2019年9月21日土曜日

神居古潭の梁山泊

新婚旅行で北海道へ一週間。

のんびりと観光だけを楽しむつもりだったけど、

やっぱり折角だから岩も登りたいという気持ちを抑えられず、一日だけ岩を登る日とすることにした。

当初の目的地はニニウの岩場だったけど、どうも前日に道を調べていると、
ニニウに至る北海道道610号占冠穂別線が通行止めになっているようで、

仕方なく逆方向の旭川方面へ。

第二候補ではあったけど、結局のところこちらにしても大正解だった。

岩場の場所は

旧神居古潭駅のある場所で、

駐車場に売店、トイレまで完備された立派な観光地でもあった。

旧神居古潭駅舎や、SLの車両まで飾ってあって、それを観るだけでも来る価値のある場所かもしれない。

そんな旧神居古潭駅舎からさらに10分ほどのアプローチで、
エリアのメイン岩であると思われる梁山泊に到着。

トポで「高い岩」ということは確認していたが、目の前にすると改めて高さを感じる。

中央の一番高いところは約6m。

地元クライマーの方がトップロープを張って練習していた。

その地元の優しいクライマーの案内もあり、色々な課題を登ることができた。

まず

ガンボルトSD(7a~7a+)

ここは何故か段級グレードではなくてフレンチグレードが採用されている。
なんとなく照合できるけど違和感があって、それがまた異国を感じさせて面白くもある。

次に登ったのは
ガンボルトキングSD(7b)
ガンボルトとラインは同じだけど。途中のムーブをランジに限定している課題。

曰く、この梁山泊という岩は、昔ジムが今ほど無い時代に、ジム代わりに多くのクライマーによって登られていた岩で、課題もただラインを指定したものだけでは飽き足らず、それこそジムのまぶし壁で課題を作るように、細かく使用するホールドを決めて作られた課題が多くあったとのこと。
このガンボルトキングなんかもその頃の名残。
今はもうトポで表せないような細かい限定のある課題は排除して、なるべくシンプルなライン取りの課題のみをトポに残すようにしているらしいが、昔は使用するホールド一つ一つすべてを指定したような課題もあったらしい。
なんとも興味深い話である。

次に登ったのは
モンキーフェイスSD(7b~7b+)


これは結構苦戦させられた。
外傾したホールドが多く、見た目よりストレスフルな動きを要求される。
色々ムーブを試行錯誤させられたが、最終的にしっくりくるムーブを一つ見つけたらあっさり登れた。
これは面白い。

次に、優しい地元クライマーさんが
「まだトポには載ってないんだけど」
と紹介してくれた

跳び熊(7a+)

羆嵐(7a+)

を登る。
「同じ7a+というグレードなんだけど明らかに羆嵐のほうが難しいと評判なんですよ」
と言われたが確かにそうだった。

跳び熊はジムで登りこんでる最近のクライマーならそう難しくないだろうが、羆嵐は岩にうまく体をはめ込む巧さとパワーを要求してくる。
どちらも良課題だった。

その後奥さんのトライのサポートとかをしつつ簡単な課題をいくつか登って終了。

夕方から雨が降る予定で、登っている間も湿度は80%。
宿のチェックイン時間の兼ね合いで滞在時間は4時間ほど。

そんな条件の中だったけど、面白い課題が結構たくさん登れて大満足。

奥さんは1個しか課題は完登できなかったけど、コロポックルっていう6a+(三級くらい)の課題を最後まで一生懸命打ち込んでて悔し楽しそうだった。
(コロポックルは僕もやったけどクラシカルな名課題だった。)

「観光も楽しいけど、岩を登った今日のほうが何倍も楽しかった!」
と言って貰えて、岩に来た甲斐があったと思う。

色々登って楽しかったというのもあるけど、
今回の旅では、優しい地元クライマーの方に出会えたということがかなりの収穫だった。

この梁山泊という岩が地元のクライマーにとってどのように登られてきたかの歴史であるとか、課題のライン取り、それぞれの課題の地元民からの評判など、有意義な情報をたくさん聞くことができた。

僕はボルダリングという行為を、より深い孤独を獲得するために有用な行為だと思っている。
でも、逆にこのように、土地も時間も遠いところに居るクライマーと「何か」を共有できる行為でもある。
岩を登るという単純な行為が、旅をより深く広くしてくれる。
なんとも素晴らしいじゃあないか。


2019年9月12日木曜日

映画「フリーソロ」を観て


散々話題になっている映画

「フリーソロ」

を観てきた。

この映画を観終わった後に僕の精神を襲ったのは大きな感動と歓心、それと嫉妬だった。

まず、この映画を観る以前に僕はアレックス・オノルドというクライマーに対して大きく間違ったイメージを持っていたということを白状しなければならない。

約1kmほどのフリーソロを達成するような人物は、
どこか頭のネジが吹っ飛んでいて、かつ、ほとんど人外の技術や体力をその身に修めているんだろうとばかり思っていた。

この映画を観るにあたって僕は
「超越した技術と体力を持った、何ものをも恐れない超人が繰り出す、神のような御業を拝見させていただこう」

そんな気持ちで映画館に足を運んだ。

だが実際にはアレックス・オノルドという人物は
埒外の超人でも、人外の精神を宿した半人半神のような存在ではなく、
ただただ「人間」だった。

この映画はそんな「人間」アレックス・オノルドをしっかりと描き切っていた。

アレックスは決して恐怖を感じないわけでも、死をなんとも思っていないわけでも、命がけのギャンブルを楽しんでいるわけでもない。

フリーソロを行う上でアレックスが抱えている葛藤や、積み上げた努力や、組み上げた方法論なんかは、全部が全部深く共感できる人間のそれだった。

僕自身、どちらかというとアレックスのような生き方に憧れを抱いている人間のうちの一人だ。

というか、
どんなかかわり方であれ、クライミングにそれなりの深さで「ハマって」いるような人間は、アレックスの生き方を理想に思わないはずがない。

でも、色々な考えがその生き方を妨害する。

安定、保障、幸福、平穏、安寧、評価、栄光。

「普通の人」が人生に求める多くのもの。

その多くのものを少しでもたくさん得るためには、どこかで「アレックス的な生き方」には見切りをつけなきゃならない。

(そしてその見切りをつけた自分を肯定するために「アレックス的な生き方」を否定する側に立ってしまうこともある)

勿論僕も、その、見切りをつけてしまって生きている「その他大勢の人間」のうちの一人だ。

アレックスがもっと超越的な人間なら良かったのにと思う。

なんの共感もできないクレイジーなぶっとび野郎だったらこんな風に嫉妬なんかしなかった。

でも映画の中のアレックスは驚くほど「人間」で、だから僕はその生き方や在り方に嫉妬してしまった。

劇中ラストでアレックスが完登したシーンは身体中が震えるほど感動したが、
その感動したという事実にまた悔しく思った。

「俺はいつから他人の成功なんかに感動するようになっちまったんだ」
と。

感動したいんだったら映画を観るんじゃなくて自分でそこを登りに行くべきなんじゃないかと。

他人の成功に便乗した借り物の感動なんかで満足するような人間なんかではありたくない。
そういう風な衝動を思い起こさせてくれたのもまたこの映画のおかげでもある。

アレックスがフリーライダーのルートを登る上でメモした情報の量は莫大なものだっただろうと思う。
何百手?あるいは何千手?の手順を恐らくほとんど全部メモに収めて、しかもそれを暗記していたようだ。
(フリーソロを)登るときは考えてない。考えることは事前に終わっている。自動操縦のように体を動かすだけ。と言っているが、それをなすためにどれくらいの時間と執念と理性と精神とを必要とするのか。

僕は今までボルダーにおいて結構「自分の限界に挑戦」をしてきたほうだと思っていた。
執念と時間をかけてひとつの課題に打ち込むほうだと思っていた。
「打ち込み系クライマー」を自称していた。
この映画を観た後だと「打ち込む」ってことがどういうことなのか、改めて考えなければならないと思わされる。


まだまだ書くべきことはたくさんあるような気がするけど、
とりあえずこのくらいにしておく。

映画のレビューというより自分のことばっかり書いてしまった。

とにかく、この映画はクライマーなら必ず観るべきだと思う。

クライマーじゃなくても観て面白いと思う。

この映画のラスト、フリーソロを完遂した後に監督のジミー・チンがアレックスに

「この後の予定は?」

と聞いて

「とりあえず懸垂かな」

とアレックスは答える

「今日くらいは休めよ」

と笑いながらジミーが言ってエンディングに入る。

僕も何か大きな目標を達成した直後に予定を聞かれたときに

「とりあえず懸垂かな」

と答えられるようなクライマーになりたい。

2019年9月6日金曜日

残暑お見舞いの下仁田

前回の更新からまるっきり二か月!

失踪したわけでも死んだわけでもありません。

まあ8月は仕事や私用でスケジュールがバッチリみっちり埋まっていたのと、暑さで岩どころではなかったのと、

あとなにより
新潟が誇るローカルボルダー
三面ボルダーが土砂崩れによってアクセスできなくなってしまったということ

が更新のまるっきり途絶えていた理由です。

三面については、ちょっと管理者に問い合わせたところ
2019年中の道路開通は絶望的
ということで

今シーズンの僕の輝かしい三面ライフは完全に失われてしまった。


とまあ消沈したりなんだりしていたけども

9月はちょっとスケジュール的に余裕が出てきたので

ハイシーズンに向けて
またのんびりと体を岩になじませていこうと思う。

まず第一弾として今日(9/6)は

下仁田ボルダー

下仁田を選んだ理由はまず単純に距離

新潟からだと御岳にいくより1時間ほど早い!

あと優しい課題が多そうだしランディングもよさそう。
(これは同行者の都合)

自分としてもほぼ初めて行く場所だし
(実は以前一回行ったことだけはあるんだけど、台風直後で水没してて泣きながらUターンして帰った思い出だけがある)
初見の課題をたくさん触ってエンジョイする気持ちで行こうと思っていた。

まあゆうてももう9月だし

コンディションもそう悪くないはず!

と意気込んで行ったものの・・・

まーだまだあっっつい!!

日なたでマット広げるともうマットの上は裸足ではとても乗れないくらい熱を持つ。

日陰ではまあまだマシだったので、まずは橋の下から。

橋の下はちょうど昼頃まで良い感じに日陰でになっていて、しばらくそこでだらっと過ごした。

マンナン太郎(初/二段)は登れたものの、
それより右側にある課題の足元が変な感じに水没してて、結局ここで登ったのはそのマンナン太郎と、あと、その左にある5級。
この5級が結構高さも動きもあって面白かった!


マンナン太郎、どうも後で確認するとみんなが登ってるラインと若干ズレがあるっぽいけど…
限定があるってわけでもなさそうだし細けえことはいいんだよ!の精神で行く。
これはこれで面白かったし、岩くらい好きに登らせてくれや!ってことで。

午後になると
タッキートラバース(初段)
の岩の辺りが日陰になっていたので移動。



うっかり1撃してしまったので、動画用に再登。逆光ひどいな。
この後この岩の3級と2級も登ったけど正直タッキートラバース含め全部グレード一緒くらいに感じた。タッキートラバースが易しめなのか他の3~2級がカラいのか…?

その後またちょっと移動して

今度は日野ランジ(初段)


これはぶっちゃけ苦戦した。
やっぱりランジは苦手ですわ。
なんとかスマートな飛び出し方は無いものかとあーだこーだ悩んだ後、上裸になって右手カチ持ちして声出したら行けた。
やっぱランジって気合だわ(確信)

んで、もう結構遅い時間だったけど
「1撃するからもう一個だけ登らせて」
って同行者に許可をとって

道化師(初段)を1撃。
得意な感じだった。
というよりこういうたぐいの課題はミウラーウーマン履いときゃなんとかなる。
上部ヌメヌメで実はかなり怖かった。

その後同行者の、あさイチでやって登れなかった4級課題のリベンジに付き合って(無事完登!エラい!)終了!


あーーーーーーーーーー!

岩!

たのしーーーーーーーー!

やっぱ岩登りって本当に楽しい!

そう再確認した1日。