
これに粉末を満タンになるまで入れ、マイアルファをすこしづつ入れていく。
長い棒を突っ込んでぐりぐりとかき回しながら泥のような見た目になるまでマイアルファを足していく。
そこからはお好み。
本当に液体のようなシャバシャバにしたいならもっとマイアルファを足せばいい。
僕は泥くらいの感じが良いと思った(乾くまでの時間が短縮される。なんか指に深く刷り込める感じがする)のであまりシャバシャバにならない程度にしておく。
で、最後の仕上げに蓋をしっかり占めてからガッシガッシに振る。
完成。
粉末満タンくらいから作る始めるとこの時点でボトル半分くらいの液チョーが出来上がっていると思う。
使う時もはちみつボトルが優秀で、泥状くらいに仕上げた場合、容器を軽く押すと歯磨き粉みたいな感じでちょうど良く出てきてくれるし、蓋の密閉性も意外と高く、品質の劣化もそんなに早くない。
お勧めです。はちみつボトル。
やっぱり液体(というか泥状)にしてもBLACKは良い。
僕の肌に対してあきらかに市販の液体チョークと比べて一線を画す噛み合いっぷりを見せる。
まあ、液体チョーク限定のジムで登りでもしないかぎりわざわざこんな風に手作り液体チョークをつくる必要なんて無いだろうけど、もし作りたいと思っている人がいたらちょっとは参考になったら幸いです。
以上!
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