「楽に履ける靴が欲しい」
という動機から購入した
LA SPORTIVA
KUBO
1ヶ月以上履いて試してみたのでそろそろ使用感をレビューしようと思う。
ちなみにサイズは36.5を購入。
筆者は現在セオリーの36をメインシューズとして履いているが、
楽に履くために0.5サイズアップしてみた。
履き心地についても後述するが、そのサイズ差を踏まえて読んで欲しい。
セオリーとの形状比較
まずは形状を客観的に分析するために
手持ちのセオリーと比較してみる。
まず特筆すべきはトウボックスの厚み。
これはセオリーよりも明確に薄い。
セオリーは靴の中でしっかり足指を握って履くことを想定した作りになっているが
クボはそうではなく、どちらかというと足指は伸ばし気味で履くことを想定した作りになっていると言えるだろう。
幅はセオリーとほぼ変わらない。
履いてみるとむしろクボのほうがやや広いようにも感じるが
このあたりは感覚による誤差の範囲内だろうと思う。
次にヒールの形状。
これは履いた時に明確にセオリーよりも「浅い」と感じた。
しかし並べてみると踵全体の高さもスリングショット位置の高さもセオリーとそう変わらない。
ただよく見てみるとスリングショットの角度が大きく違っている。
(赤い範囲がセオリーのヒールカップ。青い範囲がクボのヒールカップ)
セオリーのスリングショットは浅い角度で土踏まずのほうまで伸びているのに比べ、
クボのスリングショットは急角度で、土踏まずのほうまでは伸びていない。
セオリーに比べ、クボのヒールカップはタテではなく奥行きの深さが浅いということになる。
このヒール形状については使用者によって評価が分かれるポイントになると思う。
ヒールがしっかり包まれている安心感が欲しい人にとっては居心地が悪いだろうが、
踵の骨が小さく、深いヒールカップだとダブつきと感じるような人にとってはバチっとハマるかもしれない。
爪先性能(乗り込みとかき込みの違いについて)
ここからは主観的な性能評価を記す。
しかしまず前置きとして
「かき込み」
と
「乗り込み」
という用語の違いをここで定義しておきたいと思う。
シューズレビューの記事において
「エッジング性能」
という言葉をよく目にするが、これは「かき込み性能」のことを言っているのか「乗り込み性能」のことを言っているのか、あるいはその両方のバランスを総合的に見たものなのか。
書き手と読み手の間にそれについてのハッキリした共通理解が無いまま進んでいることが多い。
クボの場合、その辺りをハッキリさせておかないと、その評価の根幹に影響してしまうので、今回の記事においては以下のように定義する。
「かき込み」
踏んでいるホールドを下半身の力等で引き寄せようとすることで(ホールドは固定されているので)踏んでいるホールドの方に身体を寄せていく行為。
→踏んでいる対象が固定されていないものの場合、身体ではなく対象物が自分に近寄る。
「乗り込み」
手のホールドを引くor押す、腰の位置をズラす等、かき込み以外の何らかの方法で踏んでいるホールドに対して自分の体重を乗せていく行為。
→踏んでいる対象が固定されていない場合でも、対象物は動かず自分が近寄る。
文章にするとなんだか回りくどくなるけどツイッターに動画を載せたので見て欲しい。
クボの話に戻すと、
クボの「かき込み性能」はかなり低い。
ほぼダウントウしておらず、ソールもビブラムXSEdgeという固いラバーのため、ホールドをかき込もうとするとスリップしやすい。
足から荷重が抜けやすい強傾斜では、その傾向はますます強まることになる。
やはり「かき込み性能」というのは
『剛性が低く』『ダウントウが強く』『ソールが柔らかく粘る』ほど高くなる傾向にある。
クボはそのどれをも満たしていない。
一方でクボの「乗り込み性能」はかなり高い。
前述したようにビブラムXSEdgeの固いソールが、細かいホールドにしっかり荷重しても負けずにいてくれる。
そして恐らくシャンクの入れかたに何かしらの工夫があるのだろうけど、ソールが固い割りに足裏感覚が良い。
サイズを緩めで履いたとしても安心してどんなホールドにも強く荷重をかけて乗っていける。
ハッキリ言ってクボは強傾斜の高難度課題を登る時に助けになってくれる靴ではない。
しかし、スラブ~緩傾斜においてはかなり難しい要求にも応えてくれる。
「この靴じゃうまく踏めない」というホールドはほとんど無いように思う。
ただ、足から荷重が抜けたり足への意識が希薄になった時に、靴自身の粘りで止まってくれるという事は期待できない。
爪先の性能について言えば、
「この靴のせいで登れなかった」
「この靴のおかげで登れた」
その両方ともに感じる機会の少ない靴と言えると思う。
フック性能
前述したようにヒールカップはやや小ぶりでそこは評価が分かれるだろうが、
単純にヒールの「かかりの良さ」という点で見るとその性能はハッキリ高い。
同メーカーのセオリー・フューチュラ・スクワマといったハイエンドモデルと比べても遜色ないと感じる。
二本締めベルクロの拘束力は高く、多少サイズを緩めで履いたとしても靴が脱げるようなことも無い。
逆にトウフックの際はやはり二本締めのベルクロが邪魔になる。
本当にトウフックの上手い人は親指の上だけでトウフックをかけられると言うが、
トウフック苦手民としてはしっかり足の甲の深いところでかけたい。
ベルクロより先にトウラバーも貼ってはあるが、特段フリクションに優れているというわけでもなく
このトウラバーの役割は、トウフックの補助というよりも、どちらかと言うとエッジングの際の力の入力を逃がさないようにするというのが主目的なのではないだろうか。
足入れ・足裏感覚
二本締めモデルはみんなそうかもしれないけどやはり足入れは良い。
ある程度長時間履いていても苦にならない。
同サイズのソリューションと比べれば5倍くらいの時間長く履いていられる気がする。
ただ注意しなければいけないのは前述したようにトウボックスが薄く作られているということ。
この靴はサイズを攻めてがっつり足がグーになるように履くことに向いていない。
逆にサイズを緩めで履いたとしても靴全体やソールの剛性によって細かいフットホールドに対応することができる。
普段サイズを攻めて履いている人も。この靴についてはハーフサイズか1サイズ上げておいた方がいいと思う。
トウボックスだけでなく甲の高さが全体的にスリムなので、甲高の足型の方にはそんなに合わないかもしれない。
足裏感覚はソールの固さの割に悪くない。
細かいホールドにもしっかり乗っている感覚があり、ホールドの凹凸を感じることができる。
4mmのビブラムXSEdgeでここまで感覚が伝わってくるというのは意外だった。
トウボックスの薄さ、ヒールカップの小ささ、足裏感覚の良い設計。
これらの特徴から、この靴は靴下を履かずに素足で履くことをオススメしたい。
使用者の足のサイズ・形状にもよるだろうが、靴下を履いてしまうとトウボックスがかなり窮屈に感じられ、足裏感覚が損なわれかねないし、小さいヒールカップにうまく踵が収まらないように感じるかもしれない。
このあたりは使用者の足型などとも関係してくるので一概には言えないが、少なくとも筆者はそのように感じている。
まとめ
クボは「勝負靴」と言えるほどなんでもこなせる万能選手でないことは確かだ。
しかし「練習用の靴」としてはかなり評価できる。
なんといっても「ソールが固い」というところが良い。
ソールの固さと靴全体の剛性をある程度保ちながらこの履き心地の良さを実現しているのは素晴らしい。
クライミングシューズは基本的に柔らかいほど履き心地が良くなる傾向にある。
さらに昨今のクライミングジム課題のホールド大型化が進んでいることにより、多くの人はジム履き練習用の靴として柔らかい靴を採用していると思う。
しかし柔らかい靴だけで練習していると、細かいフットホールドに「乗り込む」ことにどんどん抵抗が出てくる。
柔らかい靴ならハリボテやボリューム等の本来「乗り込む」べきホールドに対して「かき込む」ような動きで行ってもソールの粘りによって多少解決できてしまう。
柔らかい靴は細かいホールドに対して軽くひっかけることは簡単だが、しっかり加重していくと一定以上の重さをかけたあたりでソールが負けて一気に抜けてしまうようなことがある。
そうすると、「足に荷重をかけないほうが滑らない、足に強く荷重をかけると滑る」という感覚が無意識に刷り込まれることになってしまう。
そしてどんどん「足になるべく荷重をかけず登る」癖が身に付き「足に荷重をかけて登る」という感覚が失われていくことになる。
柔らかい靴は武器になるし、柔らかい靴のほうが得やすい技術も多くある。
しかし柔らかい靴だけをずっと練習用に使っていると乗り込みが苦手になるリスクはあると思う。
その点クボのような固さのあるフラットシューズは、しっかりと荷重をかければかけるほどホールドをしっかり捉えることができるし、逆に乗り込むべき場面で荷重を抜いたかき込みの動作をしてしまうと滑ってしまい、動作のエラーがわかりやすく示される。
そういった意味でも、クボは「練習用」に最適だと思う。
ひょっとしたらこの靴は昨今のソフトシューズブームが生むリスクに対するスポルティバからのメッセージなのかもしれない。
この靴で課題が登れたり登れなかったりした時、それは「靴のおかげ」でも「靴のせい」でもなく自分の技術によるものだと納得させられる。そんなシューズだと感じる。
個人的にはしばらくリピートして使い続けたい靴だ。
次に買う時はもうハーフサイズ上げて試してみてもいいかなと思っている。