2020年7月2日木曜日

子どもに登らせることについて

最近、自分の中で低学年の小学生や未就学児にボルダリングを教える機会が多くなってきた。

これは大人にボルダリングを教えることに比べて本当にリスクの大きいことだというのは最初から知ってはいたが、じゃあ具体的にどうリスクがあるのかというのはよくわかっていない部分も多かった。

子どもはジムという環境やボルダリングというスポーツの危険性を正しく理解していない(できない)とか、思考・メンタル面のリスクは誰でもまず気づくことではあると思うが、多く子どもに接しているうちに子どもの身体的特徴によるリスクがより強く浮彫になってきたのでそれを少しまとめてみたいと思う。

まず一言で言うと
「子どもの身体は大人の身体のミニチュアではない」
ということだ。

子どもの身体は、大人に比べて単純に小さいというだけではなく、両者の間には様々な差異がある。それを以下に記していく。

①重心の違い

子どもは大人よりも身長に対しての頭が大きいため、重心位置が上にある。




②柔軟性の違い

子どもは大人よりも柔軟性が高い。
柔軟性が高いと言うと単にメリットに聞こえるが、関節や筋肉が「ゆるい」ということでもあり、リスクにもつながる。

③脚力の違い(腕力:脚力 比)

腕力と比べた時、子どもは大人よりも脚力が弱い。
例えば、片足ケンケン状態で30cmほどの高さの障害物を跳び越えられない大人はほぼ居ないが、5歳前後の子どもは15cmほどの高さの障害物でも片足では跳び越えられないケースが多かった。
かわりに、メトリウスの3XLサイズのキャンパスラングに両手でどれだけの時間ぶら下がっていられるかといったテストでは大人と子どもでは記録に遜色がなかった(むしろ子どものほうが好記録が多い)。
「パワーウェイトレシオ」という観点で言えば子どもは大人ほどはっきりと「脚力>腕力」の図式がはっきり当てはまらない

④肌質の違い

ほぼ例外なく子どもの手はしっとりしている。乾燥することはあまりなく、皮膚も薄く柔らかい。緊張等による手汗の過剰分泌も起こりづらい。



ボルダリングを教える上で特に強く留意したいのは上記の4つだと思う。

その上で、それがどうボルダリングに関係してくるのかというと

・クライムダウンの重要性

①~③の理由で、子どもは大人に比べて(柔らかいマットに「きちんとした姿勢」で落ちるとしても)落下ダメージが大きい。特に、関節や筋肉・骨以外にも、脳が揺さぶられるダメージが大人と比べて顕著に違うと言える。
子どもに登らせる課題は、より低い位置にゴールと設定し、その上でクライムダウンルートも確保してあるべきだというのは誰でも知っているが、その重要度をより深く理解すべきだ。
「マットがきちんとしていて、正しい着地姿勢をとれば安全」は骨格のしっかりした大人にのみ当てはまる理屈であり、子どもの場合完璧な着地であっても常に脳へのダメージは蓄積する。大人は落下時の怪我のリスクを捻挫や骨折といった外傷にピントを当てているからそのことに気づきづらい。

・選択するムーブの違い

これも①~③の理由による。
「大人だったらこれが正しい」という動きが子どもの身体では間違っていることや
「大人だったらこれは間違い」が子どもの身体なら適切ということがある。
指導者は大人のクライミングフォームを子どもに押し付けないよう注意すべきだし、大人と子ども両方にとって正しいことでも、納得の度合いに違いが出ることを留意しておくべき。
例えば「腕力よりも足を使え!」というのは③の理由で大人に比べて子どもには納得しづらい。重心の違いから、適正な足位置も変わる。
単純に大人のクライマーの小サイズ版という認識でムーブ指導をすると、子どもの身体にとってはかえって登りづらいムーブになっているということがままある。

・チョーク使用の有無

④の理由から、多くの場合子どもはチョークを使用しなくてもいいのではないかと考えている。
実際に子どもたちから「チョークをつけるとかえってサラサラしてすべりやすい」という声をよく聞く。
クライミングをする時はチョークを付けるものだという先入観で、子どもにも同じ行動を押し付けるべきではない。勿論、チョークをつけるのが悪いということではなく、本人が必要だと感じたなら使わせてあげるべきだ。

・・・

クライムダウンの重要性は今更だし、チョークはつけたところで害があるわけでもないので、特に留意すべき点は「選択するムーブの違い」だろう。
これは本当に相当気を付けていないと、教える側はつい大人にあてはまるロジックで教えてしまう。
技術的な指導をする時は、それが
「大人には適正だが子どもには適正ではない方法」なのか
「大人には適正ではないが子どもには適正な方法」なのか
「大人にも子供にも適正な方法」なのか
それをよく考える必要がある。


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