2020年4月3日金曜日

スポルティバ新作「セオリー(THEORY)」レビュー

はじめに


「一目ぼれは遺伝子の合図」
と言ったのは誰だったか。

コイツにはまさに一目ぼれだった。
LA SPORTIVA THEORY


昨年ネットの海のどこかでその姿を見た瞬間に入手を決意した。

4月下旬の日本での正式リリースを待つこともできず、
某個人輸入クライミングシューズ販売サイトでポチっと購入。

そして実際に1週間ほど使用して感触を確かめてみたので、
ここでいったんレビューを綴ってみようかと思う。

比較による形状検証

まずは主観を交えない客観的な部分から紹介しようと思う。
ちょうど手元に
フューチュラ(サイズ35.5)

スクワマウーマン(サイズ36.5)
があったので、購入した
セオリー(サイズ36)
と並べて比較してみた。

ヒール

画像内の赤線はどちらも同じ長さ。

スクワマに比べて横幅が明らかに狭く、縦幅は若干高い。

履いた感触、というところで言うと
見た目ほど幅の細さは感じず、見た目よりも縦の深さを感じる。


トウ側の幅

画像内の赤線はどちらも同じ長さ。

幅の広さはスクワマ>フューチュラ≧セオリーといったところ

スクワマとセオリーは明確にラストから違いそうではあるが、
フューチュラとセオリーの差は履きこんでいるかどうかの違いと思えなくもない。

ソールの構造やラストはフューチュラに類似していると言っていい。


甲の高さ

画像内の赤線・緑線はどちらも同じ長さ。

まず、いわゆる「甲」の部分の高さは
セオリー≧フューチュラ>>スクワマ
明らかにスクワマが薄く、フューチュラとセオリーはややセオリーが高い程度
(ただしフューチュラは履きこんでいるのを考慮するとやはりセオリーが高いか)

そしていわゆる「トウボックス」の高さは
セオリー>フューチュラ>スクワマ
ここには明確にフューチュラとセオリーに差が出ている。


まとめると
セオリーの形状は
「大体フューチュラをベースとしており、トウボックスが厚くヒールが深く細い」
「スクワマと比べると足幅が細く甲が厚い」
ということになる。

フューチュラが非常に足に合っている筆者にとってはかなり感触が良い。


主観的な使用感

ここからは主観も交えた使用感を記す。

まず踏み感ということで言うと


上の画像の赤いエリアが
「強くエッジングできるポイント」(筆者はシューズのスイートスポットと呼んでいる)
黄色いエリアが、スイートスポットほどではないがホールドを捉えることがそれなりにできるポイント。
不思議なことにフューチュラはこの範囲がかなり広い。
緑のエリア(母指球のあたり)もスクワマとフューチュラは固くなっている。

セオリーの特徴は全体がほかの2足よりも明確に柔らかいということ。

セオリーにはP3以外のシャンクが排除されているため、
P3の入っている先端部分以外はかなり柔らかい。

しかし先端部分だけはしっかりと芯があって強いエッジングも可能としている。
スイートスポットの固さにだけに関してはほか2足とほぼ同等の固さを持っている


スイートスポットで捉えた場合
これくらい(厚みは大体9ミリ程度)のジブスに乗る程度であれば
垂壁で片足に全体重をかけてもしっかり踏める固さはある。

およそクライミングジム内に取り付けられている程度の大きさのホールドであれば
しっかりと体重をかけても負けないだろう。
この辺りが、チームvxiやレオパード、フューリアエアーなどの極端なソフトシューズとの違いになる。


そしてヒールについて

セオリーのヒールはスクワマとは全く感触が異なり、どちらかというとスカルパのインスティンクトVSのような感覚に近い。


黄色いバンド部分がサイドの黒い部分よりも固くなっている。
それによって強度のギャップが発生し、引っ掛かる感じがある。
カラーのゴムということでフリクションに若干の不安はあったがそこは全く問題が無かった。

そしてスクワマより若干深いので脱げそうになる感覚も薄い。

スクワマのSヒールは全体がなめらかな球状に近くなっていて、
どんなかけ方でもできる自由度がある反面、自分でコントロールし続けなければすぱっと抜けてしまうような感覚もある。

「ヒールの足裏感覚」という点ではフューチュラやスクワマにやや劣るが、ヒールの全体的な評価として個人的には他2足に勝る。


スポルティバハイエンドモデル性能別ランキング

ここからはセオリーと性能を比較されるべきスポルティバの他ハイエンドモデル、
ソリューションリブート
スクワマ(スクワマウーマン)
フューチュラ
の性能について個人的にランク付けしてみようと思う。
(スクワマとスクワマウーマンはどちらも履いてみたが両者に殆ど違いを感じないので同一扱いとする)
(ソリューションコンプは持っていないので割愛)

まずはシューズの性能を語る上で筆者が考える項目をいくつかに分類してみる。

足入れ
 快適に履いていられるか
足裏感覚
 ホールドを足裏で鋭敏に感じ取れるかどうか
トウフック性能
 トウフックがよくかかるか
ヒールフック性能
 ヒールフックがよくかかるか
スメアリング
 ハリボテ、ボリュームを捉える力の他に、外傾した薄いホールドに対しても適用
エッジング(柔)
 体重が浮いた状態で小さなホールドを捉えられるか
 強傾斜の足残りや、遠いホールドを掻き込む能力等
エッジング(剛)
 1点に体重を強く乗せた時に負けずに乗り続けることができるか
 踏み込んだ反発をしっかり得られるかどうか

個人的には、上に行くほど重要度が低く、下に行くほど重要度が高いと思っている。

それらを項目別に個人的ランクを付けると下記のようになる。

足入れ
1位 セオリー
2位 フューチュラ
3位 スクワマ
4位 ソリューション
セオリーが最も甲が高く設計されているため甲高の筆者としてはこうなる。
アッパー素材も柔らかく、トウラバーの面積の広さを感じさせない快適さ。
フューチュラもかなり馴染みが良く甲乙つけがたい。
スクワマは幅は広いが甲が薄め。
ソリューションは靴としての「型」がかなりしっかりとしているため、その型にピッタリ合う人以外は不快さを感じやすい。
足の甲が厚いか薄いかで、セオリーとスクワマの評価は逆転しそう。

足裏感覚
1位 フューチュラ
2位 セオリー
3位 スクワマ
4位 ソリューション
これはノーエッジに優るものは無い。
僅差でセオリーが時点。
スクワマも悪くない。
上位3足にそこまで大きな優劣は無い。もはや好みの問題と言ってもよさそう。
この項目ではソリューションだけが唯一明確に最下位。

トウフック性能
1位 セオリー
2位 スクワマ
3位 ソリューション
4位 フューチュラ
スクワマも登場時かなり革新的だと思ったが、セオリーのトウラバーの貼り方はもはや革命的。
シャンクレスのソールによって背屈方向に足底を反らせやすいのも掛けやすさに一役買っている。
ソリューションは形状によってやけに引っかかってくれるポイントがある。
フューチュラはいささかトウラバーの面積に乏しい。悪くは無いが上位と比べるとやや落ちる。

ヒールフック性能
1位 セオリー
2位 フューチュラ
3位 スクワマ
4位 ソリューション
スクワマ・フューチュラのヒールは良くも悪くも「まるで自分の踵を直接ホールドにかけているかのよう」な感触。
スクワマは特に。
ソリューションは逆に「靴をハメにいく」ような感触。
セオリーのヒールはスカルパのインスティンクトVSの感触に近い。
ヒールフックと言えば不動の4番バッターミウラーが居るが、
この4足の中で一番「ミウラーっぽい」のはセオリーかもしれない。

スメアリング
1位 フューチュラ
2位 セオリー
3位 スクワマ
4位 ソリューション
これについてもやはりノーエッジの強み。
しかし足裏をべたっと広く使う状況に限って言えば、P3以外のシャンクを排除したセオリーに軍配が上がることもあるか。
スクワマもいいが、上位2足が良すぎる。
この項目でもソリューションが明確に最下位。

エッジング(柔)
1位 ソリューション 
2位 セオリー
3位 スクワマ
4位 フューチュラ
これはソリューションが強い。
「抜けた」と思っても残るようなつま先の作りは唯一無二。
あとの3足はどっこいどっこいと言ってもいいが、敢えて差をつけるとしたらノーエッジはこの項目ではやや弱いか。

エッジング(剛)
1位 フューチュラ
2位 スクワマ
3位 セオリー
4位 ソリューション
フューチュラの最大の強みは「足裏感覚に優れながらも強く踏み込める」こと。
多くの場合この項目と「足裏感覚」はトレードオフの関係性にあるが、これを高いレベルで両立しているからこそ「なんでも踏める」と思える。
スクワマもその点でかなり優秀。
セオリーは上2足と比べればほんの少し落ちる。
ソリューションはつま先とホールドの距離が大きいため、厚みのあるホールドに対して強いがホールドが10mm未満くらいになるとゴムだけで乗っているような感触になり思うように体重が乗せ辛い。


1位4点 2位3点 3位2点 4位1点として点数をつけると

セオリー 23点
フューチュラ 20点
スクワマ 16点
ソリューション 11点

といったところ。
あくまでも個人の使用感である故に、実際の性能差がこうであるとは限らないということを注記したい。

それにあくまでもランキングをもとに数値をつけたらこうなるというだけであって、
例えば全項目を100点満点評価して、その合計点を出すという形式ではまた総合順位が変わるかもしれないし、項目わけに際してはじめに書いている通り、この項目はそれぞれ重要度が同じではない

例えば超強傾斜でフルリーチなのに足が絶対に切れてはいけない核心のある課題を登る時だったらセオリーよりもソリューションを使いたいし、きわどいエッジングのみで登っていく課題を登るんだったらセオリーはむしろ下位に落ちる。

総括

まず言えるのは
フューチュラをメインシューズにしているクライマーはセオリーを気に入るだろう、ということ。

ポジションとしてはジムでの本気シューズかコンペシューズ。
他のどんな靴にも負けないオンリーワンの長所がある!という感じではないが、
どんな要素があるか分からない初見の課題をオンサイトしろと言われたらこの靴を持って行きたくなる。
クライミングジムという環境では出来ないことや踏めないホールドはまず見つからないだろうと思う。
スクワマの時点でかなり隙が無いオールラウンダーだったが、スクワマとは若干違うアプローチでオールラウンド性を実現している感じだ。

ただし岩で使うとなるともっと一芸に特化したシューズを選択して使うことになると思われるので「これ1足であらゆる課題が登れる」とまでは言い難いが。

「スクワマとセオリーのどちらを使うか?」
という選択にこれから多くのクライマーが頭を悩ませることになると思われるが、
足型的に
甲が高いならセオリー
甲が低いならスクワマ
という風に選べばいいだろうと思う。

「セオリーとフューチュラのどちらを使うか?」
という選択は非常に難しい。
これはもう少し理解を深めてからでないと自分の中で結論が出そうにない。