2016年1月19日火曜日

凍てついた炎

本日、本来僕は四国に行っているはずだった。

徳島に点在する非公開エリアを、

案内してもらいながら巡るつもりだった。

しかし、

前日の降雨と、当日の予報は極寒の気温に、降雪。

これは、

行ってもまずロクに登れないだろう、ということになり、

じゃあ、場所を変更するか、ともなったけれども、

やはりどこも同じような予報。

リスクはどこにでもある。

仕方なく予定はリセットとなった。


残念。





と、



話はこれで終わりではない。


この、予定リセット後、僕はもう一度天気予報をチェックした。

四国のではない。

三重のだ。


そう


ファイア


それが頭の中にあった。


予報によると曇り時々雪。前日にも雨は降っている。

コンディションには期待はできない。
登れるとは思わない。

でも、

ホールドが濡れてたらふけばいいし、

雪が降ってたら、
冷たい風が吹いていたら、それは自分が我慢すればいいだけの話。

ムーブの練習くらいはできるだろう。
何もしないよりは、少なくとも次回に行ったときのための糧は得られる。

という、希望とまではいかないが、ささやかな期待。

高い交通費と長い移動時間を対価に、それっぽっちのものが、
「ひょっとしたら得られるかもしれない」


うん。


充分釣り合っている。


行くことにした。

一人で。



朝、

道中が吹雪だった時には、

「ああ、こりゃ無理かな」

と半ば諦めかけていたけど、

エリアについてみたら、岩のコンディションは思いのほか良かった。

雪は若干パラついていたけど、少なくともホールドは殆ど渇いていると言っていい。



「ひょっとしたらこれは、今日落とすこともできるかもしれないな」


と思い始めた。


ダウンを脱いだ瞬間ガタガタ震えるハメになるし、

ホールドは氷のように冷たくて指はすぐにかじかむ。

そのあたりは確かに問題だ。

でも、

結局はそれは「自分の問題」だ。

前にも言ったことがあるかもしれないが、

環境のコンディションはどうにもできないが、

自分のコンディションはどうにでもできる。


一人で林の中を走り回ったりして(今思うと不審者だなこれ)
身体を冷やさないように工夫したりしてなんとか打ち込み続けた。













結果。










登れてしまった。


正直、登れるとは思わなかった。




この、

ファイアという課題。

これは自分のクライミング歴の中で、

間違いなく最も難しく
間違いなく最も打ち込み
そして
間違いなく最も好きになった課題だ。


三段の課題、っていうのは今までも何本か登ってはきた。

でもこの課題はそれらとは一線を画す難しさであると感じたし、

それもあって、この課題を登れた時の感動は、今までのどの課題を登った時よりも大きかった。

いや、大きい。(今まだ現在進行形で感動してる)


この課題に打ち込んでいる時、僕の中にはある感情があった。

「僕はこの課題を落とさない限り、どこにもいけないし何者にもなれないだろう」


落とせないまま放っておいてしまった課題なんかいくらでもある。

そのままホールドが崩壊してしまってもう二度とできなくなった課題もある。

でも、

そんなものは、ただ「残念」のひとことで片付けられた。

でも、このファイアという課題についてはそういう風にはどうしても思えそうになかった。

この課題を落とす前に、仮に四段の課題を落としたとしよう。

でも僕はきっと納得しなかっただろうと思う。

実際に今の倍くらい強くなったとしよう。

でもこの課題を落としていなければ僕は「強くなった」と言えなかったろうと思う。


なんというか、そう。

この課題は僕のクライミング史の中で一つのターニングポイントとなる課題だと思う。

特別な課題だと思う。

実際は特別も非特別もなく、ただの、ひとつの課題だ。

でも僕にとっては、僕の心にとってはやはり特別であることは間違いない。

多分誰にもこの微妙な感覚は伝わらないと思う。でも僕だけはとりあえずそう思っている。




さあ、

じゃあ次だ。

ファイアを落とすことができた。
四段に挑戦できる実力を身につけたと、実感できた。

そろそろ四段の課題を落とそうか。

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