2015年5月18日月曜日

デッドポイント理論―壁との距離―


以前ランジのコツについて書いた、


っていう記事があるんですが、

実はそれがこのブログ内で最も読まれている記事なんですよ。

次に多く読まれている記事の倍以上。

普段の日記みたいな記事に比べると約10倍くらい読まれてます。

意外、というかなるほど、というか。


なので(ってわけじゃないけど)

今回もそのようなことを書こうと思います。

今回の内容はある意味前回の理論の応用であり、ある意味前回の理論の下にあるものでもあります。

今回のキーワードは

壁との距離

です。


クライミングのムーブについて語るとき、

どうしても

上下左右二次元的な動きだけを考えがちです。

が、

実際はそこに前後の動き(=壁と体の距離)が重要な要素として絡んできます。


まずはこの動画を見て下さい。




次にこの動画を



前者の動画を、後者の動画をとします


二つとも、同じホールドを使用しています。


ちなみに持っているホールドとしては、

右手:悪目のカチ
左手:けっこう持てるピンチ
左手で取りにいく:悪目のカチ

となっています。左足は小さなホールドを踏んで右足は切っています。


見ればわかると思いますが、

Aのほうが安定しており、

Bのほうが不安定です。

両者の違いは、

次のホールドを取りにいく前と後の壁と体の距離です。


Aでは

ホールドを取りにいく前に体を壁から離しています。

結果、ホールドを取った後のほうが取りにいく前よりも体が壁に近づいています。

Bでは

ホールドを取りにいく前に体を壁に密着させています。

結果、ホールドを取った後のほうが取りにいく前よりも体が壁から遠ざかっています。


つまり

Aは
壁に向かいながらホールドを取っている。

Bは
壁から離れながらホールドを取っている。

ということです。


さらにわかりやすく画像で解説します。

まずはA

①取りにいく直前


②手を出した直後


③取ったところ

それぞれの時点での腰の位置を水色の丸数字肩の位置を緑の丸数字で表しています。

①~③に以降しながら、ほぼまっすぐに壁に向かって近づいていっています。



次にB

①取りにいく直前


②手を出した直後


③取ったところ

①~②の間ではほとんど腰と肩の位置は変わっていませんが、
③に到達した時点では肩と腰の位置は①時に比べ壁から遠ざかっています。


ここまで敢えてハッキリとはAとBどちらが良いとは言及していませんが、

まず大半の人は

AのほうがBよりも良いと思ってくれたと思います。


結論を一言で言いますと。

デッドポイントの一手を出す場合は、

壁から離れてからムーブを起こしたほうが良い。


ということになります。

壁から離れてからムーブを起こすと、
壁に向かっていきながら次のホールドを取れる。

壁に密着した状態からムーブを起こすと、
壁から剥がされながら次のホールドを取る事になる。(=剥がされる力に耐える必要がある)

ということです。

「壁から離れないために壁から離れる」という、一見矛盾したような一文になりますが、コレが今回の結論になります。


さて、ここでデッドポイントの一手を出す場合と微妙に状況を限定したのは、

スタティックに動く場合においてはこれが適用されない場合も多いからです。


ここでBの①~②間の肩と腰の位置関係を見て下さい。
殆ど変わっていません。それは右手や体幹等の力で耐えているからです。

そのまま右手でロックすることが出来ていれば、

常に腰と肩の位置を壁に密着させたまま③を迎えることが出来たはずです。

そのようにスタティックに動けるような状況ではわざわざ一旦壁を体から離す必要性も無いでしょう。
特にスラブやフェイスなどでは、スタティックに動いている分には壁から剥がされる力はあまり生じません。



さて次に補足として、

キャンパシングの動きについて見てみましょう。

また動画から。





じゃあ今度は前者の動画を、後者の動画をとします

身体の振られに注目してみましょう。

aよりもbのほうが振られが大きいように見えます。

これも、前述した壁との距離によるものです。

また図で補足します。


ではaから(解りやすく、最も大きな動作の2手目で解説します)
またそれぞれの時点での腰の位置を水色の丸数字肩の位置を緑の丸数字で表していますのでそこに注目してください。

①手を出す直前


②手を出した直後


③取った瞬間


④取った直後の振られ


⑤振られ収まり



次にb

①手を出す直前


②手を出した直後


③取った瞬間


④取った直後の振られ


⑤振られ収まり


見れば解るとおり

aのほうは肩及び腰はやや後方に下がりながらも基本的には上方に向かい、取った瞬間からその後大きく後方には引っ張られてはいません。

bのほうはほぼ水平に肩及び腰が後方に移動しています。


お分かりの通り

aは手を出す前に、体を壁から離しています。

bは手を出す前に、体を壁に密着させています。

それにより手を出した後の、後方へ行く距離が変わっています。


さらに体の高さも違いますね。

さすがにキャンパなので前述のデッドの時と同じように、初動時に壁から体を離していてもそこから壁に向かうということはできず、後方にも向かっています。

しかし、同じ距離を水平に移動するのではなく、上方への角度をつけて斜め上に出てやれば後方へ引っ張るエネルギーは少なくなります。

極端な話、100mの高さにボールを投げて1m前に進んだ、だとそれはもうほとんど垂直に投げたのと同じですよね。
(これで分かるかな?・・・)

このように、なるべく「下から上へ」向かうというのも「前から後ろへ」向かう力を抑制するのに役立つということです。



aのような動きをするために重要なのは、

体の前方でホールドを持つことです

これは意外と難しいです。

人は悪いホールドを保持しようとするとき、どうしても肩から先の関節を縮めて固めて体に近い所で持ちたくなります。

実際、そのほうが力が込めやすく、その場にとどまることだけが目的ならばそのほうが安定感は増すでしょう。

なので

安定したロックを固める→手を出して振られる→振られを収める→安定したロックを固める

という手順で進むのもアリかもしれません。

でもそれだと、一手一手が分断されます。一手出すごとにロックを固めるので、全体でかかる時間も長くなります。時間がかかるということはそれだけ無駄にヨレるということにもなります。

それよりもホールドを持つ位置を体の前方に収めておき、振られ自体を少なくして全体の流れを作ったほうが効率的だと思います。

ただやはり、

そもそも、体の前方でホールドを持った姿勢でぶら下がることができない(またはそこから体をひきあげられない)となるとaの動きはできません。

そこはやはり最低限保持力は必要です、ってことになるんじゃないかと思います。

理論を実践し、技術を身につければ誰でも上手く登れます、と言いたいところではあるんですが、

理論を実践するための力は必要だし、技術を繰り出すための力も必要です。
力をなるべく使わないムーブを出すために力が必要、というなんとも本末転倒なことがまあクライミングにはあってしまうということもまた事実です。

なのでできるアドバイスとしては、

今後キャンパトレをする際や懸垂トレをする際、

両手の真下に体を入れてそこから引き上げるようなやり方ではなく、両手を体の前面(なるべく体から離した位置)に置いた状態でやってみるといいんじゃないかと思います。



なんだか『思います』と、いまいち断定できない部分が多くなってきました。

というのも、あくまで今回事実として観測できたのは

「初動時に壁から体を離したほうが動作完了時に壁から体が離れづらい」

ということであって、そこからのそれが良いとかあれが悪いとかはあくまでも僕の個人的な推測と意見でしかないからです。

なので今回のこの理論について納得がいかないところがある方や
「いやむしろそれは間違いだ」と思われる方もいるかもしれません。

なので

こういう動き方が正しい!というふうな言い方はしません。

僕もひょっとしたら数ヵ月後に意見がコロっとかわっているかもしれません。

でも少なくとも今回観測されたこの

「初動時に壁から体を離したほうが動作完了時に壁から体が離れづらい」

ということは少なくとも確かなことです。

そのことを元に、それぞれの方がそれぞれに自分のクライミングを高めるための理論体系を構築することができればいいかと思います。


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