2019年9月12日木曜日
映画「フリーソロ」を観て
散々話題になっている映画
「フリーソロ」
を観てきた。
この映画を観終わった後に僕の精神を襲ったのは大きな感動と歓心、それと嫉妬だった。
まず、この映画を観る以前に僕はアレックス・オノルドというクライマーに対して大きく間違ったイメージを持っていたということを白状しなければならない。
約1kmほどのフリーソロを達成するような人物は、
どこか頭のネジが吹っ飛んでいて、かつ、ほとんど人外の技術や体力をその身に修めているんだろうとばかり思っていた。
この映画を観るにあたって僕は
「超越した技術と体力を持った、何ものをも恐れない超人が繰り出す、神のような御業を拝見させていただこう」
と
そんな気持ちで映画館に足を運んだ。
だが実際にはアレックス・オノルドという人物は
埒外の超人でも、人外の精神を宿した半人半神のような存在ではなく、
ただただ「人間」だった。
この映画はそんな「人間」アレックス・オノルドをしっかりと描き切っていた。
アレックスは決して恐怖を感じないわけでも、死をなんとも思っていないわけでも、命がけのギャンブルを楽しんでいるわけでもない。
フリーソロを行う上でアレックスが抱えている葛藤や、積み上げた努力や、組み上げた方法論なんかは、全部が全部深く共感できる人間のそれだった。
僕自身、どちらかというとアレックスのような生き方に憧れを抱いている人間のうちの一人だ。
というか、
どんなかかわり方であれ、クライミングにそれなりの深さで「ハマって」いるような人間は、アレックスの生き方を理想に思わないはずがない。
でも、色々な考えがその生き方を妨害する。
安定、保障、幸福、平穏、安寧、評価、栄光。
「普通の人」が人生に求める多くのもの。
その多くのものを少しでもたくさん得るためには、どこかで「アレックス的な生き方」には見切りをつけなきゃならない。
(そしてその見切りをつけた自分を肯定するために「アレックス的な生き方」を否定する側に立ってしまうこともある)
勿論僕も、その、見切りをつけてしまって生きている「その他大勢の人間」のうちの一人だ。
アレックスがもっと超越的な人間なら良かったのにと思う。
なんの共感もできないクレイジーなぶっとび野郎だったらこんな風に嫉妬なんかしなかった。
でも映画の中のアレックスは驚くほど「人間」で、だから僕はその生き方や在り方に嫉妬してしまった。
劇中ラストでアレックスが完登したシーンは身体中が震えるほど感動したが、
その感動したという事実にまた悔しく思った。
「俺はいつから他人の成功なんかに感動するようになっちまったんだ」
と。
感動したいんだったら映画を観るんじゃなくて自分でそこを登りに行くべきなんじゃないかと。
他人の成功に便乗した借り物の感動なんかで満足するような人間なんかではありたくない。
そういう風な衝動を思い起こさせてくれたのもまたこの映画のおかげでもある。
アレックスがフリーライダーのルートを登る上でメモした情報の量は莫大なものだっただろうと思う。
何百手?あるいは何千手?の手順を恐らくほとんど全部メモに収めて、しかもそれを暗記していたようだ。
(フリーソロを)登るときは考えてない。考えることは事前に終わっている。自動操縦のように体を動かすだけ。と言っているが、それをなすためにどれくらいの時間と執念と理性と精神とを必要とするのか。
僕は今までボルダーにおいて結構「自分の限界に挑戦」をしてきたほうだと思っていた。
執念と時間をかけてひとつの課題に打ち込むほうだと思っていた。
「打ち込み系クライマー」を自称していた。
この映画を観た後だと「打ち込む」ってことがどういうことなのか、改めて考えなければならないと思わされる。
まだまだ書くべきことはたくさんあるような気がするけど、
とりあえずこのくらいにしておく。
映画のレビューというより自分のことばっかり書いてしまった。
とにかく、この映画はクライマーなら必ず観るべきだと思う。
クライマーじゃなくても観て面白いと思う。
この映画のラスト、フリーソロを完遂した後に監督のジミー・チンがアレックスに
「この後の予定は?」
と聞いて
「とりあえず懸垂かな」
とアレックスは答える
「今日くらいは休めよ」
と笑いながらジミーが言ってエンディングに入る。
僕も何か大きな目標を達成した直後に予定を聞かれたときに
「とりあえず懸垂かな」
と答えられるようなクライマーになりたい。
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終盤のインタビューのやり取りはジミーではなく、Mark Synnottさん(クライマー/山岳ライター/冒険家)です。連絡先わからず、ここに書き込みました。すみません。
返信削除https://www.marksynnott.com/
https://www.thenorthface.com/about-us/athletes/mark-synnott.html