2020年6月8日月曜日

Bouldering is not about Olympics!!

・「競技」と「スポーツ」

「sport」という単語を日本語に訳す際、様々な説がある。
その定義の仕方について議論しようとするとそれだけでものすごい時間と熱量が必要になるので、ここではそれは行わない。
今回は「スポーツ」というカタカナ語をざっくりと「身体運動の総称」と定義する。
もっと詳しく言うと「日常生活を送る上ではまずかからないであろう負荷を身体にかける身体運動の総称」である。
(あくまでも今回この記事の内容の中ではそう定義するというだけです)
そして「競技」という単語の意味としては「他者と技を競い優劣を争う行為」と定義し、y訳にはsportではなくcompetitionを用いるということにする。
そう定義した上で、これから「ボルダリング」と「ボルダリング競技」というものについて思うところを書いていく。

・競技ではないスポーツ、スポーツではない競技

先の定義をもう少し補強する意味で、いくつかの例を挙げる。
まず「競技ではないスポーツ」とは何か?
例えば「ジョギング」「ウエイトトレーニング」広く言えば「ラジオ体操」なども「日常生活を送る上ではまずかからないであろう負荷を身体にかける身体運動」にあたるので「スポーツ」と言えるが、
「他者と技を競い優劣を争う行為」にあたらないので「競技」とは言えない。
こういったスポーツのことをここでは「非競技スポーツ」と呼ぶ事にする。
逆に、スポーツではない競技とは何か?
例えば「囲碁」「将棋」「チェス」「ビデオゲーム」などは「他者と技を競い優劣を争う行為」にあたるため「競技」であると言えるが、「日常生活を送る上ではまずかからないであろう負荷を身体にかける身体運動」を伴わないため「スポーツ」であるとは言えない。
こういった競技のことをここでは「非スポーツ競技」と呼ぶ。
(ここらへん大いに突っ込みが入ると思うけど、前述したように『今回はそう定義する』ということで納得して下さい。「eスポーツ」とか「マインドスポーツ」とかいった言葉があることも重々承知しています)



・非競技スポーツの競技化

先の例で「ジョギング」「ウエイトトレーニング」「ラジオ体操」を「非競技スポーツ」と呼んだが、ではこれらの例が全面的に競技としての性質を持ちえないかと言えばそうではない。
例えばジョギングを二人以上で行い、「どちらが長く走っていられるか」「どちらが早く目標距離に到達するか」などを競い出せばたちまちそれは競技と化す。
もともと競技として発生したのではないスポーツも、一定のルールを定めて競い合う他者を用意すれば競技化することができるのである。
これをここでは「非競技スポーツの競技化」と呼ぶ。

・競技スポーツ内の非競技的側面

例えば「サッカー」だったり「野球」だったりは、そもそもの成り立ちからして基本的に「競技スポーツ」である。
しかし「フリースタイルリフティング」としてひたすら芸術的にリフティングするといった行為は「非競技スポーツ」と言えるし、河原でキャッチボールをすることなんかも「非競技スポーツ」と言えるだろう。
バッティングセンターでひたすら打ち込むのも「非競技スポーツ」だ。
100%競技としての側面しか持たないスポーツというのはまず存在しないと言える。
前項の通り、根本が「非競技スポーツ」として発生したスポーツであっても一定のルールを定めることによって競技化できることから
100%競技としての側面を持ちえないスポーツというのもまた存在しない
サッカー・野球あたりは競技としての側面が大きいが、ボルダリングはそれらと比べて競技としての側面は小さいとも言える。

・ボルダリングとはどんなスポーツか

まず「ロッククライミング」というのは本来「登山」の際難所を攻略するためのためのいち手段であった。
「登山」そのものが今回の定義によれば「スポーツ」と言えるので、「ロッククライミング」もまた「スポーツ」であると言える。
登山の手段として始まったロッククライミングに、様々なルールや縛りを加えることでフリークライミングというジャンルが生まれ、そのさらに一部として「ボルダリング」がある。
「ボルダリング」がひとつのジャンルとして確立されたとき、その時点では「ボルダリング」は「非競技スポーツ」であった。
「ボルダリング」はその成り立ちとしては低い岩で行なう練習行為という側面が強く、
しかしそこから低い岩で行うからこそより難しい技術や強い能力を試しやすいことから、一つのジャンルとして立場を強固にしていった。

・ボルダリングとボルダリングコンペ

普通「野球しようぜ!」と言う時、それは「試合形式で競技としての野球をしよう」という意味になる。
いちいち「野球競技しようぜ」とは言わない。それは野球というスポーツを指すとき、人は野球の競技的側面を即座にイメージするからだ。
しかし「ボルダリングしようぜ!」と言う時「試合形式で競技としてのボルダリングをしよう」という意味にはそうそうならない。
試合形式でボルダリングをしたかったら「ボルダリングコンペをしよう」とか「ボルダリングコンペに出よう」と言うのがより自然だ(この際むしろ「ボルダリング」を省いて「コンペに出よう」と言うほうがさらにより自然)。
このことからも、ボルダリングというスポーツが本来「非競技スポーツ」であることは明確である。
ボルダリングというジャンルにおいて「競技(competition)」を行うというのは、特殊な状況であると言える。

・競技スポーツが目指すものと非競技スポーツが目指すもの

競技スポーツが目指すものとは何か?という問いの答えはシンプルに「勝利」である。
「勝利」というモチベーションがあるからこそ人は汗や泥にまみれ、筋肉を痙攣させ、歯を食いしばり顔をゆがませながらもその競技に打ち込むことができる。
そしてその「勝利」を通じて人生の糧や栄誉や自己満足を得る。
では非競技スポーツが目指すものとは何か?
それは「達成」である。「達成」を通じて人生の糧や栄誉や自己満足を得ている。
何かを「達成」することが「勝利」と同等かそれ以上のモチベーションになっている時、人は競技スポーツと同じように非競技スポーツに打ち込むことができる
しかし非競技スポーツにおける「達成」が、苦痛を堪え競技に打ち込むことができる程のモチベーションとなることは稀だ。
故に「勝利」以外がそのモチベーションの強さを実現し得ないと信じる人も多く、そういった人は「競技にあらずんばスポーツにあらず」とみなし「非競技スポーツ」をすべて「遊び」というくくりの中に放り込んでしまう。

・「達成」の魅力

ボルダリングは非常に「達成」が解りやすいスポーツだ。
「目の前の岩を登りきる」
「目の前の課題を登りきる」
その目標を達成することだけをモチベーションにして努力することができる。
故にその達成は純粋で、簡潔で、色あせない。
短期的な目標と短期的な達成がある(今日3級課題を登りたい→登れた!)
中期的な目標と中期的な達成がある(今シーズンは忍者返しを登りたい→登れた!)
長期的な目標と長期的な達成がある(いつか三段を登れるようになりたい→登れた!)
様々な目標と達成が「完登」というシンプルでハッキリとした形で現れる。
達成というモチベーションの結晶が目に見える形で断続的に手に入ってくる。
そこがボルダリングというスポーツが持つ大きな魅力のうちの一つだ。
他の非競技スポーツはボルダリングに比べ「達成」が解りにくくまた途切れやすいものが多い。
例えばジョギングにおける達成とは?
10km走りきる。3kg痩せる。そういった達成は確かに得られるがそれは断続的にステップアップしていきにくい。
走ることでより深いモチベーションを継続的に得ようとしたらやはりタイムを計測したり他者と一緒に走ったりして「競技化」していくしかなくなってくる。
ボルダリング歴がある程度長い人で、ボルダリングをしていない人から「大会(試合)とか目指してるんですか?」と聞かれていない人は居ないだろう。
そして「大会出場や勝利を目的としているわけではない」と答えて、質問者の首を傾げさせることになる。
「じゃあ何のためにそんな怪我したりキツイことやったり恐いことやったりしてるんですか?」と。
スポーツというのは基本的に肉体に負荷をかけるものである以上、必ずストレスが生じる。
そのストレスを上回るモチベーションが無ければ人はスポーツを続けられない。
「勝利」がそのモチベーション足り得るというのは多くの人に理解してもらえるが。
「達成」がそのモチベーション足り得るというのは多くの人とって想像しづらいことなのだろう。
故に、多くの人にそのスポーツの魅力を理解してもらい、多くの人にそのスポーツに打ち込むためのモチベーションを提供するために「非競技スポーツの競技化」は必然的に行なわれていく。
しかし我々クライマーは知っている。
「勝利」など無くても「達成」だけですべてが報われる感覚を。

・非競技スポーツの競技化によるメリットデメリット

前項に書いた通り、非競技スポーツの競技化による最大のメリットはそのスポーツの普及に役立つということだ。
普及されなければそのスポーツは発展せず、廃れていき、やがて文化も薄れていく。
それを防ぐためにはやはり競技化によって普及を加速させるというのは必然的な考え方だ。
ではデメリットは何か?
それは各スポーツによってそれぞれ様々なものがあるかと思うが、ざっくり共通して言えるのは「当初の理念の喪失(のリスク)」だ。
「競技」という側面は非常に煌びやかで解りやすく、人の心に訴えかけてくる力が強い。
そうなるとそのスポーツの中の「非競技」の部分が重要ではない部分であるとみなされてしまうという危険性がある
例えばフィギュアスケートが芸術性と競技性の狭間で様々な熱い議論が交わされていることはある程度スポーツに興味がある人なら知っているだろう。
フィギュアスケートも元はと言えば非競技スポーツであり、それをなんとか競技として成立するようルールを整備したはずだが、そのルールがそもそも適切なのかどうなのか?というような議論は未だに根強く残っている。
それにも関わらず「オリンピック金メダリストこそがあらゆる意味で世界で最も優れたフィギュアスケーターである」と多くの人は殆ど疑いの余地なく信じてしまう。

・オリンピック種目にスポーツクライミングが入ることの不満(あるいは不安)

前項までを読んで貰えば伝わると思うが、筆者はオリンピック種目にスポーツクライミングが入ることについて比較的否定的なマインドを持っている。
それは自分がボルダリングを純粋に「達成」をモチベーションとして打ち込んできたからだし「勝利」無しに「達成」のみでモチベーションを保ち得るこのスポーツに大きな魅力を感じているからだ。
ボルダリングが「勝利」がなくてはモチベーションを保てない程度の魅力しかないスポーツだと思って欲しくないのだ。
「オリンピック」というものの力はたぶん多くのクライマーが思っているよりずっと強い。
「オリンピック金メダリスト」の肩書の輝きは計り知れない。
次のオリンピックを経た後では、多くの人は
「オリンピック金メダリストこそがあらゆる意味で世界で最も優れたロッククライマーである」と信じてしまうだろうし
「ボルダリングの最終目標はオリンピックで金メダルを獲る事」と信じてしまうだろう。
しかしそもそも、ロッククライミング、ひいてはスポーツクライミングは「非競技スポーツ」であり「クライミングコンペ」というのはクライミングを競技として成立させるために後付けでルールを付け足していったことで成立させたものだ。
そこがもともと「競技」としてスタートしたスポーツとは違う。
なのでコンペルールは未だにクライミングの登攀能力を公平に競うルールとして完璧なものなのか?という疑問は残り続けているし、もっと言えばオリンピックの「コンバインド」という競技方式に心の底から納得しているクライマーなどほぼ居ないだろう。
少なくともロッククライミングという分野の全体から見れば「コンバインドルールのコンペ」というのはとても限定的で小さな一部分だ。
その「限定的な競技方式」によって決められた勝者が「クライミング界全体の王様」だと思われるのが気に食わねえ!ってことだ。



勿論この「コンバインドルール」というのが、その勝者が少なくともスポーツクライミング界の勝者にふさわしくなるように苦心して作られた競技方式であるというのも重々承知している。オリンピック金メダリストが、ニアリーイコールでスポーツクライミング界の王者であるというくらいまでなら100歩譲って納得できなくもない。

・まとめ(個人的感情の吐露)

僕はボルダリングが大好きだ。
ただし僕が好きなのはボルダリングの非競技的部分だ。
コンペが嫌いだ!コンペなどボルダリングの本質ではない!と言いたいわけではない。
でもやはり個人的にはコンペ自体そんなに好きでもない。
例えば高校の部活でボルダリング部に所属して、3年生の最後のインターハイで全国大会で優勝することをこのスポーツの最終目標に設定されていたとしたら僕はボルダリングをこんなに好きにはならなかっただろうと思う(他の競技と同じくらい、妥当な燃え方をして妥当な燃え尽き方をして、そして引退しただろう)。
子どもの頃、遊びだったり競技の真似事だったりゲームだったりをして、失敗したり負けたりするたびに「もう一回!」「もう一回!」と喚き、自分が勝つまで続けようとする鬱陶しいガキがあなたの周りにも一人はいたと思う(そして勝ったら勝ったで、面白いもんだから「もう一回!」だ)。
僕はそんなガキだった。そして本質的には今でもそんなガキだ。
「ちゃんとした競技」ではその「もう一回!」ができない。許されない。
でも非競技的ボルダリングではその「もう一回!」ができる。
むしろ「もう一回!」をいくつもいくつも積み重ねることでこそ達成に向かう。
僕がボルダリングにのめりこんだ本質的な理由っていうのはそこにあるんだと思う。
だから競技としてのボルダリングに導入された「アテンプト」という概念が僕は全く好きじゃない。
手も足も出ない課題に100回も200回もトライしたい。
スタートも切れないし一個もムーブバラせない課題に年単位で打ち込みたい。
一日中ワンムーブの探りに費やしたい。
尽くことのないトライアンドエラー。
その先にある達成。
「勝利」の反対には「敗北」が用意されている。
でも「達成」の反対には何があるだろう?
意思さえくじけることなく挑戦し続けさえすれば、何度失敗してもそれは達成への道のりでしかない。
そういったことを実感させてくれるから、僕はボルダリングが好きなのだ。
その、ボルダリングの僕が好きな部分が、オリンピックという大きな輝きによって、多くの人の目から映らなくなってしまうんじゃないかということが僕は不安(あるいは不満)なのだと思う。

2020年4月3日金曜日

スポルティバ新作「セオリー(THEORY)」レビュー

はじめに


「一目ぼれは遺伝子の合図」
と言ったのは誰だったか。

コイツにはまさに一目ぼれだった。
LA SPORTIVA THEORY


昨年ネットの海のどこかでその姿を見た瞬間に入手を決意した。

4月下旬の日本での正式リリースを待つこともできず、
某個人輸入クライミングシューズ販売サイトでポチっと購入。

そして実際に1週間ほど使用して感触を確かめてみたので、
ここでいったんレビューを綴ってみようかと思う。

比較による形状検証

まずは主観を交えない客観的な部分から紹介しようと思う。
ちょうど手元に
フューチュラ(サイズ35.5)

スクワマウーマン(サイズ36.5)
があったので、購入した
セオリー(サイズ36)
と並べて比較してみた。

ヒール

画像内の赤線はどちらも同じ長さ。

スクワマに比べて横幅が明らかに狭く、縦幅は若干高い。

履いた感触、というところで言うと
見た目ほど幅の細さは感じず、見た目よりも縦の深さを感じる。


トウ側の幅

画像内の赤線はどちらも同じ長さ。

幅の広さはスクワマ>フューチュラ≧セオリーといったところ

スクワマとセオリーは明確にラストから違いそうではあるが、
フューチュラとセオリーの差は履きこんでいるかどうかの違いと思えなくもない。

ソールの構造やラストはフューチュラに類似していると言っていい。


甲の高さ

画像内の赤線・緑線はどちらも同じ長さ。

まず、いわゆる「甲」の部分の高さは
セオリー≧フューチュラ>>スクワマ
明らかにスクワマが薄く、フューチュラとセオリーはややセオリーが高い程度
(ただしフューチュラは履きこんでいるのを考慮するとやはりセオリーが高いか)

そしていわゆる「トウボックス」の高さは
セオリー>フューチュラ>スクワマ
ここには明確にフューチュラとセオリーに差が出ている。


まとめると
セオリーの形状は
「大体フューチュラをベースとしており、トウボックスが厚くヒールが深く細い」
「スクワマと比べると足幅が細く甲が厚い」
ということになる。

フューチュラが非常に足に合っている筆者にとってはかなり感触が良い。


主観的な使用感

ここからは主観も交えた使用感を記す。

まず踏み感ということで言うと


上の画像の赤いエリアが
「強くエッジングできるポイント」(筆者はシューズのスイートスポットと呼んでいる)
黄色いエリアが、スイートスポットほどではないがホールドを捉えることがそれなりにできるポイント。
不思議なことにフューチュラはこの範囲がかなり広い。
緑のエリア(母指球のあたり)もスクワマとフューチュラは固くなっている。

セオリーの特徴は全体がほかの2足よりも明確に柔らかいということ。

セオリーにはP3以外のシャンクが排除されているため、
P3の入っている先端部分以外はかなり柔らかい。

しかし先端部分だけはしっかりと芯があって強いエッジングも可能としている。
スイートスポットの固さにだけに関してはほか2足とほぼ同等の固さを持っている


スイートスポットで捉えた場合
これくらい(厚みは大体9ミリ程度)のジブスに乗る程度であれば
垂壁で片足に全体重をかけてもしっかり踏める固さはある。

およそクライミングジム内に取り付けられている程度の大きさのホールドであれば
しっかりと体重をかけても負けないだろう。
この辺りが、チームvxiやレオパード、フューリアエアーなどの極端なソフトシューズとの違いになる。


そしてヒールについて

セオリーのヒールはスクワマとは全く感触が異なり、どちらかというとスカルパのインスティンクトVSのような感覚に近い。


黄色いバンド部分がサイドの黒い部分よりも固くなっている。
それによって強度のギャップが発生し、引っ掛かる感じがある。
カラーのゴムということでフリクションに若干の不安はあったがそこは全く問題が無かった。

そしてスクワマより若干深いので脱げそうになる感覚も薄い。

スクワマのSヒールは全体がなめらかな球状に近くなっていて、
どんなかけ方でもできる自由度がある反面、自分でコントロールし続けなければすぱっと抜けてしまうような感覚もある。

「ヒールの足裏感覚」という点ではフューチュラやスクワマにやや劣るが、ヒールの全体的な評価として個人的には他2足に勝る。


スポルティバハイエンドモデル性能別ランキング

ここからはセオリーと性能を比較されるべきスポルティバの他ハイエンドモデル、
ソリューションリブート
スクワマ(スクワマウーマン)
フューチュラ
の性能について個人的にランク付けしてみようと思う。
(スクワマとスクワマウーマンはどちらも履いてみたが両者に殆ど違いを感じないので同一扱いとする)
(ソリューションコンプは持っていないので割愛)

まずはシューズの性能を語る上で筆者が考える項目をいくつかに分類してみる。

足入れ
 快適に履いていられるか
足裏感覚
 ホールドを足裏で鋭敏に感じ取れるかどうか
トウフック性能
 トウフックがよくかかるか
ヒールフック性能
 ヒールフックがよくかかるか
スメアリング
 ハリボテ、ボリュームを捉える力の他に、外傾した薄いホールドに対しても適用
エッジング(柔)
 体重が浮いた状態で小さなホールドを捉えられるか
 強傾斜の足残りや、遠いホールドを掻き込む能力等
エッジング(剛)
 1点に体重を強く乗せた時に負けずに乗り続けることができるか
 踏み込んだ反発をしっかり得られるかどうか

個人的には、上に行くほど重要度が低く、下に行くほど重要度が高いと思っている。

それらを項目別に個人的ランクを付けると下記のようになる。

足入れ
1位 セオリー
2位 フューチュラ
3位 スクワマ
4位 ソリューション
セオリーが最も甲が高く設計されているため甲高の筆者としてはこうなる。
アッパー素材も柔らかく、トウラバーの面積の広さを感じさせない快適さ。
フューチュラもかなり馴染みが良く甲乙つけがたい。
スクワマは幅は広いが甲が薄め。
ソリューションは靴としての「型」がかなりしっかりとしているため、その型にピッタリ合う人以外は不快さを感じやすい。
足の甲が厚いか薄いかで、セオリーとスクワマの評価は逆転しそう。

足裏感覚
1位 フューチュラ
2位 セオリー
3位 スクワマ
4位 ソリューション
これはノーエッジに優るものは無い。
僅差でセオリーが時点。
スクワマも悪くない。
上位3足にそこまで大きな優劣は無い。もはや好みの問題と言ってもよさそう。
この項目ではソリューションだけが唯一明確に最下位。

トウフック性能
1位 セオリー
2位 スクワマ
3位 ソリューション
4位 フューチュラ
スクワマも登場時かなり革新的だと思ったが、セオリーのトウラバーの貼り方はもはや革命的。
シャンクレスのソールによって背屈方向に足底を反らせやすいのも掛けやすさに一役買っている。
ソリューションは形状によってやけに引っかかってくれるポイントがある。
フューチュラはいささかトウラバーの面積に乏しい。悪くは無いが上位と比べるとやや落ちる。

ヒールフック性能
1位 セオリー
2位 フューチュラ
3位 スクワマ
4位 ソリューション
スクワマ・フューチュラのヒールは良くも悪くも「まるで自分の踵を直接ホールドにかけているかのよう」な感触。
スクワマは特に。
ソリューションは逆に「靴をハメにいく」ような感触。
セオリーのヒールはスカルパのインスティンクトVSの感触に近い。
ヒールフックと言えば不動の4番バッターミウラーが居るが、
この4足の中で一番「ミウラーっぽい」のはセオリーかもしれない。

スメアリング
1位 フューチュラ
2位 セオリー
3位 スクワマ
4位 ソリューション
これについてもやはりノーエッジの強み。
しかし足裏をべたっと広く使う状況に限って言えば、P3以外のシャンクを排除したセオリーに軍配が上がることもあるか。
スクワマもいいが、上位2足が良すぎる。
この項目でもソリューションが明確に最下位。

エッジング(柔)
1位 ソリューション 
2位 セオリー
3位 スクワマ
4位 フューチュラ
これはソリューションが強い。
「抜けた」と思っても残るようなつま先の作りは唯一無二。
あとの3足はどっこいどっこいと言ってもいいが、敢えて差をつけるとしたらノーエッジはこの項目ではやや弱いか。

エッジング(剛)
1位 フューチュラ
2位 スクワマ
3位 セオリー
4位 ソリューション
フューチュラの最大の強みは「足裏感覚に優れながらも強く踏み込める」こと。
多くの場合この項目と「足裏感覚」はトレードオフの関係性にあるが、これを高いレベルで両立しているからこそ「なんでも踏める」と思える。
スクワマもその点でかなり優秀。
セオリーは上2足と比べればほんの少し落ちる。
ソリューションはつま先とホールドの距離が大きいため、厚みのあるホールドに対して強いがホールドが10mm未満くらいになるとゴムだけで乗っているような感触になり思うように体重が乗せ辛い。


1位4点 2位3点 3位2点 4位1点として点数をつけると

セオリー 23点
フューチュラ 20点
スクワマ 16点
ソリューション 11点

といったところ。
あくまでも個人の使用感である故に、実際の性能差がこうであるとは限らないということを注記したい。

それにあくまでもランキングをもとに数値をつけたらこうなるというだけであって、
例えば全項目を100点満点評価して、その合計点を出すという形式ではまた総合順位が変わるかもしれないし、項目わけに際してはじめに書いている通り、この項目はそれぞれ重要度が同じではない

例えば超強傾斜でフルリーチなのに足が絶対に切れてはいけない核心のある課題を登る時だったらセオリーよりもソリューションを使いたいし、きわどいエッジングのみで登っていく課題を登るんだったらセオリーはむしろ下位に落ちる。

総括

まず言えるのは
フューチュラをメインシューズにしているクライマーはセオリーを気に入るだろう、ということ。

ポジションとしてはジムでの本気シューズかコンペシューズ。
他のどんな靴にも負けないオンリーワンの長所がある!という感じではないが、
どんな要素があるか分からない初見の課題をオンサイトしろと言われたらこの靴を持って行きたくなる。
クライミングジムという環境では出来ないことや踏めないホールドはまず見つからないだろうと思う。
スクワマの時点でかなり隙が無いオールラウンダーだったが、スクワマとは若干違うアプローチでオールラウンド性を実現している感じだ。

ただし岩で使うとなるともっと一芸に特化したシューズを選択して使うことになると思われるので「これ1足であらゆる課題が登れる」とまでは言い難いが。

「スクワマとセオリーのどちらを使うか?」
という選択にこれから多くのクライマーが頭を悩ませることになると思われるが、
足型的に
甲が高いならセオリー
甲が低いならスクワマ
という風に選べばいいだろうと思う。

「セオリーとフューチュラのどちらを使うか?」
という選択は非常に難しい。
これはもう少し理解を深めてからでないと自分の中で結論が出そうにない。

2019年12月30日月曜日

生存報告という名のアプローチシューズレビュー

放置しすぎのこのブログ。

読んでいる人はもはや居るのだろうか。

どうせ自己満足の代物なので良いんだけれども。

2019年も終わるので最後に何か更新をしておきたい。

そしてせっかくなので何かしら実のある内容を書きたい。

そういえば以前書いたクライミングシューズレビューは結構読まれているみたいだ。

じゃあ今回は
アプローチシューズについて書いてみようと思う。

今までそこそこの数のアプローチシューズを履いてきたと思う。

というのも、
岩場へのアプローチ目的に買ったり、
普段履きとしてスニーカー代わりに買ったり、
ルートセット用に買ったり、
様々な用途のために買って履いては、
「これいいなー」だったり
「なんかちがうなー」を繰り返しているのだ。

ということで今回は
僕が履いたことのあるアプローチシューズを

履き心地の良さ・・・・☆☆☆☆☆
整地での歩きやすさ・・☆☆☆☆☆
荒地での歩きやすさ・・☆☆☆☆☆
クライミング出来る・・☆☆☆☆☆
の4項目で★をつけていき、所感を書いていこうと思う。

ちなみに素足実寸24.3cmの僕が履いたサイズも表記していく。

5.10 ガイドテニー
US7(25cm)
履き心地の良さ・・・・★★★★☆
整地での歩きやすさ・・★★★★☆
荒地での歩きやすさ・・★★★★★
クライミング出来る・・★★★☆☆
US6(24cm)
履き心地の良さ・・・・★★★☆☆
整地での歩きやすさ・・★★★☆☆
荒地での歩きやすさ・・★★★★☆
クライミング出来る・・★★★★☆

信頼と実績のザ・アプローチシューズ。
履き心地・歩きやすさ・登りやすさが高いレベルで纏まっている。
普段履きとしてや、アプローチ用としてならUS7でベストだが、セット用に詰めたサイズが欲しくてUS6にしてみたらやっぱりキツかった。が、登りやすさは向上。多少小さ目のホールドへのエッジングもこなせるのは靴全体の剛性バランスの良さ故か。
河原の滑りやすい岩の上をとび移りながらのアプローチなんかでは抜群の信頼感。
1,000m以下級の軽い登山であればこの靴で問題なく快適にこなせた。



5.10 アッセント
US7(25.0cm)
履き心地の良さ・・・・★★★★★
整地での歩きやすさ・・★★★★★
荒地での歩きやすさ・・★★★☆☆
クライミング出来る・・★★☆☆☆

幅広のラストと、柔らかめのアッパーとソールで、履き心地はものすごく快適。
快適であるがゆえに若干靴の中で指が遊ぶのでクライミングには不向きだが、MI6ソールのフリクションはやはりすばらしく、これもガイドテニー同様、岩の上を歩くのに安心感がある。しかしアッパーの素材の剛性が弱く歪みやすいので、長い距離整地されていない地面を歩いているとやや足が疲れる。
デザインもシンプルで使いやすく、普段履きならコレだ。


5.10 アーバンアプローチ
USW7(23.5cm)
履き心地の良さ・・・・★☆☆☆☆
整地での歩きやすさ・・★★☆☆☆
荒地での歩きやすさ・・★★☆☆☆
クライミング出来る・・★★★★★

一目見た時に「これは登れそう」と思い、いっそのこと「アプローチシューズでどこまで登れるのか」を試す為にかなり攻めたサイズで購入。
めちゃくちゃ登れる。
サイズゆるめでレンタルシューズを借りました、というくらいには登れる。
ただ攻めまくったので当然履き心地は最悪。そうでなくても靴の特性として、中敷きが無い、ソールもアッパーも薄いなど、サイズが適性であったとしても履き心地は良くないだろう。(ウィメンズモデルなので足幅が細いというのもある)
しかしそれを差し引いてもクライミング性能が高い。ソールとラウンドラバーが一体になった作りはアプローチシューズ界のノーエッジシューズ。正直、ボテやボリュームに乗るならクライミングシューズよりもこいつのほうが信頼感ある。
もう二度とこのサイズで買おうとは思わないけどまた欲しい。けれどもう無い。


スカルパ モジト
サイズ忘れた
履き心地の良さ・・・・★★★☆☆
整地での歩きやすさ・・★★★☆☆
荒地での歩きやすさ・・★★★☆☆
クライミング出来る・・★★★☆☆

デザインがお洒落という事以外これといった特徴が無い。
他のアプローチシューズと比べてどこが悪いという事もないがどこが素晴らしいというわけでもないという印象。
サイズは確か当時履いていたガイドテニーUS7と比べてクライミングしやすくなるよう、もう少し小さめを買ったはずだが、それでもガイドテニーUS7のほうが若干登りやすくもあった。普段履きにするというならもっと快適なスニーカーがあるし、山道を歩くとかセットに使うなら他のアプローチシューズを使いたい。
色展開が多く、ファッションとして合わせやすいのは強み。


スポルティバ MIX
EU38
履き心地の良さ・・・・★★★☆☆
整地での歩きやすさ・・★★★☆☆
荒地での歩きやすさ・・★★★☆☆
クライミング出来る・・★★★★☆

スポルティバ信者のためどうしても欲しくなって購入。
扱いやすいし登りやすい。
ヒール周辺のつくりがしっかりしているのでアプローチシューズのくせに何故かヒールフックがけっこうかかる。あとつま先のクライミングゾーンがしっかりしているのでエッジングもそこそこいける。あきらかにクライミングをすることを意識した設計になっている。
調子に乗ってこの靴で登りまくっていたら結構早く壊れてしまった。
もう少し価格が安ければ自分の中で定番化されたかもしれない。


スポルティバ TX2
EU39
履き心地の良さ・・・・★★★☆☆
整地での歩きやすさ・・★★★★☆
荒地での歩きやすさ・・★★★★★
クライミング出来る・・★★★☆☆

今現在(2019/12)普段履き兼アプローチ用として使用中。
歩きやすさと言う点では文句無し。安定感、フリクション、トラクション等の性能の良さは半端なトレッキングシューズ以上。
ソールがやや厚く、前述のアーバンアプローチや後述のクルーザー等の、ソール薄めのアプローチシューズと比べて足裏感覚に乏しいのでクライミングにはやや向かないが、十分及第点ではある。
つま先周辺がやや狭く、初めは若干窮屈に感じたが、少し履きならすと気にならなくなった。登ることに使わず、歩くことだけを気にするならサイズはEU40で良かったかもしれない。


イボルブ クルーザーサイキ(ウィメンズ)
USW7.5(24.5cm)
履き心地の良さ・・・・★★★★☆
整地での歩きやすさ・・★★★☆☆
荒地での歩きやすさ・・★★☆☆☆
クライミング出来る・・★★★★☆(★★★☆☆)

今のところセット用のシューズとして一番使いやすいと思うのがこの靴。
快適な履き心地であるにも関わらず結構クライミングもこなせる。
かかとをスッとつぶしてつっかけみたいに履けるのも、履き脱ぎの機会の多い場面で使いやすい。
唯一難があるとしたら耐久性。1年持たず靴側面に穴が開いてしまった。
2019年に行ったモデルチェンジ(マイナーチェンジ)で、ラストが変更されたのかトウ周辺により大きなゆとりができたことで、以前と同じサイズ(24.5cm)で購入したら体感で0.5~1cmほどゆるく感じるようになり、クライミング性能ががくっと落ちた。現行のモデルをクライミング性能重視で履くとしたら24cmか23.5cmくらいでもいいかもしれない。


ブラックダイヤモンド サーキット(ウィメンズ)
USW7(24cm)
履き心地の良さ・・・・★★★★☆
整地での歩きやすさ・・★★★☆☆
荒地での歩きやすさ・・★★☆☆☆
クライミング出来る・・★★★★☆

履いていたクルーザーのサイズにずっと違和感を抱えていたのと、最新号のロクスノの広告に胸を打たれて購入(やっぱり「広告を載せる」ってことは大きい効果があるんだよなあ)。
性能としてはクルーザーにかなり近いが、かかと部分がクッション性のある素材で厚みがあるのでクルーザーのようにかかとをつぶして履くのには向かない。
アッパー素材がクルーザーはキャンバス地なのに対し、こちらはニットっぽい柔らかい素材。それにより履き心地が向上、クルーザーよりも小さいサイズでも同等程度に快適に履くことができ、結果クライミング性能も損なうことなく履くことができる。ソールはBDのオリジナルソールを使用しているが、フリクション性能という点ではやはりステルスやイボルブのTRAXラバーに軍配が上がる。
履き心地とクライミング性能をうまく両立できているのでジム内で履く靴として全く不満は無い。とりあえず壊れるまでは履きたい。

【併せて買いたいモノ】


僕が「これだけはガチだ」と思うものの一つに

「スーパーフィート」という中敷きがある。

始めはお店の人に勧められつつ「なんだかうさんくせーなあー」と思いながらも、騙されたと思って買ってみたんだけど、今となっては靴を買う度にほぼ確実にセットで購入している。

買ったそのままでは使えず、靴に合わせて加工する必要があるので、買うんだったら合わせる靴と同時に購入するか、使っている靴を持って行って、店の人に加工してもらった方が良い。
わざわざそんなことをするのが億劫だという人は、ちょっとした手順とコツを覚えれば自分でも加工が容易なので、知っている人に加工の仕方を教わるといいだろう。
慣れてくると5分も掛からない。

アプローチシューズに入れるんなら一番のオススメは
「カーボン」
薄くて軽量。クライミング性能を損なわずに長時間の履き心地や歩き心地が向上する。

もしくは
「ブラック」
軽さはカーボンに劣るが十分コンパクトで、クルーザーやサーキットのような軽量アプローチシューズの中に入れても違和感全く無し。値段はカーボンより1000円以上安いので常用するならコレでいい。

「ブルー」
はガイドテニーやTX2などの、比較的しっかりした作りの靴に向いている。が、軽量シューズにも十分合う。

ブルーより厚い
「グリーン」
もあるが、それはミッドカット~ハイカットの靴に適しているので、ローカットのアプローチシューズと合わせるのには向かないだろう。

と、なんだかスーパーフィートの回し者みたいになってしまったけどこれは本当にオススメできる。

クライマーじゃなくても特に「立ち仕事」の人

1日中ずーっと立っていると夕方くらいには足裏が痛くなってくる、とか、足がどんどんむくんでくる、みたいな悩みを抱えている人は是非一度試してみて欲しいと思う。


ということで以上!


来年は
「これ登れたぜー!よっしゃー!」
っていう記事で更新しまくりたいなあ・・・・

2019年10月6日日曜日

信頼と実績、或いは成長の実感


僕にとって「岩を登る」という行為は

自分の中の孤独を突き詰めていくという行為であると、そう思っていた。

岩と、自分と、あとは精々、虫と鳥くらい。

それだけが居る空間で、可能と不可能の境界に没頭する作業。

そういった時間に最も価値を見出していた。

しかしそれはそれとして、

仲間と共に楽しむクライミングもまた好きだし、

岩の魅力を他者に理解してもらいたいという欲求もまたある。

今日はそんな欲求のために、普段あまり岩に行かないクライマー達と共に

瑞牆へ。

結論から言うと今日の岩登りは個人的にもパーティとしても成功だった。

気候は穏やかで過ごしやすく、

誰一人怪我もなく、

全員が収穫と課題を持ち帰り、

最後には笑顔があった。


今日は通日、岩の魅力の案内役に徹しようと思っていたんだけど、

タイミングと行先が噛み合い、

かねてから登りたいと思っていた

千里眼(二段)をトライすることができた。

この課題は6年前(!!もうそんなに昔になるのか)
に一度触っており、その時は離陸だけでもできないという体たらくで、
長らく僕の中でこの課題は「とても不可能な課題」という位置づけにあった。

しかし時間の力は重い。


6年という月日の間のどこかで、不可能が可能に切り替わっていた。

いや、或いはこれは道具のおかげかもしれない。

今日も、離陸からランジの飛び出しまでは実力で持っていくことはできたものの、
最終的に完登を決定づけたのはやはり靴の力だった。

ソリューション、スクワマ、インスティンクトVSと靴を色々試してみたもののそのどれもでは今一歩強く蹴りだしきることが出来ず、リップを叩いては落ちるというのを繰り返した挙句、

ミウラーW'sに履き替えたら一発であっけなく止まってしまった。
明らかに踏み込みが違った。

なんやこの靴。チートやんけ。
また買うわ!

ということでまたひとつ愛靴ミウラーW'sの信頼と実績が積みあがったのだった。


2019年9月21日土曜日

神居古潭の梁山泊

新婚旅行で北海道へ一週間。

のんびりと観光だけを楽しむつもりだったけど、

やっぱり折角だから岩も登りたいという気持ちを抑えられず、一日だけ岩を登る日とすることにした。

当初の目的地はニニウの岩場だったけど、どうも前日に道を調べていると、
ニニウに至る北海道道610号占冠穂別線が通行止めになっているようで、

仕方なく逆方向の旭川方面へ。

第二候補ではあったけど、結局のところこちらにしても大正解だった。

岩場の場所は

旧神居古潭駅のある場所で、

駐車場に売店、トイレまで完備された立派な観光地でもあった。

旧神居古潭駅舎や、SLの車両まで飾ってあって、それを観るだけでも来る価値のある場所かもしれない。

そんな旧神居古潭駅舎からさらに10分ほどのアプローチで、
エリアのメイン岩であると思われる梁山泊に到着。

トポで「高い岩」ということは確認していたが、目の前にすると改めて高さを感じる。

中央の一番高いところは約6m。

地元クライマーの方がトップロープを張って練習していた。

その地元の優しいクライマーの案内もあり、色々な課題を登ることができた。

まず

ガンボルトSD(7a~7a+)

ここは何故か段級グレードではなくてフレンチグレードが採用されている。
なんとなく照合できるけど違和感があって、それがまた異国を感じさせて面白くもある。

次に登ったのは
ガンボルトキングSD(7b)
ガンボルトとラインは同じだけど。途中のムーブをランジに限定している課題。

曰く、この梁山泊という岩は、昔ジムが今ほど無い時代に、ジム代わりに多くのクライマーによって登られていた岩で、課題もただラインを指定したものだけでは飽き足らず、それこそジムのまぶし壁で課題を作るように、細かく使用するホールドを決めて作られた課題が多くあったとのこと。
このガンボルトキングなんかもその頃の名残。
今はもうトポで表せないような細かい限定のある課題は排除して、なるべくシンプルなライン取りの課題のみをトポに残すようにしているらしいが、昔は使用するホールド一つ一つすべてを指定したような課題もあったらしい。
なんとも興味深い話である。

次に登ったのは
モンキーフェイスSD(7b~7b+)


これは結構苦戦させられた。
外傾したホールドが多く、見た目よりストレスフルな動きを要求される。
色々ムーブを試行錯誤させられたが、最終的にしっくりくるムーブを一つ見つけたらあっさり登れた。
これは面白い。

次に、優しい地元クライマーさんが
「まだトポには載ってないんだけど」
と紹介してくれた

跳び熊(7a+)

羆嵐(7a+)

を登る。
「同じ7a+というグレードなんだけど明らかに羆嵐のほうが難しいと評判なんですよ」
と言われたが確かにそうだった。

跳び熊はジムで登りこんでる最近のクライマーならそう難しくないだろうが、羆嵐は岩にうまく体をはめ込む巧さとパワーを要求してくる。
どちらも良課題だった。

その後奥さんのトライのサポートとかをしつつ簡単な課題をいくつか登って終了。

夕方から雨が降る予定で、登っている間も湿度は80%。
宿のチェックイン時間の兼ね合いで滞在時間は4時間ほど。

そんな条件の中だったけど、面白い課題が結構たくさん登れて大満足。

奥さんは1個しか課題は完登できなかったけど、コロポックルっていう6a+(三級くらい)の課題を最後まで一生懸命打ち込んでて悔し楽しそうだった。
(コロポックルは僕もやったけどクラシカルな名課題だった。)

「観光も楽しいけど、岩を登った今日のほうが何倍も楽しかった!」
と言って貰えて、岩に来た甲斐があったと思う。

色々登って楽しかったというのもあるけど、
今回の旅では、優しい地元クライマーの方に出会えたということがかなりの収穫だった。

この梁山泊という岩が地元のクライマーにとってどのように登られてきたかの歴史であるとか、課題のライン取り、それぞれの課題の地元民からの評判など、有意義な情報をたくさん聞くことができた。

僕はボルダリングという行為を、より深い孤独を獲得するために有用な行為だと思っている。
でも、逆にこのように、土地も時間も遠いところに居るクライマーと「何か」を共有できる行為でもある。
岩を登るという単純な行為が、旅をより深く広くしてくれる。
なんとも素晴らしいじゃあないか。


2019年9月12日木曜日

映画「フリーソロ」を観て


散々話題になっている映画

「フリーソロ」

を観てきた。

この映画を観終わった後に僕の精神を襲ったのは大きな感動と歓心、それと嫉妬だった。

まず、この映画を観る以前に僕はアレックス・オノルドというクライマーに対して大きく間違ったイメージを持っていたということを白状しなければならない。

約1kmほどのフリーソロを達成するような人物は、
どこか頭のネジが吹っ飛んでいて、かつ、ほとんど人外の技術や体力をその身に修めているんだろうとばかり思っていた。

この映画を観るにあたって僕は
「超越した技術と体力を持った、何ものをも恐れない超人が繰り出す、神のような御業を拝見させていただこう」

そんな気持ちで映画館に足を運んだ。

だが実際にはアレックス・オノルドという人物は
埒外の超人でも、人外の精神を宿した半人半神のような存在ではなく、
ただただ「人間」だった。

この映画はそんな「人間」アレックス・オノルドをしっかりと描き切っていた。

アレックスは決して恐怖を感じないわけでも、死をなんとも思っていないわけでも、命がけのギャンブルを楽しんでいるわけでもない。

フリーソロを行う上でアレックスが抱えている葛藤や、積み上げた努力や、組み上げた方法論なんかは、全部が全部深く共感できる人間のそれだった。

僕自身、どちらかというとアレックスのような生き方に憧れを抱いている人間のうちの一人だ。

というか、
どんなかかわり方であれ、クライミングにそれなりの深さで「ハマって」いるような人間は、アレックスの生き方を理想に思わないはずがない。

でも、色々な考えがその生き方を妨害する。

安定、保障、幸福、平穏、安寧、評価、栄光。

「普通の人」が人生に求める多くのもの。

その多くのものを少しでもたくさん得るためには、どこかで「アレックス的な生き方」には見切りをつけなきゃならない。

(そしてその見切りをつけた自分を肯定するために「アレックス的な生き方」を否定する側に立ってしまうこともある)

勿論僕も、その、見切りをつけてしまって生きている「その他大勢の人間」のうちの一人だ。

アレックスがもっと超越的な人間なら良かったのにと思う。

なんの共感もできないクレイジーなぶっとび野郎だったらこんな風に嫉妬なんかしなかった。

でも映画の中のアレックスは驚くほど「人間」で、だから僕はその生き方や在り方に嫉妬してしまった。

劇中ラストでアレックスが完登したシーンは身体中が震えるほど感動したが、
その感動したという事実にまた悔しく思った。

「俺はいつから他人の成功なんかに感動するようになっちまったんだ」
と。

感動したいんだったら映画を観るんじゃなくて自分でそこを登りに行くべきなんじゃないかと。

他人の成功に便乗した借り物の感動なんかで満足するような人間なんかではありたくない。
そういう風な衝動を思い起こさせてくれたのもまたこの映画のおかげでもある。

アレックスがフリーライダーのルートを登る上でメモした情報の量は莫大なものだっただろうと思う。
何百手?あるいは何千手?の手順を恐らくほとんど全部メモに収めて、しかもそれを暗記していたようだ。
(フリーソロを)登るときは考えてない。考えることは事前に終わっている。自動操縦のように体を動かすだけ。と言っているが、それをなすためにどれくらいの時間と執念と理性と精神とを必要とするのか。

僕は今までボルダーにおいて結構「自分の限界に挑戦」をしてきたほうだと思っていた。
執念と時間をかけてひとつの課題に打ち込むほうだと思っていた。
「打ち込み系クライマー」を自称していた。
この映画を観た後だと「打ち込む」ってことがどういうことなのか、改めて考えなければならないと思わされる。


まだまだ書くべきことはたくさんあるような気がするけど、
とりあえずこのくらいにしておく。

映画のレビューというより自分のことばっかり書いてしまった。

とにかく、この映画はクライマーなら必ず観るべきだと思う。

クライマーじゃなくても観て面白いと思う。

この映画のラスト、フリーソロを完遂した後に監督のジミー・チンがアレックスに

「この後の予定は?」

と聞いて

「とりあえず懸垂かな」

とアレックスは答える

「今日くらいは休めよ」

と笑いながらジミーが言ってエンディングに入る。

僕も何か大きな目標を達成した直後に予定を聞かれたときに

「とりあえず懸垂かな」

と答えられるようなクライマーになりたい。

2019年9月6日金曜日

残暑お見舞いの下仁田

前回の更新からまるっきり二か月!

失踪したわけでも死んだわけでもありません。

まあ8月は仕事や私用でスケジュールがバッチリみっちり埋まっていたのと、暑さで岩どころではなかったのと、

あとなにより
新潟が誇るローカルボルダー
三面ボルダーが土砂崩れによってアクセスできなくなってしまったということ

が更新のまるっきり途絶えていた理由です。

三面については、ちょっと管理者に問い合わせたところ
2019年中の道路開通は絶望的
ということで

今シーズンの僕の輝かしい三面ライフは完全に失われてしまった。


とまあ消沈したりなんだりしていたけども

9月はちょっとスケジュール的に余裕が出てきたので

ハイシーズンに向けて
またのんびりと体を岩になじませていこうと思う。

まず第一弾として今日(9/6)は

下仁田ボルダー

下仁田を選んだ理由はまず単純に距離

新潟からだと御岳にいくより1時間ほど早い!

あと優しい課題が多そうだしランディングもよさそう。
(これは同行者の都合)

自分としてもほぼ初めて行く場所だし
(実は以前一回行ったことだけはあるんだけど、台風直後で水没してて泣きながらUターンして帰った思い出だけがある)
初見の課題をたくさん触ってエンジョイする気持ちで行こうと思っていた。

まあゆうてももう9月だし

コンディションもそう悪くないはず!

と意気込んで行ったものの・・・

まーだまだあっっつい!!

日なたでマット広げるともうマットの上は裸足ではとても乗れないくらい熱を持つ。

日陰ではまあまだマシだったので、まずは橋の下から。

橋の下はちょうど昼頃まで良い感じに日陰でになっていて、しばらくそこでだらっと過ごした。

マンナン太郎(初/二段)は登れたものの、
それより右側にある課題の足元が変な感じに水没してて、結局ここで登ったのはそのマンナン太郎と、あと、その左にある5級。
この5級が結構高さも動きもあって面白かった!


マンナン太郎、どうも後で確認するとみんなが登ってるラインと若干ズレがあるっぽいけど…
限定があるってわけでもなさそうだし細けえことはいいんだよ!の精神で行く。
これはこれで面白かったし、岩くらい好きに登らせてくれや!ってことで。

午後になると
タッキートラバース(初段)
の岩の辺りが日陰になっていたので移動。



うっかり1撃してしまったので、動画用に再登。逆光ひどいな。
この後この岩の3級と2級も登ったけど正直タッキートラバース含め全部グレード一緒くらいに感じた。タッキートラバースが易しめなのか他の3~2級がカラいのか…?

その後またちょっと移動して

今度は日野ランジ(初段)


これはぶっちゃけ苦戦した。
やっぱりランジは苦手ですわ。
なんとかスマートな飛び出し方は無いものかとあーだこーだ悩んだ後、上裸になって右手カチ持ちして声出したら行けた。
やっぱランジって気合だわ(確信)

んで、もう結構遅い時間だったけど
「1撃するからもう一個だけ登らせて」
って同行者に許可をとって

道化師(初段)を1撃。
得意な感じだった。
というよりこういうたぐいの課題はミウラーウーマン履いときゃなんとかなる。
上部ヌメヌメで実はかなり怖かった。

その後同行者の、あさイチでやって登れなかった4級課題のリベンジに付き合って(無事完登!エラい!)終了!


あーーーーーーーーーー!

岩!

たのしーーーーーーーー!

やっぱ岩登りって本当に楽しい!

そう再確認した1日。