2016年12月18日日曜日

憧憬


岩を登りたい、

強くなりたい、

といったことに対しての、いちばん始めのモチベーションっていうのは

僕の場合、憧れから来ている、と思う。


岩の形状のかっこよさに対してだったり

課題のラインの美しさに対してだったり

高いグレードに対してだったり

自分より強いクライマーに対してだったり


そういったものに対して憧れがあるから、

登りたいという気持ちがまず芽生える。

そこからさらに色々な感情が交えられてもう少し成熟したモチベーションが形成されるわけだけど、

とにかくスタート地点はそこだ。


僕にはひとつ

とりわけ強い憧れをもった課題があった。


冷酷(四段)


地元新潟に居たころから名前は知っていた課題で、

そしてこっち(神戸)に引っ越してきてから初めて見た四段の課題だった。

約二年前のことだ。

当時の自分にとっては、
四段というグレードはただただ見上げるだけのものでしかなかったということ。

一目で難しいと分かる威圧的な形状。

ダイナミックでかっこいいムーブ。

いっぺんで憧れた。

この課題は自分にとってある種の「難しい課題の象徴」のようなものになった。

「いつかこんな課題が登れたら最高だろうな」

と、確かにそのとき思っていた。

この時点では「冷酷を登る」ってことは、漠然とした夢や希望の類だった。


そんな憧れの課題ではあったが、

今年に入って四段を登り、

そろそろ登れそうだと目処がたったので、

11月下旬、久しぶりに触ってみた。


登れると確信した。

約二年の期間を経て、この課題は夢や希望のような漠然さを失い、

明確な達成すべき目標足りえる具体性を持つに至っていた。


冷酷を登る、ということを今年最後の目標に設定した。


そして今日

12月18日

その目標は達成された。



以前登った二つの四段、ボブとニンギルスと比べて、冷酷のほうが難しかったとはあまり思わない。

でもやはりこの課題には思い入れがあった分、落としたときはなにか特別な嬉しさがあった。

二年前憧れていた地点まで間違いなく自分は到達しているんだという感慨があった。


しかしながら、

こうしてひとつの憧れを完結させたわけだけれども、

これで自分のクライミングが一区切りされるかというとそんなことも全く無い。

そういうふうにはちっとも思わない。

もう既に次の目標はあるし、まだまだ憧れている課題や人や岩は山ほどある。


憧れの対象が何一つ無くなりでもしない限り、
自分のクライミングのモチベーションは無くならないと思うし、

憧れの対象が無くなるなんてことはほとんどあり得ない。

だから多分このクライミング欲はずっと尽きることはないと思う。